第41話 決闘日和

 決闘の朝、少し早く起きて自室にて洗面器で顔を洗う。


 時期は夏だが朝方は毛布に包まるくらいに寒く、温水機能なん便利なものはない、冷たい水で顔を洗い、寝ぼけていた頭を現実に引っ張った。

 タオルで顔を拭いた後、水面に映る自分の顔をじっくりと観察した。


 どこにでもいそうな普通の顔、散髪を忘れていたせいで人より少し長くなってしまった髪、毎日学校のトイレや家のふろ場で見慣れた形をしている。

 ひとつ違うのは顔の右半分を覆う火傷の跡、黒龍との戦闘で負ってしまったこの傷に気づいたのは言峰が自分の部屋に来たとき服を着替える途中だった。

 あの時は前髪とマスクで何とかごまかしたが、改めてまじまじと自分の顔を観察してみると目つきの悪さも相まって、完全に漫画で見るヤクザである。

 こんな顔をクラスメイト達の前に晒せば、無難にはすまないだろう。


 いつものように顔を隠したいのだが、今回の決闘は王国側から公式に発表されており、指定された服しか着れない、マスクなんてもってのほかだそうだ。

 仕方がないので指定された服のうち、顔の隠れるフードのついたローブを選ぶ。

なんでもこのローブは王国に仕える【魔術師メイジ】達の正装らしい、ローブといってもゲームのようにゴワゴワしているものではなく、動きやすさを追求しておりパーカーのついたベストを足のところまで長くした物に似ている、実際【戦士ウォーリアー】と自称している自分が来ても違和感がない。


 そして自分は決闘で使う武器を選ぶ、

 ダンジョンを攻略したことによって魔剣が進化し、【黒剣・双影】なるものになっていた。

 しかし王国で使う剣が決められているためこれらも使えない。

目の前にずらりと並べられて武器は一見するとただの剣やメイスに見えるが、【鑑定眼力サーチアイ】を使ってみるとどれも装備者のステータスを下げる【呪い】が付与されたいることが分かった。

 おそらく元老院が手を回して、自分を確実に負けさせるために裏工作をしたのだろう。


 特殊エクストラスキル【完全耐性】があるため、この程度の【呪い】にはかからないし呪いがかかったとしても、2000オーバーの自分のステータスには微々たるものでしかない。

 躊躇うことなく、手元にあったロングソードとなんの特徴もない短剣2つを選んで腰に差した。



◆◆◆



 王城前の広場にて勇者召喚されたことが正式に発表された。

 しかし、発表された勇者は言峰を含めた10人だった、自分を含めたほかのクラスメイトは王城の関係者として出席している。

 自分を勇者とするのは王国側としても都合が悪いので発表しなかったのはわかる。

 しかし、それならば発表された10人に入らなかった他のクラスメイトの立ち位置はどうなるのか?

 考えるに、彼らは『ストック』なのだ。

 仮に魔王軍との戦闘で、発表された10人のうち誰かが怪我をして戦線を離脱した場合、代わりが入ることで王国側の士気が下がらないようにする対策なのだ。

 なんとも不憫な立場に当たってしまっものだ。


「両者、前へ」

 人の心配をしている場合ではない、こちらもこちらで大変なことになっているのだ。

 発表と同時に、今回の決闘も国民の前で盛大に行われる。

 民衆は自分に対して軽蔑や憎悪の目線を向けてくる、中には罵声なんかも聞こえた。


 虐げられている少女を悪党から救う勇者、これほど後の展開がわかりやすい茶番はない。

 魔王軍とのにらみ合いが続く中、自分はその不満のはけ口にされたのだろう。

 そうして、言峰と自分は対峙した。




 この茶番はどこかの世界、場所は神聖ルベリオス王国。


 王城の前の広場に群衆ができていた。

 彼らの注目する先にいるのは自分と言峰。


 言峰は金色の装備に身にまとい、その装備に劣らない豪華な聖剣を下げている。


 自分は全身真っ黒のフードを被り、特に珍しくない双剣を持っている。


 まるで正義と悪を体現させたかのような自分と言峰は群衆からそれぞれ視線を浴びていた。

 期待と羨望、憎悪と軽蔑

どちらがどちらか言うまでもないだろう。

特に黒フードに対してひと際軽蔑の念を向けているのは言峰の後ろにいる桐埼琴葉、今回の発表で正式に国から聖女として認められたらしい。

 彼女の腕の中にはティファがいる。

 思わず守りたくなってしまいそうなほどに小刻みに震えており、自分に対して恐怖の念を抱いていた。

 もちろん【鑑定眼力サーチアイ】で見ればそれは嘘なのだが。

 誰だって少女の涙には弱い、柿本の言葉を借りるなら『可愛いは正義』だ


 言峰が話し出す。

「最後に聞いておく、ティファを解放する気はあるか?」


 自分が答える。

「ないね。もうさんざん言っただろう?」

あぁどうしよう、かなりの人数に注目されているおかげで緊張して若干声が震えてしまった。


「そうか…」

 言峰がうつむき、


「ならば断罪する」

 こちら向かって駆け出した。


「そうかい」

 自分もまた、双剣を構え受けて立つ。


 ほんのひと月前まで、違う世界のとあるクラスで同じ時間を過ごしていた。

 しかし今はどうだろう、

 何としてもティファを取り返したい言峰と、目的のために戦うことを選んだ自分。

 双方もう後には引けない。

 この戦いが終わるとき、どちらかが地に付しているのは明白だろう。


 言峰が叫ぶ






























「行くぞ!! 影山!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る