第43話 エピローグ
「ん、お疲れ」
【影移動】で王城内の自分の部屋に帰ってきた自分こと影山亨を迎えてくれたのは、柿本のそんな変哲もない挨拶だった。
「その様子だと計画はうまくいったようだな」
「まぁね」
柿本の言葉に軽く返事をする。
自分の目的というのは『勇者 影山亨を始末し、冒険者クロードとしていきていく』というものだ、柿本にこの計画を話したとき、まず最初に帰ってきた一言が『お前らしい』だった。
しかし足元に絡みついたあの木には驚いた、すんでのところで切り離せたからよかったもののさすがにヒヤリとした。
「しっかし盟友の立場からしてみれば、不満は残るんだけどなぁ」
「言峰は間違ったことはしていないよ、ただ知らなかっただけなんだから」
正直この勝負は元老院と自分の戦いだ、自分を始末することができたら元老院の勝ち、元老院の騙すことができたら自分の勝ち。
言峰はそのための駒として使われたに過ぎない。
しかし柿本の不満は別のものを指していたようだ
「そっちじゃないよ、影山」
「というと?」
いつもと打って変わった真面目な顔で自分に向き合る。
「そもそもこの事件が起こった理由を辿れば、お前が職業を偽った事から始まったわけだろ?」
「そうだな」
あの会話をティファに聞かれて元老院に報告され、クシュナー卿に利用された。
「お前に職業を偽るのを進めたのは俺だ、あの時は面白いことになったとニヤニヤしていたんだが」
あぁ思い出したぞ、お前ステータスを公開する時、ずっと自分を見てニヤついていた、あの時自分はこいつにプロレス技をかけてやると誓ったんだっけか。
今からやってやろうか、と腕をまくろうとしたが柿本の話は続いていた。
「まさかこんなことになるとは思わなくてさ、せめて自分だけでも味方でいようと思ったわけよ」
柿本は頭を下げた。
「すまなかった」
「よしてくれ、もう済んだことだ」
それは結果論であり、この結末はその意見を取り入れた自分の責任だ。
第一、もしあの時職業を偽らなかったとしても、元老院は今回のような手で反抗的なクラスメイトを処分していったかもしれない。
だとしたらその矛先が自分に向いたことはある意味幸運だったといえる。
自分でいうのもなんだが、自身の実力は他のクラスメイトと比べてかなり強くなった方だと思う。
だからこそいち早く事の真相を把握し、この事件を乗り越えるどころか、王城という束縛から解放される足がかりまで作れたと思っている。
ゆえに職業を偽装することを進めてくれた彼に、感謝こそすれ憎む筋合いはない。
「君が気に病むことじゃない、
結果的に誰も死ななかったんだ、これで良かったんだと思っておこう」
「本当にすまん」
気にしなくていいのに。
隠してあった鎧と武器を装備して『冒険者クロード』として変身する。
「なぁ今から俺はお前のことをクロードって呼んだほうがいいか?」
「そうしてくれると助かる」
人前でうっかり影山と呼ばれることを避けたい。
出発の体制が整い、柿本に最後の別れを告げた。
「じゃな、盟友たまには手紙よこせよ?」
「そうするよ、
信頼に足る友を背に、新たな世界へと足を踏み出した。
◆◆◆
「おっ、来た来た」
ギルドの裏口にて受付嬢とギルドマスターが待っていた。
「見たぜ?中々の悪役っぷりだったが、セリフが少なかったな、減点」
「安心してくれ、私は役者になる気はない」
流石に恥ずかしくて、そんな小説に出てきそうな悪党の言葉が言えなかった。
「しかし二人ともよく私の言い分を信じてくれたね」
柿本のような強い繋がりのないこの人たちが、勇者よりも自分の意見を信じてくれたことに少しばかりの喜びと疑問を感じながら質問してみる。
「何言ってる、お前の性格であんなことする度胸がないと思っただけさ」
「私も同意見です」
迷いなく即答し、屈託のない笑顔を見せてくれた。
「さて、と。
お前には早速Sランクの依頼を受けてもらう。
60階層の特殊な鉱石を採掘するんだが今から大丈夫だよな?」
「なんだか急に人使いが荒くなってないか?」
いきなり仕事が来た。
「言っただろ?上級冒険者が足りないんだよ。
忙しい中お前の茶番を見にきてやったんだ、その料金だ」
「頼んでない」
「安心しろ、金貨70枚の依頼だ、ちゃんと信頼できる依頼主だから。チャッチャと集めてこい」
「…承知した」
ただ、
「その前に寄り道してもいいかい?」
「何だ?」
自分は懐から黒龍のせいで半分溶けた物を持ってそれを軽く振りながら言った。
「仮面を修理しないとね?」
影の使い手
王城編 終了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます