第38話 英雄の序曲
ギルドマスターと契約を結んだ後、もう隠す必要もなくなったので今まで溜めていたダンジョン深層の
ただ一つ問題が生じた、
それらの魔石はどれもが希少価値が高く、特に龍の魔石なんてもはや伝説的な代物なので金貨5千枚は下らないらしい。
黒龍の魔石を出してギルドマスターが【鑑定】した瞬間、思いっきりガッツポーズを決めていた。
査定結果はそれらを合計すると金貨1万枚、予想以上の儲けである。
しかし現在ギルドで払うことのできる金額は金貨2千枚まで、それ以上はギルドの財政が破綻するらしい。
「一つ提案してもいいか?」
頭を掻きながらギルドマスターが提案する、こんな額初めて見たという表情だ。
「残りの金貨8千枚、それなりの物を渡すってことでどうだ?」
「まぁ別にいいけど…」
正直言ってちょっと怖い。
この世界の金貨は自分の中では大体10万円ぐらいの価値だろうと踏んでいた、つまり自分にとって金貨2千枚は日本円に換算すると2億円の大金に相当する。
自分はまだ中学生であり、財布の中に一万円札すら入れたことがないような人間に対してこの金額はインフレを起こしすぎていて現実味を帯びていない。
もうこれだけでもいいのにいったい何を渡されるのだろう。
「できれば目立たないものにしてくれよ?」
「任せとけ」
なんだか不安だな。
価値が金貨8千枚相当のもので目立たないものなんてあっただろうか?
一通りギルドでの換金が終わったところでいよいよ王城へと向かう、
勿論普通に入ったら衛兵に見つかり、目立つどころではないので早速自分の持つ
「【影潜み】」
1つ目に使うスキルを発動する。
勿論、声に出さなくても魔法は発動するが、ついつい言ってしまうのは自分の中にある魔法に対する憧れだろう。
魔法が発動すると足元の影に自分自身が沈んでいき、まるで水の中に潜るような感覚を覚える、傍から見れば、宿主のいない影がぽつんとあるように見えるだろう。
この【影潜み】、ただ影の中に潜れる魔法であってそれ以上のことはできない、本来は敵から身を隠すものであるのでこれで十分なのだろう。
しかしここで使うのが【影移動】、影の中にいる自分もろとも高速で移動できるというものであり、Lv,1の時点でも時速50kmまで出せる、これを使うと先ほどの言葉を借りるならば、まるで水の中を飛ぶかのように自由自在に移動可能になる。
次に地上から見えている影をどうにかしないといけない、【影魔法】に関係する影は光の当たるところでも消えないので昼でも安心して使えるが、それ故に宿主のいない影がそこらかしこを動き回る光景は傍から見ればとても異質なものに見えるだろう。
【影遊び】を使って地上の影をできるだけ小さく縮める、ちなみに影を自分より小さくしてもその影響で自分が押しつぶされるということはない、感覚的には【影潜み】で入ってきた影の入り口が小さくなる感じで、自分のいる空間には何の害もない。
誰も気に留めないぐらいに影を小さくして、行動を開始する。
城壁を飛び越え中庭を駆け抜け城の中へと侵入し、自分の部屋へとたどり着く。
「…こんなにすんなり入れるとは」
この【影魔法】の3つを掛け合わせた移動法は自分の思っていた以上に隠密性に優れているようだ。
現在、王城内で目立った動きはない、分身体が一時消えていた事は誰も気付いていないようだ。
自分はティファに酷いことをして目立っているという事になっている、しかしどこまで目立っているとかそのような情報は入手できていない。
ダンジョン内で探索していた頃は万が一にも分身体を失うと、自分が城を抜け出したことがバレてしまうということからあまり本格的な調査ができなかったのだ。
しかし、今は本体である自分が自室にいる。
もし分身体が捜索中に見つかっても自分の判断で消せば犯人であるという証拠が残らない、何より捜索する人数が増えればそれだけ情報も多くなり今後の対策を立てやすくなる。
「明日1日ですべて把握しようか」
主に調べるのはクラスメイトや城の従者たちの会話、元老院の書類だ。
◆◆◆
次の夜までに、以下のことが判明した。
まず元老院は自分の状況をどこまで把握しているか。
元老院は自分が職業を偽っており、本当の職業が【
これには内心ほっとした、せっかくのギルドマスターとの約束を反故にしてしまうところだった。
次に自分にかけられている冤罪の詳しい内容。
これは従者たちの会話の中から聞き取れたが、自分の従者ティファに対して主に暴行、セクハラなどをしているとなっている。
主な内容は人のいないところでティファが自身にわざと傷をつけ、それをまるで自分こと影山亨がやったかのような雰囲気を周りに出しているとの事だと分身体が報告してくれた。
これらは今現在、公になっているわけではなくまだ噂の範疇である、ただそれによってクラスメイトが自分への態度を変化させていることは事実だ。
最後にクラスの中での自分の立ち位置、これについては少々複雑だ。
現在クラスの中で自分は『近寄ったら危なさそうな人』としてほかのクラスメイトから少し距離を置かれている。
噂が噂でしかないのでどう自分に対して対処していいのか分からないのだろう、柿本など自分に親しい人は噂を信じておらず、今まで通り接してくれている状況だ。
「…この程度か?」
ここまで情報を収集しておいてなんだが、自分は予想以上に事態が動いていないことに驚いた。
あの元老院のことだから、自分のことを公に好き勝手言うものだと思っていたのだが、自分が思っていた以上に動いてこない、今現在の状況はティファが地道に傷を負っているだけだ。
自分が思うより元老院は気長だったということか。
そんなことを考えていたちょうどその時、今夜の状況を見て事態が一気に動いたことを理解した。
勇者言峰が今、自分の部屋に向かって来ていると分身体が知らせてきた。
憤怒の表情を浮かべながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます