第31話 過去の足跡

 最高の情報と最悪の情報が同時に来たとき、人はどちらを選ぶだろうか?

 大半の人は悪い情報から聞くのだろう、最高の情報という楽しみを後に取っておけば最悪の情報を聞いて、落ち込んでいた気分がいくらか晴れる。


 しかし残念ながら自分は最高の情報と最悪の情報と、絶望の情報が順番に入ってきた。


 まず最高な情報から、自分はついに階層ボスの部屋まで辿り着き、階層ボスを倒してしまった。

 磨き上げられた大理石の扉の先は、石畳が整然と敷かれたなんとも規則正しく重苦しい部屋、その奥でボスがこちらを見据えていた。

 名前は『百腕巨人ヘカトンケイル』、神話上に出てくるような百本の腕を持っているわけではなく10m級の巨人に十本の腕がついており、その十本の腕の一つ一つにカマキリのような刃を持った腕や、骨の腕、蛸の腕などに変化して襲ってくるという変わった敵だった。


 しかし、能力はそれだけだった、ステータスも自分と比べてそこまで圧倒的に強いということもなく無数の腕に注意すれば強敵とは言いづらい。

 分身体で手分けし、自分の長所である速さで撹乱した後、腕を丁寧に一本ずつ削ぎ、最後に本体にとどめを刺した、今振り返ってみるとなかなかえぐい倒し方をしたと実感している。


 そして最悪の情報というのは、この階層の階数が分かったことだ。


 それはボスを倒し奥に現れた巨大な門をくぐった時の事、街なんてものはなく、あるのはいたく豪華なつくりの石の大きな部屋、その中心に祭壇があり魔法陣が光り輝いている。

 壁の所々が崩壊していてもう何十年も人の手が入っていないことがわかる。

 そして自分は見てしまった。

 今でも嘘だと信じたい、ただ目の前にある以上認めなければならない。

 何気なく祭壇に手をついたその先に、不器用にナイフか何かで彫られた『日本語』を、そして記してあったその言葉の意味を。



『ワレサトウリョウタロウ、

ハチジュウカイソウニトウタツセリ。』



 分身体が王城で座学を聞いていたのでこの名前に見覚えがある。

 英雄サトウ、百年前に召喚された勇者で魔王を倒し世界を平和にした男、そして唯一ダンジョンを制覇した者。


「まさかとは思っていたけど…」

 5回降りたらボス部屋に辿り着いた、という事は目が覚めたときいた階層は逆算して74階だったことになる。

 薄々そうではないかと感じたことはある、29階までの魔物モンスターから取得できるSpスキルポイントは一体から平均して400後半から500ぐらいだった、しかしここは巨人を倒すごとに4000ほど入ってきたのだ、いくら何でも急に増えすぎているとは思ってはいた。

 Lvレベルだってそうだ、分身体と戦えば経験値を独り占めできるとはいえ、先ほどステータスを確認すると200近くまである、少し、いや大分上がりすぎなような気がしていた。


 心の中では『こういう階層なのだろう』と必死にごまかしていたが、自分はそろそろ向き合わなければならない、なぜなら、

「セーブポイントが使えない。」

 一番最初にセーブポイントを使った者がその階層のゲートを開通させる、開通させた冒険者はルべリオスの歴史に名を刻むほどの名誉を得られるそうだ。

 残念ながら英雄サトウはダンジョンにおいてセーブポイントを使うことはなかった、なぜ彼が使わなかったのは大きな謎だが、現在ダンジョン入り口に存在するゲートは攻略されている50階層まで、つまり幾多の苦難を乗り越えた先代の冒険者たちのものだ。

 冒険者は誰もが未知の階層へ一番乗りし、ゲートを開通させることを夢見ているらしい。

 そんな中、勇者以外は踏破していないはずの階層のゲートが開いてしまえば、冒険者ギルドはともかくこの国中で話の種になってしまい、これからの行動に大きく支障をきたしてしまう。


 だとするならば自分はこの先どういう行動に出ればいいのだろう? 今のところこの場所から引き返すか進むしかない。

 もしこの場所から引き返すとするなら、50階層以降を探索中のパーティーとバッタリ出くわすかもしれない。

 ダンジョンの奥から歩いてくる男なんて不気味以外の何者でもない、注目されるだろう。

 【隠密】を発動してすり抜けようとしても相手はダンジョン攻略の最前線、技量も高いだろうし見破られる可能性が高い。


 ならこのまま奥に進もうか?

 利点があまり思いつかない、Lvレベルは上がるかもしれないがその先で得られるのはレアなアイテムか90階のセーブポイントかダンジョンクリアだけだ。

 どれをもらって必要ない。


「あれ、これ結構危機な状況ではないか?」

 はじめの計画としては30階ぐらいまで到達した後、クラスメイト達に合わせて強くなっていく予定だったのだが、どうしてこうなったのだろう?

 原因を探る前に今は自分の強化が先決だ、進むなり戻るなりは後で決めようと思う。


「ステータス」

■■■

【Name】 影山 亨かげやま とおる

【Race】 人間

【Sex】 男

【Lv】186

【Hp】 1550/1950

【Mp】 1950

【Sp】 211523

【ATK】 1950

【DEF】 1950

【AGI】 2925

【MATK】 1775

【MDEF】 1775


■■【職業ジョブ】■■

忍者アサシン


■■【装備】■■

【無銘の魔剣】

【無銘の魔剣】

【鉄の鎧】

【厚手のマント】


■■【スキル】■■

<特殊エクストラスキル>

【分身】Lv,5

<職業ジョブスキル>

【偽装】Lv,6

【鑑定】Lv,6

【看破】Lv,6

【隠密】Lv,8

 【忍び足】Lv,5

 【抗体】Lv,5

 【自爆】Lv,5


【短剣術】Lv,9

 【影縫い】Lv,5

 【多段突き】Lv,5

 【投擲】Lv,5

 【三日月燕】Lv,5

 【首切り】Lv,5


【自己鍛錬】Lv,1


■■【称号】■■

【異世界人】【冒険者】


■■■


「かなりSpスキルポイントが貯まっているなぁ。」

 そして腰を落ち着けて大量に貯まったSpスキルポイントの振り分けにうつつを抜かしている途中で、絶望の情報が入ってきた。

 なぜか自分がクラスの中で目立ってきているらしい、


 それも悪い意味で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る