第30話 巨人戦闘

 数分前、自分こと影山亨は向こうから白い線を確認していた。

 確認しただけで、それが何かはわからなかった。

 このダンジョンの中では何が起こるか予測不能、そう思い少し様子を見ることにしよう。


 …そんな数分前の自分をぶん殴ってやりたい、なぜならその白い線は、

 巨人部隊の横一列に並べた、鉄壁の盾の行列だったのだから。


「しつこいなぁ!」

 今まさに振り下ろそうとしている巨大な戦鎚を寸分のところで躱しながら思わず悪態をついてしまう。

 ステータスは巨人とほぼ互角だが如何せん体格が違いすぎる、さらに数も多い、先ほどは一体だったのに対して今度は40体もいる。

 これほどの数になると、先ほどの【分身】による自爆特攻が使えなくなる。HPとMPが半減するため敵から攻撃を受けた際、容易にダメージが即死圏内に達するからである。

 もう少し自重というものを覚えてほしい、それとも、先ほどの一体はこの集団から偶然逸れてしまった迷子巨人だったのか?


 どちらにせよ、これがこの階層の平均的な難易度ならかなりの深さまで落ちてしまった、人間がこれを突破できるとは思えない。

 だからと言って自分も殺されるわけにはいかない。

 先ほど獲得したSpスキルポイントで自分とリンは新しいスキルを取得している、ここで使わずいつ使うのか。


「リン!」

 両腕に『それぞれ』巻き付いているリンに声をかける。

【分裂】というスキルで二つに分かれた相棒は自分の意思をくみ取り、腕を伸ばした方向に糸を発射する。

 この糸はリンの【蜘蛛糸】というスキルで、本来は遠くの獲物を捕獲するためのスキルなのだが、Lvレベルを上げると射程距離が30mほどにもなったので別の使い道が生まれる。

 糸が別の巨人の肩に張り付く、狙い通りの位置だ。


 この瞬間にリンは【剛化チタン】を発動させる、すると【蜘蛛糸】の今にも切れそうな柔らかい糸がワイヤーのような硬度となった。

 この一連のスキルの合わせ技を『スライムワイヤー』と命名した、自分のネーミングセンスにはもう、期待していない。

 これで人一人分の体重なら支えられるだろう。


「今だ!」

 合図とともにリンが糸を巻き取り始める、すると自分の体が糸に引っ張られて宙を浮き、まるで空を飛ぶようにして巨人の肩までたどり着くことができた。

 疑似的ではあるが初めて空を飛んでみたが、バランスをとるのに精一杯で楽しむ余裕なんてなかった。


 自分は構えてそのまま巨人の喉笛を、剣に纏わせたリンによるスライムソードで切り付ける、巨人はもがき苦しみながら喉をかきむしり、やがて動かなくなった。

 新たに取得した、相手の喉を確実に仕留めるスキル【首切り】を使ったのだが、なかなか有用なようで、今まで闇雲に狙っていた首を確実に仕留められる角度、タイミングが分かるようになってきた。


「こういう戦い方漫画で見たな」

 ふと自分がいつぞや日本で読んでいた、人間が巨人と戦うと漫画を思い出す。

 機械の力を借りて人間が空を飛び、宙をかけて圧倒的な相手を勝負を繰り広げる。

 読んでいたときは憧れたものだが、まさか異世界でぶっつけ本番でやるとだれが想像しただろうか。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 仲間を殺された怒りか、巨人たちが戦鎚やら大剣やらを振り回し集団で自分にかかってくる。

 日本にいた頃なら一目散に逃げるような光景なのに、こんなに落ち着いていられるのは決して勝てない相手ではないという自分に対する自信からだろうか。

 巨人の肩、背中、頭、武器などに飛び移りながら状況を確認する、集団の統率はそこまで高くないようで初めの隊列はどこに行ったのやらバラバラに攻めてくる。

 こちらからしてみればそう動いてくれたほうが対処しやすい、集団からはぐれた者を一つ、また一つと倒していく。


「オァッ…」

 スライムワイヤーを巨人の首に巻き付け思い切り引っ張る、その瞬間ワイヤーは糸の形をした刃物となり巨人の首を刈り取る。

 血が勢いよく吹き出し、ピュルルと喉笛が鳴り出した。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 巨人の目に【三日月燕】というスキルを放てば、短剣を振った瞬間その斬撃が燕のような形をして飛び巨人の瞳に一筋の赤い線を作る、彼はこの戦闘では使い物にならないだろう。

 大剣をやたらめったらに振り回してしまい周りの巨人を傷つけてしまう。

 向こうはあの巨人を取り押さえるために、時間を消費するだろう。

 ここまで戦ってみたがこの巨人たちの個々の実力はそこまで高くない、集団というものは役割を分担してそれぞれがベストを尽くすことこそが個々以上の実力を発揮すると思っている。

 しかし巨人たちは統率もなしにかかってくるので他の巨人に注意すれば実質一対一に変わりない、だとするならばこの戦い自分に勝機がある。

 …そう思ったことが一瞬の油断を生んだ。


「な!あがぁ」

 後ろへの警戒を怠ってしまい、巨人の拳を受けてしまう。

 とっさにリンが【剛化チタン】で盾を作り庇ってくれたので拳自体のダメージはないが、かなりの反動とともに柱に叩き付ける。

 胃の中がシェイクされて一瞬吐きそうになるが何とかこらえて柱の上へと昇っていく、念のため柱の高所につかまって、自分の五体を確かめてみた。

 幸いどこも折れていないが柱にたたきつけられた時の打撲の痛みが背中を支配している、薬草を口に放り込んで回復した後、息を整えて巨人の集団の中に入った。


 この戦いは長期戦だ、じわじわと巨人の数と自分の精神力が削られていく。

 未だに倒れた巨人の数は10余り、まだ半分以上も残っている。


「余計なことを考えるな、目の前の巨人を倒すことだけ考えろ。」

 この集団から逃げられる気がしない、なら先ほど一人で仕掛けてきた巨人のように倒してしまえばいい。


 喉を守ろうとすれば脊髄の通っているうなじを狙い。

 喉とうなじを守れば、その空いたわき腹を切り付け大量出血を誘う。

 盾を構えなおせば間に分身を送り込み、自爆させて混乱させる。

 疲れて来たら天井に張り付いて、体力の回復を待つ。

 一体ずつ確実に、楽に、効率的に。


 何度繰り返しただろう、腕の感覚がなくなってきた。

 喉が痛い、ちゃんと呼吸しているかさえ怪しくなってくる。

 切った後から血が体中に飛び散る、まるでバケツで水を浴びせられたような感触だ。


 間髪置かずに繰り出される巨人の攻撃に全神経を集中させる、『スライムワイヤー』で回避しお返しとばかりに首を切り裂く。


 数時間がたった頃、最後の巨人が力尽きた。

「はは、しばらく一つ目は見たくない。」

 確認した自分にも忘れていたように疲れが襲いかかり、柱に崩れるように座りながら背を預けそのまま眠ってしまった。






■■■

【Name】 影山かげやま とおる

【Race】 人間

【Sex】 男

【Lv】179

【Hp】 82/1880

【Mp】 1880

【Sp】 196523

【ATK】 1880

【DEF】 1880

【AGI】 2820

【MATK】 1692

【MDEF】 1692


■■【職業ジョブ】■■

忍者アサシン


■■【装備】■■

【無銘の魔剣】

【無銘の魔剣】

【鉄の鎧】

【厚手のマント】


■■【スキル】■■

<特殊エクストラスキル>

【分身】Lv,5

<職業ジョブスキル>

【偽装】Lv,6

【鑑定】Lv,6

【看破】Lv,6

【隠密】Lv,8

 【忍び足】Lv,5

 【抗体】Lv,5

 【自爆】Lv,5


【短剣術】Lv,9

 【影縫い】Lv,5

 【多段突き】Lv,5

 【投擲】Lv,5

 【三日月燕】Lv,5

 【首切り】Lv,5


【自己鍛錬】Lv,1


■■【称号】■■

【異世界人】【冒険者】


■■■

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