第29話 不明という恐怖
「…あ」
少しぼんやりした頭で頭を掻いた後、自分こと影山亨は跳ね起きる。
確か自分の上にのしかかっていたボスを無理やり体の上から退かしたまでは覚えているが、そのあとの記憶がない。
どうやら生きているようだ、真っ暗で何も見えないがここが夢でないことは自分の意識が教えてくれる。
体を動かそうとすると地面がプルプル動いた。
「…リン?」
体を退けるとリンが自分の腕へと巻き付いてきた、どうやら落ちるとき自分の下に入ってそのぷよぷよした体で落下の衝撃を吸収してくれたようだ。
「守ってくれたのかい?」
わずかにリンの体が震える。
「ありがとう」
そう言ってリンの体をなでた、表面はつるつるしていて手で触るととても気持ちいい。
「持ち物はと…」
手探りで探してみると自分の腰のところに革の感触が当たる。
一通り触れてみたが硬いものは入れていなかったので壊れたものはなかった。
「さて、ここから脱出しなければならないな」
今自分たちのいるところは真っ暗で何も見えないが向こうに光が見える、どうやら明かりが完全にないということではなさそうだ。
リンのお陰で手足が折れていないので簡単に移動可能だ。
壁沿いに手を伝い光の差す方向へと進んでいく、幸い遠くはなかったようであまり時間をかけずにたどり着く。
細い道から出た途端視界が一気に開けた、さっきまで暗い場所にいたので急な光の量に思わず目を覆ってしまう。
目が慣れてきたときまず驚いたのがその場所の『高さ』だ。
東京にある地下貯水池というものを鬼塚から一度写真で見せてもらったことがある、巨大な空間にいくつもの巨大な柱が並び、まるでパルテノン神殿のような雰囲気を出していたことを覚えている。
今の光景を例えるならばそれだ、柱はそれよりも装飾されてはいるが均等に並び両端に壁こそあれその通路の先が見えない。
「一体ここは何層ぐらいなんだか…」
明らかに序盤の階層ではない、落ちてきたのが30階少し前なので40もしくは50くらいの階層ではないかと踏んでいる。
まぁ何階であろうと自分が行うべき行動はただ一つ、次のセーブポイントまでたどり着くことだ。
「結構落ち着いているな」
そこまで考えて自分が思ったより冷静であることに驚く、人間予想外のことが起きると逆に落ち着くのだろうか?
「それとも自分が一人じゃないからかな?」
頼りになる相棒を見る、リンは自分が思っていることを理解したのか『そうだっ』とばかりにプルプル震えた。
◆◆◆
「しっかし高いなぁ、この天井」
あれからしばらく歩いてみたが景色がちっとも変わらない、正直今歩いているこの道が奥へと進んでいるのか戻っているのかさえ分からない。
そうなると気を紛らわせるために余計なことをかんがえ始める。
ここの
「戦い方もいろいろ増えたわけだし簡単にやられるわけないか」
そんなことを言った瞬間辺りが突然夜のように暗くなった、反射的にできる限りのスピードでその場を離れる、その一瞬の後そこに隕石が落ちてきた。
…訂正しよう、落ちてきたのは隕石ではなく『石の棍棒』だった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そこにいたのは10mはあるだろう巨体、筋肉ではちきれんばかりの体格、不気味な一つ目。
カードゲームやアニメでしか見たような風格であるがその迫力は29階の階層ボスなんて比べ物にするのも可哀想なくらいの差があった。
「サイクロプス…」
思わず【鑑定】を発動する。
■■■
【Name】 キュクロプス
【Race】 巨人族 (魔物)
【Sex】 男
【Lv】120
【Hp】 1440
【Mp】 1440
【Sp】 0
【ATK】 1440
【DEF】 1440
【AGI】 990
【MATK】 1210
【MDEF】 1210
■■【
■■【装備】■■
【石の棍棒】
■■【スキル】■■
【棒術】Lv,4
【遠目】Lv,4
【雄叫び】Lv,3
■■【称号】■■
■■■
ステータスを見た瞬間、今の自分ではまともに戦っては勝てないことを確信する。
幸いAGIではこちらが上なので逃げようとすれば振り切れるかもしれない、しかし
「【遠目】っていうのがちょっと厄介だな。」
名前から見て遠くを見れるというスキルだろう、あの目に捕捉されたならいつまた不意打ちが来るかわからない。
ならばここで倒しておくのが得策であろう。
「せやぁ!」
すぐさま足の間に回り込んで足の腱を切ろうとする。
しかし短剣で切り付けたところ、あまりの筋肉の密度に刃があまり通らなかった。
「やっぱり……っね!」
さすがにステータス4桁の格は違った、これを倒すのには自分も覚悟して掛からないといけないだろう。
「こっちだ!」
手を叩きながら巨人に注目させる、それにこたえるようにして重々しく棍棒が振り上げられた。
そこから先はもぐら叩きだった、モグラは自分、叩き手は巨人という命がけの。
巨人は幾度も幾度も棍棒を叩きつけ、その度に地震を引き起こす、先ほどの言葉を借りるならまるで流星群、それほどの迫力があった。
ただいかんせん、振りかぶる動作が見えているので避けるにはそう苦労はかからない。
しかし一歩間違えればお陀仏という状況が足を狂わせる、慎重に、確実に、かつ大胆によけていかなければならない。
「今だっ」
自分は動きをぴたりと止め巨人と向き合う、すると巨人も棍棒を振り上げ改めて狙いを定めた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
その瞬間巨人が絶叫してひざをつく、どうやらうまくいったようだ。
「よくやった、リン!」
後ろから分身体とその肩に乗ったリンが自分のところへ向かってくる。
初めに足の腱への攻撃が失敗した後、自分はすぐさま分身体を出し【隠密】を使わせてずっと巨人の後ろに待機させていた。
そして自分が囮になり、巨人の周りへの警戒がおろそかになった瞬間分身体とリンに『スライムソード』で腱を攻撃させたのだ。
さすがに【
「あとは仕上げだ」
リンを自分に戻し、分身体を今出せる4人全員を出して指示を送る、顔を攻撃しろ、と。
分身体は膝や肩を使って目や鼻などを突こうとする。
ただ巨人もじっとはしていなかった、大きな口を開け分身体を4人もろとも飲み込んでしまった。
しかし、
「予測の範囲内だ。」
すぐさま分身体に指示を送る。
「自爆しろ」
念のため『スライムソード』の準備をしながらそう意思を送った。
瞬間、巨人の口から光が見えた気がした。
◆◆◆
「…なっ!」
いつの間に気絶していたのか自分は柱にもたれかかっていた、いや今はそれどころではない、目の前に巨人の顔が見える。
ただ様子がおかしい、いつになっても攻撃をする気配がない。
「…死んでる?」
恐る恐る観察してようやく自分は巨人の首から下がないことに気付く、どうやら目論見は成功したようだ。
口の中に入った分身体が使ったのは【自爆】、密閉された口の中で使えば頭が吹き飛ぶと思っていたのだが、どうやら喉の奥で爆発したらしく頭と体が分裂したようだ。
まぁどちらにしろ生きているとは思えないが、その爆発のあおりを受けて気を失ってしまったらしい。
「よくやってくれた、リン!」
今回活躍してくれたリンに話しかけようとして、気が付いた。
「…また進化したのか?」
なぜか前よりキラキラしている感じがする、今の巨人でかなりの経験値が入ったようだ。
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】107
【Hp】 1160
【Mp】 1160
【Sp】 10903
【ATK】 1160
【DEF】 1160
【AGI】 1740
【MATK】 963
【MDEF】 963
■■【
【
■■【装備】■■
【無銘の魔剣】
【無銘の魔剣】
【鉄の鎧】
【厚手のマント】
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,5
<
【偽装】Lv,5
【鑑定】Lv,5
【看破】Lv,5
【隠密】Lv,7
【忍び足】Lv,5
【抗体】Lv,5
【自爆】Lv,3
【短剣術】Lv,7
【影縫い】Lv,5
【多段突き】Lv,5
【投擲】Lv,4
【三日月燕】Lv,3
【自己鍛錬】Lv,1
■■【称号】■■
【異世界人】【冒険者】
■■■
■■■
【Name】 リン
【Race】 シルバースライム(魔物)
【Sex】 なし
【Lv】31
【Hp】 250
【Mp】 250
【Sp】 10220
【ATK】 500
【DEF】 500
【AGI】 500
【MATK】 250
【MDEF】 250
■■【
【使い魔】
■■【スキル】■■
<
【
<
【捕食】Lv,1
■■【称号】■■
【使い魔】
■■■
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