第27話 力と鎧の階層
目の前の光景を例えるなら、迷宮と書いて『
所々から鎧の騎士が攻撃を与えようとしている、まるで昔の古き良きレトロゲームに入り込んだような錯覚すら覚えた。
今も目の前に中世の騎士を
リンが自分の前に飛び出て壁のように変形しながら陣取る、石像は速さを緩める気はなくリンごと自分を吹き飛ばす気でいるようだ。
石像が当たる瞬間にリンは【
鎧の騎士なら鎧をはぎ取ればそれなりの戦利品になるのだが、あいにくこの
「今回はボスに期待しようかな?」
階層ボスは決まってその階層より強い
「到着っと」
そうして29階の階層ボスの部屋までたどり着く、意外と早く着くことができたのはこの階層の
基本的にこの階層の
それにしてもリンがここまで役に立つとは思わなかった。
あの時は何かの役に立つだろうという気持ちで使い魔にしたのに、今では自分の戦力の一翼を担っている、これは30階に到着したら宿で御馳走しなくてはいけないだろう。
「そのためにもボスを倒さないとな」
扉を開きながら自分の財布を気にする自分は、傍から見ればかなり奇妙なものに見えるだろう。
腕にかかる重量に耐えながら、ふとそう思う。
扉の先には闘技場が構えていた。
ドーム状の空間の中心に丸いリングがあり、その周辺は切り立った崖になっている、覗いてみたが真っ暗で先が見えない。
今回の階層ボスは自分の期待した通り、鎧を着た大男だった。
ただ鎧が大きすぎて、むしろ鎧が立っているだけのようにも見える、サイズが合わないのであの鎧を自分が着る事はできなさそうだ、後で売ってお金にしようか。
ボスは身長に負けないような大きな剣を構えず仁王立ちし、こちらを睨み付けている、どうやら先制攻撃はしないらしい、こちらの出方を待っているのだろう。
「それではっ」
自分は分身を2体作り出して、左右からボスへと走らせる。その間に片手に持った回復ポーションを飲み干して、短剣を抜きリンを纏わせる。
木の
ただし切れ味はお墨付きだ、先ほど鎧の騎士を真っ二つに切り裂いた。
しかし問題そんなに都合よく切らせてもらえないということだ、剣にスライムをまとわせるなんてさすがに敵も警戒する。
一瞬の隙さえ作れれば後は叩き込むだけでいいのだが、どうやら今回の敵は相当の自分のことを警戒しているようで、自分の分身体2つと戦いながらこちらへの警戒も忘れてはいない。
戦うといっても、分身体が大剣を避けて、ナイフや短剣をその体に叩き付けているのだが、いかんせん鎧が固すぎて決め手にかけている状態だ。
あの鎧を切り裂くにはスライムソードしかないらしい。
「いくぞっ!」
駆け出すと同時に分身体に意思で指示を出す、受け取った分身体は攻撃をやめ一斉にナイフを地面に投げ出した。
自分が剣をふるった瞬間、ボスは大剣を構え受け止めようとするが体が動かない。
分身体が【影縫い】を使ったのだ、ボスの強さから見て【影縫い】が成功する確率は低いと思ったので2人がかりでナイフを計20本ほど打ち込ませてみた、数打てば当たるという作戦がどうやらうまくいったようだ。
勝利を確信しスライムソードをふるった瞬間、ボスの体がわずかに後ろに下がる、最後の抵抗だろう。
しかしそれがいけなかった、首を切断するつもりで振ったのに対して喉笛が半分切れた程度に終わってしまった。
すぐさま立て直そうと間合いを取った瞬間、ボスが苦し紛れに地面を思いきり殴リつける。
分身体は下がらせたので自分には問題がなかったのだが、『リング』に問題があった。
強度が弱かったのか罅が入り崩壊し始めたのだ。
開いた扉へ引き返そうにも道がすでに崩壊している、ボスを倒し切っていないので向こうへと続く扉も現れない。
「リン!」
リングが崩壊し、体が落ちていく中、壁から出ているいい出っ張りを見つける。
すぐさま腕に絡みついていたリンに声をかける、理解したのか体を伸ばし自分の腕から出っ張りへと体を伸ばし巻き付いた。
そしてリンの体を手繰って出っ張りまでたどり着く、このままいけばボスはおそらく落下死するだろう、後は出現した扉に壁をつたいながら辿り着けばいい。
「…ボスはどこだ?」
目に映るはずの巨体がどこを探しても見当たらない、ステータスが強化され視力がよくなったのだ見逃すはずがない、岩の陰に隠れているのだろうか。
そこで周りが暗くなっていることに気付く。
「…冗談きついよ」
上を見上げて思わず悪態を呟いてしまった、ボスは自分の上から落下していたのだ。
偶然ではないだろう、ボスの瞳が明らかに自分をとらえているのを見るに、ここまで跳んできて自分もろとも巻き込んで落下死するつもりだ。
喉笛を切られているのによくやると思う、その執念の深さには脱帽する。
ただ自分は死にたくない、すぐさま他の出っ張りに捕まろうと腕を伸ばしたがもう遅かった。
「うぐっ!」
見た目に違わぬその重量が、無慈悲に自分の体へと叩きつけられる。
必死に踏ん張ろうとしたが、鎧の隙間から見えたのは重量に耐え切れずに重い音を立てて壁からこぼれる出っ張り。
体に無重力を感じながら、壁に取り付けてある松明の明かりが、細々と小さくなっていく景色はどこか自分の命を見ているようだった。
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