第20話 下を持つという事
ダンジョン8階にて自分こと影山
敵はホブゴブリン、ゴブリンという種の上位互換らしく130㎝ぐらいしかなかったゴブリンに比べ、160㎝に届く身長とがっしりした体格が特徴的だ。
頭もよく冒険者たちのように役割分担しているため、圧倒的な差を持っていなければ苦戦する相手だ。
数は10ほど。
「せいや!」
自分の短剣による斬撃を簡素な盾を持ったホブゴブリンが防ぎ、その影から剣を持ったホブゴブリンが突きを放ってくる。
一度後退するとその場所に火の玉が飛んできた、メイジゴブリンという魔術を使うゴブリンが放ったものだ。
「まいったな、ゲームでもパーティーで戦うことはあっても、パーティーに対して一人で挑むなんてやったことないんだよ」
今なら絶対にRPGのボスたちの気持ちが分かる、自分一人に対して、3人とか5人とかは卑怯だと思ったに違いない。
「ここら辺が個人の限界かな?」
自分がダンジョン探索初日に20匹のゴブリンに対して無双出来たのはゴブリン達がやたらめったら攻めてきたことも大きい、だが今、このホブゴブリン達は秩序だった編成で自分を追い詰めている。
ステータスはこちらが上だが、彼らがそれぞれ自分たちの弱点をカバーし、まるで一つの生き物のようにこちらを責め立てる。
はっきり言えば、自分が本気を出せば少しの傷を覚悟でこのホブゴブリンのパーティを倒すことができる。
しかしここの階層は8、50階以上あるダンジョンの玄関みたいな所だ、こんなところでいちいち本気を出していたらこの先身が持たない。
「一番いいのはパーティに加えてもらうか自分で作ることなんだが...」
こんな仮面をして自分の素性を明かそうとしない奴をパーティに加えようとする奴なんていないだろう、少なくとも自分は加えない。
だとしたら、それ以外で対策を立てるしかないだろうな。
いまこの場には自分とこのホブゴブリンの集団しかいない、こういうときしか『これ』は使えない。
「クプ...」
パーティの後列にいたメイジゴブリンがもう一度魔術を使おうとした瞬間、その独特な風貌の頭と体が離れた。
いきなりのことにパーティのホブゴブリンたちは一瞬我を忘れる、その一瞬の隙があればいい。
体を地面に近づけて走り出す、盾を持ったホブゴブリンの足の股をくぐり、ついでとばかりに足の腱を両手の短剣で切りつける、もう盾を構えることはおろか立つこともできないだろう。
いち早く我に返ったのは剣を持ったホブゴブリンだが自分から見れば遅すぎる、足を払って浮いた胸元に剣を突き立てる。
後ろから他のホブゴブリンが剣で切り付けようとするので自分はヒョイと体を前にかがめる、するとナイフがどこからともなく飛んできて、そのホブゴブリンの喉を捉えた。
「どうやら会ったことがないらしい」
かがんだ体を上げながらそうホブゴブリンたちに語りかける、ナイフが飛んできた方向から人が歩いてきた。
「分身できる人間にさ。」
歩いてきたのは自分と同じ身長の、自分と同じ仮面の、自分と同じ2つの短剣を構えた男、そう分身体だ。
ホブゴブリンたちとの戦闘が始まった時、分身体を出し、それを【隠密】でパーティーの背後に回らせたのだがうまくホブゴブリンたちを混乱させられたようだ。
「どんなに堅固なパーティでも中に入ったらこっちのもんだ。」
鬼塚に敵の軍団を責めるときの方法を一度聞かされたことがある、
まず情報伝達や指揮を執っているリーダーを始末し、次に武器を持っている攻め手を倒す、最後に盾などを持っている守り手をゆっくり落とせばいい。
この方法が一番確実に、そして楽に敵を無力化できるとか。
「そらっ!」
連携が取れなくなったホブゴブリンたちを各個撃破していき、とうとう最後のホブゴブリンを倒して戦闘を終了した。
「また
実はこの【分身】のスキル思っていたより使える能力であった。
ギルドでの冒険者たちの会話でもある通り、パーティを組んでモンスターを倒したとき、その経験値と
例えばこのホブゴブリン一体から取得できる
この特性を利用して、貴族では自分の息子に優秀な護衛をつけて多く
何が言いたいのかというと今自分は分身体と二人でホブゴブリンの集団を倒した、しかし分身体は自分の
これは思っていたより恩恵が大きい。
自分一人で倒せない敵でも分身体と協力して倒せば、そのモンスターの経験値と
これなら城にいるクラスメイト達よりも早く強くなれるのではないだろうか?
「さて、このくらいだろう。」
ホブゴブリンから魔石を回収する、すると分身体が隠していた荷物を持ってくる。
ポケットの中に魔石を突っ込んだら分身体を消し、荷物を背負いなおしてまた歩きだした。
◆◆◆
ぽいーんぽいーんと、柔らかくどこか力の抜ける音がこだまする。
…さっきから後ろがうるさい。
原因はわかっている、少し前からついてきている魔物のせいだ。
水色な透明のボディと基本的には丸いがぷよぷよしている物体、そうスライムである。
この
物理攻撃は効かなさそうなのに剣で真っ二つに切られれば死んでしまう、そのため経験値も
始まりはホブゴブリンのパーティを倒した後、このスライムが出てきたところからだ、8階に出てくるのは珍しいが倒してもあまりメリットがないために放置しておいたのだ。
それから何を思ったのか自分に対して一定の間隔でついてくる、自分が止まるとスライムも止まり、自分が歩きだすと後をついてくる。
戦うわけでも逃げ出すわけでもなくただ追いかけてくる、なにがやりたいのか分からず、正直言って鬱陶しいことこの上ない。
「なぁ、君は何がしたいんだ?」
立ち止まって話しかけてみるとスライムがプルプル動く、意識は通じるらしい。
「仲間の敵討ちに来たか?」
スライムは動かない、心なしか否定しているようだ。
「食べ物をもらいに来たか?」
これも動かない。
「まいったな...」
向こうが話せれば楽なんだが、スライムなのでそうはいかない、この
ふとギルドでの会話を思い返す。
『
「もしかして…仲間になりたいのか!?」
スライムがプルプル動くどうやら肯定らしい。
「それはまた…」
しかしスライムは雑食なので、他の
だがスライムを加えてこちらにメリットはあるだろうか?
「そういえばスライムの説明を見ていなかったな」
試しにスライムを鑑定してみる。
■■■
【Name】 《名前なし》
【Race】 スライム 《魔物》
【Sex】 なし
【Lv】3
【Hp】 13
【Mp】 13
【Sp】 0
【ATK】 13
【DEF】 13
【AGI】 13
【MATK】 8
【MDEF】 8
■■【
■■【スキル】■■
【捕食】Lv,1
■■【称号】■■
■■■
まずステータスは言うまでもない、それらを無視してスライムの説明を見る。
■■■
スライム
迷宮低層に生息する
モンスターの中でも一番力がないが数は多い。
…
■■■
ここまでなら
■■■
…
弱いが弱いゆえに進化する幅が多い。
■■■
「なるほどね...」
もしかしたら進化したものが何かの役に立つかもしれない、指先をその滑らかな体に当てた。
「私と一緒に来るか?」
言うと同時にボードが出てきた。
■■■
契約してスライムを使い魔にしますか?
YES
NO
■■■
即答らしい、もちろんYESだ。
かくして自分の旅は一人と一匹ですることになった。
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