第18話 脇役の聞き耳

 翌日、ギルドに入ってEランクの依頼を受けた。

 内容は魔石10個を採取するというものだったのだが、すでにゴブリンで20個回収済みだ。

 15個を夕方にもってきて依頼達成とすればいい、それに、今日の目的は依頼ではない。


 そのままギルドの酒場の奥の席に腰掛ける、しばらくすると依頼を終えた冒険者達が続々と帰ってきた。

 そして受付で手続きを終えた後、各々がジョッキを傾けて一気に騒がしくなる。

 軽いつまみを食べながら冒険者たちの話に耳を傾ける。

 今一番大事なのは情報と常識だ、『知りませんでした』じゃ済まされないこともこの仕事には多くあるだろう、だからこそ彼らの話の中から、この世界の一般的な知識を知っていく必要がある。

 普通に聞いてもいいかもしれないが、うっかり墓穴を掘るかもしれないのでここは慎重に行こう。


「絶対にいるって!」

 ただでさえ騒がしい酒場からひときわ大きな声が上がった、場所はちょうど自分の後ろになる。

「もうやめようよ、また逃げる羽目になるって」

 聞き覚えがある声なので一瞬チラリと見てみると、昨日ゴブリンの集団と対峙していた冒険者3人組だった、それに2人知らない顔がいる。


「でもさソフィア、新しく二人仲間に加わったんだぜ?【医師メディック】がついているんだし長期戦もできる。

これならあのゴブリンの軍団にも持久戦で勝てると思うんだよ!」

「でもジョン、あの後ゴブリン達消えてたじゃない。

きっと別のパーティが倒したのよ」

 どうやら彼らはあのゴブリンの集団を探しているらしい、自分が全滅させてしまったので今から探しに行ってもとろうに終わってしまうだろう、そう考えると彼らには申し訳ないことをしてしまった。

 しかし、死体は残っているはずなのだが、見つけられなかったのだろうか? 彼らの戦っていた場所に転がっているはずだからそれは考えにくい、後で自分も見に行ってみることにする。


「でも20匹はいたのでしょう?」

 別の声が聞こえた、腰に短剣を差していて自分より少し年上の感じがする女性だ、ソフィアと呼ばれた【戦士ウォーリア】の横に座っている。

「もしそうなら一人当たりSpスキルポイントが40くらい入ることになるじゃない。

私たちからすれば1日潰してもそんな悪い話ではないと思うわ」


 自分のステータスから見てゴブリン20匹から手に入るスキルポイントは推定200、40という事はちょうど五等分だ。

 どうやらモンスターを倒したときに入るSpスキルポイントやら経験値やらは、パーティを組んでいるときは頭割りになるらしい。

 なるほどとうなずくと隣からも声が聞こえてきた。

「おい、オーク肉お代わり」

 見てみると体格のいい戦士たちが酒盛りの真っ最中だ、テーブルの上には食いごたえのありそうな食事が並んでいた。

 そして今、日本では考えられない程の大きさの肉が運ばれてくる。

「いやぁ、今回は割のいい仕事だったなぁおい」

 どうやらいい依頼を受けたらしくとても機嫌がいい、しかし自分はその漫画のような料理の数々に釘付けになっていた。

 オークというものを調理するとあそこまで見ごたえのある食事になるらしい、もし機会があるのなら頼んでみたものだ。

 もしかしたら食糧問題が解決するかもしれない。


 料理に見とれている間にも有益そうな情報があちらこちらで飛び交っている、必死にそれらに聞き耳を立てれば、予想以上に大きな収穫となていった。


 まず一つ目に上級冒険者はあまり下級の依頼を受けてはいけないという。

 ギルドの規則としては出来ることになっているが、下級冒険者たちの飯の種を取ってはならないという暗黙の了解がある。

 これは冒険者として頭に入れておいた方がいいだろう。


 それとダンジョンにはゲームでいうところのセーブポイントのような場所があり、その場所へと行くとダンジョン入口付近にあるゲートに飛ばされるという。

 そしてゲートから、ダンジョンのセーブポイントに飛ばされるとか。

 面白いのはそのセーブポイントがダンジョンにいくつもあり、10階層ごとに1つずつ、攻略されている50階層までで合計5つあるのだそうだ、そのためダンジョン入口のゲートはそれぞれに対応して5つ生成されている。

 ただし攻略したゲートにしか飛ぶことはできず、初心者がいきなり50階に挑もうと50階に対応したゲートをくぐってもすり抜けてしまうらしい。

 そんなことを自分の後ろで【魔術師メイジ】のジョンが楽しそうに話をしていた。


 そのままギルドの冒険者のことも話してくれた。

 今、ギルドの大半を占めているのは中堅のCランクと若手のDランク冒険者だ、どうも魔王との戦争を警戒してSランクからBランクの冒険者は魔国寄りの他のギルドへと派遣されているらしい。

 それでも全体の人数の規模ならここが一番多いのだからさすが王都のギルドと唸るしかない。

 今いるギルドの中で最強クラスのパーティーはSランクの『レッド・ギガンテス』と『ウォルフ・セイバー』、どのような戦闘スタイルかは聞けなかったが、かなりの手練れであることは確かだろう。


 最後に一つ、王国についてだ、これは備え付けてあった棚の本に書いてあった。

 この国の王国には大きく分けて3つの勢力がある、なんでも前に召喚された勇者様が『サンケンブンリツ』がああだのこうだのと話し、とにかく権力を集中させてはいけないと広めたため、このような統制形態へと変化したそうだ。

 国王が頂点に立って政策を進める王政、

 教皇が中心となって宗教を広める教会、

 権力者たちが集まって細かい問題などを話し合いで決める元老院。

 これらがこのルべリオスの権力の基盤となっている。

 

 本を読んだ後かはわからないが瞼が重くなっていく、一通り話が聞けたしもう頃合いだろう。

 サンドイッチ三枚とミルク一杯でよく3時間も粘ったと思う、ここまで情報を引き出せたので満足している。


 ゆっくりと立ち上がりスキル【隠密】と【忍び足】を使って誰にも悟られずギルドから出ていく、外に出ると中の熱気とは違い、涼しい風が吹いてきた。

 もう大体夜中の10時ごろだと思うがまだ街はにぎやかだ、このままフラフラと街を歩いてみるのも面白いかもしれないが、どこの世界でも夜の街は危ない。

 チンピラに絡まれたとき、無傷でいられる自信がないので自分はさっさと宿に帰る。



◆◆◆



「…これしかないか。」

 ベッドの上でいろいろと試行錯誤していたが、ギルドの情報と照らし合わせ今自分一人でできることを確認したうえで一つの結論にたどり着いた。


「ダンジョンに住もう。」

 この結論にたどり着いた理由は三つある

 一つはさっきギルドで聞いたオーク肉、魔物モンスターの中にも食べられるものがあるという事だ。

 毎回銀貨三枚払って黒パンとスープを食べるより、自給自足のほうがお金がかからずに済む。


 二つ目にダンジョン内のセーブポイントと休憩ポイント、

 ダンジョンで確実に休める場所やすぐに入り口に戻ってこられる場所があるのならその場所を拠点として散策してみるのもいいかもしれない。


 三つ目に今の状況、

 くどいようだが自分はクラスメイト達より強くなっていかなければ自分の職業を隠し通せない。

 だとするならダンジョンからいちいち宿に戻るより、ダンジョンの中にいたままの方がモンスターと戦う機会が増えてより早く強くなれるに決まっている。


 しかしこの方法を実践するにはある程度の強さが必要になってくる。

 この宿に滞在できるのもあと4日、それまでにできるだけ強くならないと後で苦労するだろう。

 目標としてはLv,20ぐらいほしい。


「だとしたら、明日から努力しないとな。」

 自分の目標のためにも、と思いながら瞼を閉じた。

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