第16話 初依頼・後編
今自分はダンジョンの入り口に立っている。
この王国のダンジョンは、入り口が洞穴のようになっており地下に続いているそうだ。
今確認されている階層は50階までであり、それ以上になると探索専用の熟練者パーティーが、長い時間をかけて少しずつ地図を描いていくしかないらしい。
そう考えると、ただ鎮座している洞穴の入り口が、何か大きい化け物の口に見えてくるから不思議なことだ。
「私は薬草を取って帰るだけなんだけどね。」
今回の目的はダンジョンの雰囲気に慣れる事、ちょっと行って薬草を取ってすぐ帰る簡単な仕事だ。
ただ、何事も『初めて』というのは緊張するものだ、今まで自分が通っていた中学校だって、入学式の前夜は緊張して眠れなかった。
「まぁ今更、こんなこと考えても意味がないか。」
ここで立ち止まったらクラスや王国に計画のすべてがばれることは明らか、今ここで立ち往生しても仕方がない。
覚悟を決めて洞穴の中へと入っていった。
細長い道を下って行くと広い空間に出た。
ドーム状の空間で壁に横穴が一定間隔で並んでいる、横穴の数は全部で十ほどだろうか?
「とりあえずしらみつぶしにやっていくしかないよな。」
自分は降りてきた細道のすぐ横にある横穴から探索を始める。
横穴に入る際、鞄から一本の細長い糸を出し、わきにある出っ張った岩に括り付けておく。
これは『アリアドネの糸』と言い、見た目に反してとても頑丈で、この糸を入り口につないでおくことで、この糸を手繰れば入り口に必ず帰れるという冒険者の知恵だ。
熟練はダンジョンの道を覚えているらしく、この糸を使うのはほとんどが初心者か、50階以降を探検する最前衛のパーティーだけだ。
糸がしっかり固定されたのを確認したら、横穴へと歩を進めていく。
はっきり言って薬草を集めるのは簡単だった。
【鑑定】Lv,1があるのでそこらじゅうの草に使っていくと面白いように集まってしまった、おかげさまで既定の10本を通り越して30もの薬草を集めることに成功した。
薬草の名前は、
■■■
Name カウト草
種類 薬草
備考 ダンジョン低層に生える体力回復効果の薄い薬草
そのまま食べても効果があるが、成分を抽出して薬にした方が効果が高い。
■■■
「さて、今日はこのくらいにするか。」
座って草を取っているので腰が痛くなってきた、大きく背伸びをすると肩や腰からポキポキと心地のいい音がする。
そのとき耳に微かな音が聞こえた。
人の怒声、剣戟の音、明らかに近くで誰かが戦っている。
「ちょうどいい、この世界の戦い方を見せてもらおうか。」
荷物を岩の陰に隠して、【隠密】を発動し音のする方へと走っていった。
「…あれか」
戦っていたのは新人冒険者とゴブリンの集団。
冒険者は【
試しに今、必死に指揮を執っている【
■■■
【Name】 ジョン
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】5
【Hp】 17/60
【Mp】 15/80
【Sp】 8
【ATK】 45
【DEF】 45
【AGI】 45
【MATK】 70
【MDEF】 70
■■【
【
■■【スキル】■■
<
【魔導士の卵】Lv,2
【炎魔術】Lv,2
【フレイムボール】Lv,1
【氷魔術】Lv,1
■■【称号】■■
【冒険者】【パーティーリーダー】
■■■
と表示された。
あとの二人もスキルやステータスはバラバラだったが大体同じ強さだった。
「…思ったより低くないか?」
どうやら勇者としてもらった特典は
対してゴブリンのほうは、数こそ20ほどいるものの一番強いやつでも、
■■■
【Name】 《名前なし》
【Race】 ゴブリン 《魔物》
【Sex】 男
【Lv】5
【Hp】 30
【Mp】 30
【Sp】 0
【ATK】 30
【DEF】 30
【AGI】 30
【MATK】 30
【MDEF】 30
■■【
■■【スキル】■■
【主の威厳】Lv,1
■■【称号】■■
【群れのボス】
■■■
と、個では冒険者たちに劣っている。
武器を持っているが、それを扱うスキルがないためそれほど脅威ではない。
質では冒険者たちのほうが上だが多勢に無勢、このままいけば冒険者の敗北は必至。
そんなことを思いながら【隠密】で忍び寄り近くの岩の陰に隠れ、戦況を眺める。
「撤退だ、ソフィア、バルトス!」
リーダーのジョンが最後に炎の玉を地面に放って煙幕を作る。
ゴブリンたちがむちゃくちゃに剣を振り回す中、彼らは素早く引き上げた、いいチームワークだ。
煙が晴れた後、自分は少し考える。
「あのゴブリンたちと戦闘できるだろうか?」
今分かったことだが、自分はこの場において一番ステータスが高い。
もしかしたらあの集団と戦っても勝利まではいかなくてもいい勝負が出来るかもしれない。
これは歴史博士こと鬼塚に教えてもらった事だが。
兵士というのは初めは戦場でむちゃくちゃに剣を振り回し、戦を重ねることでだんだんと心に余裕ができてくるらしい。
何が言いたいかというと、強くなるために今自分に必要なのはLvとスキルと『場数』ではないだろうか?という事だ。
今ここで戦闘を体験しておくのもいいかもしれない、素早さはこちらが五倍以上ある、危なくなったら逃げればいい。
「やってみるか。」
始めは薬草をとるだけで終わらせようと思っていたが、せっかくチャンスがあるならやってみるのも一つの手だろう。
『臨機応変』という言葉は本当に便利だと思う。
「だとするならまず、こちらの態勢を整えないと。」
まず、マントを脱いで足元に綺麗に畳んでおく。
その後軽く準備体操をして、念仏のように唱える。
「危なくなったら逃げる。危なくなったら逃げる。」
心が落ち着いてきたのなら魔剣である短剣を抜く、さすがに二つを同時に扱える自信がないので右手に持っておくだけにする。
そして大きく叫んだ。
「こっちだ!!ゴブリン!!」
その瞬間集団の目が一斉にこちらへ向く、やはり注目されるのは苦手だ。
群れからはぐれた者を一人ずつ狩った方がよかったのでは?と一瞬思ったが後の祭りである。
名前を呼ばれたと自覚があったのかは知らないが、一斉にこちらへと向かいだした。
さすがにあれを真正面から受け止めるのはきついため、すぐさま横穴へと入る。
その横穴はさっきから目をつけてただけあって横が狭く、大人数でかかることは出来ない。
案の定ゴブリンたちは二列ほどになりながらこちらへと向かってくる。
短剣を構え、まず先頭のゴブリンを鑑定する。
■■■
【Name】 《名前なし》
【Race】 ゴブリン 《魔物》
【Sex】 男
【Lv】4
【Hp】 14/25
【Mp】 25
【Sp】 0
【ATK】 25
【DEF】 25
【AGI】 25
【MATK】 25
【MDEF】 25
■■【
■■【スキル】■■
■■【称号】■■
■■■
錆びた剣をやたらめったら振り回しているが、スキルを持っていないのなら怖くない。
まず剣を短剣で受け止め顔面に思いっきり拳をお見舞いする、すると拳に殴った時の感触とは別にパキパキと嫌な音がするおそらく顔がつぶれたのだろう。
殴ったゴブリンはそのまま吹っ飛んでいき後ろの仲間に当たった後、いくらか痙攣して動かなくなった、鑑定したところHpが0になっている、死んだようだ。
間を置かずもう一方のゴブリンが上から袈裟懸けに切りつける、それを半身になって躱しながらゴブリンの額に手を当てそのまま壁に叩きつけた。
こちらもまるでトマトを潰したかのように赤いものが出て息絶える。
手に隠れて見えなかったがかなりグロテスクなことになっているだろう。
吹っ飛ばしたゴブリンを押しのけ、また新しいゴブリンが2体切りかかってくる。
気のせいかさっきよりも動きが遅く見え剣先の動きまで捉えられる。
せっかくなので片方のゴブリンの腕を掴み思いっきり下から膝で蹴り上げる、腕が折れて悶えている隙に片方のゴブリンの喉元を切って始末する。
腕が折れているゴブリンを思いっきり蹴って、後ろへと飛ばす。
今度は後ろの仲間に当たり、重なって倒れる。
足元にあった剣を拾い上から突き刺す、重なっていたゴブリンがまとめて動かなくなる。
刺した剣を抜いて向かっているゴブリンたちに投げる、何体かのゴブリン達の手足を切り離し、奥にいた一体の頭に突き刺さる。
怯んだゴブリン達に短剣を持ち直しそのまま駆けていく。
目の前に醜悪な顔があれば殴り武器が飛んでくれば受け止める、目に映ったものからかたっぱしに、がむしゃらに対応していった。
「…あ」
気が付くとゴブリンは群れのボスを除いて全滅していた。
戦っていた記憶が後半からすっぽり抜け落ちている。
いつの間にか横穴から出ているし、鎧にもいくつか傷がついているが記憶にない。
横穴で各個撃破する予定だったのだけど、夢中になって忘れていたようだ。
「君で最後らしいよ?」
声をかけてみたが相手には挑発としかとられなかったようだ。
「キシャァァァァァァ」
奇声を上げながら振りがぶってきたので半歩下がり、短剣を水平に振る。
そして最後の一匹の頭が体から落ちた。
戦闘が終わった後、ゴブリンから素材をはぎ取る。
装備は腰蓑1枚だったので、主な収穫は武器の剣と魔物の核となる魔石だけだ。
この魔石、魔力をため込んでおいて使うことができるためこの王国では需要があるらしい。
一気に持っていくと目立つのでこまめに売っていこうと思う。
薬草を少し使い体の傷を癒す。
戦闘中は意識が高ぶっていて痛みをあまり感じなかったが、落ち着いてくると切り傷がチクチクと痛い。
薬草を適当に口に放り込んで傷口に包帯をつける。
「さて、そろそろ帰ろうか」
荷物に着けていた『アリアドネの糸』を発動し、出口へと帰還していった。
◆◆◆
「クロード様、薬草16本納品したため依頼達成とします」
「そうか」
ダンジョンを出て今自分はギルドのカウンターにいる。
もうあたりは暗くなり、この時間帯は依頼が終わった冒険者たちが酒盛りを始めていてとても賑やかだ。
「報酬の銀貨3枚と薬草超過分の銀貨2枚、合わせて銀貨5枚となります、お確かめください。」
彼女の奇麗な手の平にちゃんと五枚の貨幣が乗っている。
手にもって初めて自分が働いてお金を稼いだことを実感し、その物体がとても尊くズシリと重たく心に乗ってきた。
「それと一つ目の依頼を達成したため、自動的に冒険者ランクがFからEへと昇格します」
「分かった」
どうやらFランクというのは日本でいう仮免許みたいなものらしく、依頼をこなして初めて冒険者になるという。
「初めての依頼達成おめでとうございます。これからも頑張ってください。」
分かったから、早く終わらせくれ。
後ろの奴の顔の眉間に皺ができてきたから。
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】7 (▲6)
【Hp】 160 (▲60)
【Mp】 160 (▲60)
【Sp】 220
【ATK】 160 (▲60)
【DEF】 160 (▲60)
【AGI】 240 (▲90)
【MATK】 144 (▲54)
【MDEF】 144 (▲54)
■■【
【
■■【装備】■■
【無銘の魔剣】
【無銘の魔剣】
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,1
<
【偽装】Lv,2
【鑑定】Lv,1
【看破】Lv,1
【隠密】Lv,1
■■【称号】■■
【異世界人】【冒険者】
■■■
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