第15話 初依頼・前編
黒パンと軽い野菜のスープで銀貨三枚、
こういったパンを食べるのは初めてだったが、あまりの硬度に歯が欠けるかと思った。
こんなに硬いものをどうやって食べているのかと、ふと周りを見てみるとスープに黒パンに浸してふやかしている。
それを見て実践してみたがそれでも食いちぎるのに一苦労した、ここで生活していくのだから慣れていかなければならない。
そして支度を済ませ、また冒険者ギルドの依頼の掲示板の前に戻ってきた、様々な依頼を見ていたが、まずは【採取依頼】から始めてみようか。
昨日登録したばっかりの男子中学生に、戦うであろう【討伐依頼】、【護衛依頼】は危険が大きい、自分は器用な方ではないので【雑務依頼】はきついだろう、消極法で決定した。
【採取依頼】でこの世界に慣れてから戦闘へと移ったほうが、安全に冒険者として成長して行けるはずだ。
掲示板を一通り見て一番簡単そうなものを探した。
普通ならばパーティを組んで受けるものが多数だが、自分のように何か事情があってメンバーをうまく集められなかった少人数用の依頼もある。
この依頼は絶対に成功さよう。
依頼が失敗するとかなりの理由がない限り違約金を払わなければならないこともあるが、冒険者を始めて最初に受けた依頼が失敗するなんて縁起が悪いにもほどがある。
迷った末に選んだ依頼は…
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From 冒険者ギルド
Rank F
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ダンジョン低層に生えている薬草を10本採取してきてほしい。
10本以上取ってきても構わないがその場合、3本あたり銀貨1枚で買い取ろう。
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低階層に生えている薬草の採取だった。
「低層ってどんなモンスターがいるんだろう」
世の中そんなに甘くないことは分かっている、極端な話、入った瞬間にドラゴンに出くわしても驚きはするが理不尽とは思わない。
「できるだけ準備しておかないとな…」
紙をはがしながら覚悟を決めた。
「クロード様この依頼を受けるのですね?」
渡した依頼を一見してから受付嬢が確認してくる。
一瞬『クロード』という名前が自分のことだと気付くのに少し時間がかかった。
「あぁ、頼む」
「この依頼は少数パーティ専用です、個人でも達成することは出来ますがかなり時間がかかると思いますよ?」
「大丈夫だ、問題ない」
時間の問題であれば大丈夫だ、結果的に依頼を成し遂げられるならば努力は惜しまない。
「分かりました、では依頼を受諾します」
「頼む」
出来れば低層のモンスターのことを聞きたいが、いまこの列にはかなり人が並んでいるのであまり時間をかけると悪い意味で注目される。
あまり受付嬢と話していると柄の悪い冒険者に絡まれるという『テンプレ』という展開があると柿本が言っていたので、最短速度で終わらせてさっさと出る。
「…しまった装備を買っていなかった」
昨日の市場では顔を隠すことしか頭になくて仮面を買って満足して帰ってしまった。
アイテムを買い替えることで頭がいっぱいになり、装備を変えることを忘れてしまう、RPGゲームなどでよくやってしまうミスだ。
むこうなら失敗談で済まされるかもしれないが、この世界では生死にかかわってくる。
「気を引き締めよう…」
どうも自分の心のどこかで油断があるらしい、改めて兜の緒を絞めなおす。
防具と剣は鍛冶屋で売られている。
工業区は昨日の騎士から説明されていたので難なく見つけることができた、扉を開けるとカランカランと軽快な鈴の音が鳴る。
そのまま鍛冶屋に入れば熱気が襲ってきた、奥で鍛冶をやっているので年中暖房がかかった状態なのだろう、冬は暖をとる手間が省けていいかもしれないが生憎今の季節は夏だ、外の気温だけでもへばっているというのに、年中クーラーのきいた部屋で過ごしていた人間にとっては地獄のような空間といえる。
早く用事を済ませてしまおう。
「…いらっしゃい」
いかにも頑固おやじのような顔をしていて、雑に切った赤色の髪が火事場の炎のようだった。
「これまたひょろっこいのが来たのう。」
「ほっといてくれよ、生まれつきなんだ。」
こんな会話から始まったが武器がほしいとなると目が変わった、柿本とは違う職人の目だ。
腕を組んでこちらを上から下までひと睨みする。
「お前さん、前衛かね?」
「まぁね」
パーティもなにも一人しかいない。
「そうなるとパワータイプじゃないだろ、スピード特化型かね?」
「よくわかったね」
鑑定を使ったわけでもないのに、こちらのステータスを知っているかのような口ぶりに思わず感心して声が出ていた。
「伊達に人様の体を見て武器やら鎧やらを売ってきたわけではないんじゃよ。」
豊かに髭を蓄えた口がニヤッと笑う、己の積み上げてきたものに対する絶対の自信からくる表情だった。
ここは爺さんに任せた方がよさそうだ、下手に自分が選ぶより餅は餅屋に任せたほうがいい。
「時に予算はなんぼだかい?」
「金貨七枚」
「ほう...こりゃまた持ってきおった。お前さんどこかの貴族かね?」
「ただのFランク冒険者だよ」
爺さんが今度はこちらの服装をじろじろと観察する、あまり気持ちのいい感覚だとは言えなかった。
しかし金貨七枚で金持ちか、日本円で70万は確かに大金だが武器を買うとなればそこまで大した金額だとは思わない。
「冒険者が初めて武具をそろえるときの予算の相場はどのくらいなんだ?」
「大体パーティーで集めて金貨三、四枚くらいかのう、お前さんみたいに一人で金貨何枚も持ってくる奴なんて、だいたい貴族の三男四男ぐらいのものじゃ。
まぁ大方盾役の鎧につぎ込んじまって、
「なるほどね…」
どこの世界でもやることは同じらしい、少なくとも自分はゲームでそうする。
「これなんかどうじゃ? 一つ買っても金貨一枚余るぞ?」
そう言って爺さんが渡したのは金で彩られたレイピア、一見して高そうなものであることが伺える。
「やめておくよこんな身の丈に合わないもの、私みたいな新米もいいとこの初心者が持ったら剣がかわいそうだ」
「そうかい、まあ高くはなくとも安い武器を持つのはやめておいた方がええ、体に変な癖がつくからのぅ。
何か志望はあるかね?」
ちょうどいいので一つ質問してみる。
「短剣はあるかい?」
スキル取得一覧を見たとき【短剣術】なるものがあった、おそらくこの先取得するであろうから今のうちに慣れておきたい。
【隠蔽】で敵にひっそりと近づき【短剣術】で敵に一撃を加える
「それだったらいいもんがあるよ」
そう言って爺さんが取り出したのは二つの短剣、約30㎝ぐらいの長さの鞘に納まっている。
「それ一つで金貨三枚だ」
随分とかかるな、見た目はさっきのレイピアとはうって変わって地味なんだが。
「何か特別なものがこの短剣にはあるのか?」
自分が質問すると爺さんはニッと笑って答える。
「それは初期の魔剣でな、持ち主と共に姿形と強さが変わっていくのじゃよ」
「…買おう」
そんなことを聞かされては自分の中に流れている男のロマンの血が騒いでしまう。
進化する武器なんてゲームにあったら絶対ほしい。
「これがいい」
「焦らさんな、まず中身を見てからでも遅くあるまいて」
どうやら知らずのうちに興奮していたようだ。
柄をしっかりと握って剣の刃を確認する、片刃の直剣だ、ますます気に入る、『今のは峰打ちだ』なんてやってみたい。
「非の付け所がない、これで決めた」
「
その後装備を爺さんに選んでもらった。
初心者が着ける簡単な鎧と厚手のマントでちょうど金貨一枚が尽きた。
「いい店だったよ、また来る」
「もうちょっとましな様になって来いよ、坊主」
そんなやり取りで鍛冶屋を後にした。
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】1
【Hp】 100
【Mp】 100
【Sp】 0
【ATK】 100
【DEF】 100
【AGI】 150
【MATK】 90
【MDEF】 90
■■【
【
■■【装備】 《New》■■
【無銘の魔剣】
【無銘の魔剣】
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,1
<
【偽装】Lv,2
【鑑定】Lv,1
【看破】Lv,1
【隠密】Lv,1
■■【称号】■■
【異世界人】
■■■
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