第12話 脱出決行
この国の時間の基準は、昼夜をそれぞれ十二等分した一日二十四時間方式だった。
できる限り地球と同じ環境をそろえることによって、勇者たちになるべく早く馴染んでもらうための方策だとか。
さすがに勇者を召還する国だけあって、そのあたりの準備は万全にしていたらしい。
正午より少し前、自分こと影山亨は柿本といくつかある広間の一つにクラスメイト達と集合している。
背に背負っている鞄の中身には財布とケータイ、それと筆記用具を入れている。
「どうでしたか緒方先生?」
遠くで生徒会長と先生が話をしている。
「ダメでした、いま私にできることは、彼らが扉を開いてくれるまで待っていることしかないようです…」
クラスの中でも数人はこの見学には参加せず部屋に引きこもっている、あまりの環境の変化に彼らの思考能力がついていけていないのだ。
下唇を噛み締め己の無力感を痛感している、先生にしては珍しく感情が表に出ていた、それだけ深刻な問題ということか。
無理もない、世界を救う勇者として呼び出されたといえば耳障りはいいが、その過程だけ見ればただの集団拉致だ、むしろ彼らのほうが正常な反応をしているいっても過言にはならない。
「せっかく異世界に来たのに損な奴らだよなぁ
部屋に閉じこもっていようが周りが変わらないんだから、楽しんだらいいのに」
君ほど抵抗がないのもどうかと思うけどね。
「なぁ柿本、お前のことだからこの国について何か下調べをしたんじゃないか?」
自分もいくつか聞いてみたので柿本の知らない情報があるかもしれない、少し時間があるので情報共有をしておくのも一つの手だろうと、そんな軽い気持ちで聞いてみた。
…それがとんでもない地雷であることに気付いたのは、自分がこの言葉を発してから一秒たってから。
途端に柿本の目の色が変わった、これは長くなる。
「聞いたか影山、冒険者ギルドがあるんだってさ!
早く入ってチート無双して、成り上がりがしたいよな!」
自分たちはもうこの国の中心人物のような気がするがそこには触れないでおこう。
「柿本、たぶんお前はギルドに入れないと思うぞ」
「…え?」
自分が入れない理由を告げると、柿本はまるでこの世の終わりのような顔をしてしばらく黙り込む。
そして言い聞かせるようにぶつぶつとつぶやき始めた。
「いや、王様に『自分は役立たず』って申告して、城から出て自由気ままに暮らすという可能性が少なからずあるかも」
「それ、無理だろう」
君のステータスはもう王国が把握している、40人いるとはいえわざわざ貴重な戦力を逃すとは思えない。
「嘘だそんなことは…」
柿本が思考停止してしまったので別の話題を切り出す。
「それより聞いたか柿本、ダンジョンがあるらしいぞ。
冒険者は無理かもしれないけど、ダンジョンになら潜ることができると思うが?」
「そんなことではないんだ…冒険者になってからダンジョンに潜るからこそ意味があるんだ…」
柿本が弱々しくそう呟く、まずいな、これは復活に時間がかかりそうだ。
「皆さんお集まりいただけているでしょうか?」
自分が柿本の回復を待っているうちに、集合の時刻になってしまったらしい。
王女様が数人の従者と騎士を連れてやってきた、彼らの一人が小さな袋をたくさん抱えている。
「今から一人一人に金貨十枚を配りたいと思います、この金銭で城下町の見学を楽しんできてください。」
どうやらクラスたちの雰囲気が国に伝わったようだ、ただ見学させるよりお金を使って買い食いしたりお土産を買ったりした方が楽しいに決まっている。
そうやってこの国から出たくないようにクラスの気持ちを持っていきたいのだろう。
こうしてクラスによるこの国の調査兼観光が始まった。
◆◆◆
石板を敷き詰めて舗装された道路にレンガの家が建ち並び、さながら中世ヨーロッパの風景が目に映る、都会とはまた違った喧騒が耳に響いた。
「こちらが国立銀行となります、この王国を支える基盤であり財政の中心でもあります。」
王女が身振り手振りを加えながら目の前の建築物の説明を行う、観光、もとい見学の流れとしては、主要な要所を回った後、何人かの班に分かれ自由行動にするらしい。
自由行動にクラスのほとんどが浮足立つ中、自分には必死にメモを取った、後で使う大事な情報をわざわざ教えてくれるのだ、ここで聞き逃すわけにはいかない。
クラスが一番盛り上がったのはやはりというべきか、ダンジョンの説明の時だった。
特に復活した柿本のテンションの上がりようは凄まじく、騎士にダンジョン内部に入っていいかと何度もせがんでいた。
気持ちはわかるがもう少し抑えてほしい。
そして昼の三時ごろにすべての施設の説明が終わり班行動となる。
自分たちの班の護衛を担当する騎士はブラムドという名前の、体格の
言峰の担当の騎士はものすごい美人さんだった、柿本は主人公補正があるなどと言っていたが、あれは絶対王国側の他意があると思う。
自分たちの班は柿本の提案で、まず城下町にある市場に行くことになった。
この時間帯はかなり人が多く、騎士がサポートしてくれなかったらはぐれていた。
「さて、始めるか。」
まず自分が訪れたのは気の良さそうな夫人が店主をしている服を売っている店、その中からできるだけ市民が来ているような服をいくつか選んでもらう、
今着ている服装は貴族が着るような高価な服装のため、先ほどからちらちらとこちらを見る人がいて出来れば今すぐにでも着替えたい。
下着から上着まで服を一通りそろえると銀貨40枚と言われた、質のいいものが集まる王都ということも考えて銀貨一枚は千円ほどだろうか?
騎士が他の生徒に注意をそらした隙に、素早く買って鞄の中にしまう。
金貨1枚出すとお釣りとして銀貨60枚が返ってきた、金貨1枚で銀貨100枚に換算されるようだ。
つまり今自分の財布の中には、約100万円ほどの大金が眠っていることになる、王女様も随分と奮発してくれたらしい。
その後、いくつか出店を回り、最後に班が向かったのは町の角にある飲食店。
お腹がすいてきたので食事しないかと自分が提案し、柿本と同じ班の人が選んでくれた。
サンドイッチなど軽いものを注文して一通り食べた後、帰り際にお手洗いに行かせてもらう。
驚くべきことにこの王国のトイレは進んでおり水洗式だった、これも前代勇者の恩恵というものか。
自分は個室に入って【分身】を発動させる、前に見たように黒い霧がたち分身が出現した。
分身体を柿本たちのところに向かわせる、護衛の人はおろか柿本達も分身に気づいてはいないように見えた。
分身体についての問題はほぼ解決していた。
一度出してしまえば、自分が消えろと思わない限り出現し続け、また意識を向けてないときは自立して行動してくれる。
さらに意識がつながっているので、向こうで何かあった時にいち早く察知して対策を立てることができる。
至り尽くせりというべきか、さすが【
その後、分身の視覚から柿本達が城へと帰っていったところで、さっきの服に着替えマスクを外し、道具屋で買った鞄に着ていたものを詰め込む。
そして何事もなかったかのようにお手洗いから店内へと戻った。
自分に対してだれも注意を向けてこない、どうやら入れ替える作戦は無事成功したらしい
しかし安堵している暇はない。
次はこの王都で生きていく上での準備をしなくてはならない、メモを片手に急ぎ足でさっきの市場へと戻った。
■■■
【Name】
【Race】 人間
【Sex】 男
【Lv】1
【Hp】 100
【Mp】 100
【Sp】 20
【ATK】 100
【DEF】 100
【AGI】 150
【MATK】 90
【MDEF】 90
■■【
【
■■【スキル】■■
<
【分身】Lv,1
<
【偽装】Lv,2
【鑑定】Lv,1 (New)
【看破】Lv,1 (New)
■■【称号】■■
【異世界人】
■■■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます