第2話 異世界とつにゅう
退屈な授業が終わるとすぐに帰る。問答無用の帰宅部だからだ。同じく帰宅部の空前と白石が後ろからついてくるがいつものように無視してすぐに校門まで向かう。
校門から1歩出ると、だれが早く着くかは分からないし、家に近い人が圧倒的に有利なのでそこは気にしない。なので、校門で2人を待つ。
2人の姿が目に入ると、空前に合わせてゆっくりと帰る。
周りのビルの影の中を歩きながら、白石が口を開く。
「この高校の歴代合わせても、こんなにスピードに拘ってるのお前だけだよな」
「そうか?」
ふふふと笑顔がこぼれてしまう。
「いや、褒めてはいないんだけどな」
え?そうなの?
「ん?なんだこれ?」
白石が首を下に向けてる方向に、目を合わせると変なガラス玉付きの指輪があった。赤と緑と青が斑模様となってガラス球の中で∞のマークのように泳いでる。
なんだか、この世のものとは思えない輝きがある。錯覚だろうけど、この輝きが気に入って身につけた。
時空が歪み、周りの背景が数十もの色に侵食されアメーバのように広がっている。
自分たちの身体もデータ化されるかのように皮膚や服が次々と形を歪ませては長方形の形にいくつも変化していく。色は何もかもごちゃまぜだ。
えっ!?はっ?っと思っていたら、視界もわからなくなってきた。
気がついたら、アスファルトから少し粘り気のある茶色い土が足元に広がっているジャングルに放り出されていた。俺を含めて3人共、目を丸くしたまんまで動こうともしゃべろうともしない。数十秒の沈黙と静止のあと、空前が動き出す。
「とりあえずさ、歩こうか。帰りたいし、ご飯食べたいし」
「こんな時にもご飯かよ」と俺は笑う。
「こんな時だからこそ、ご飯だよ。食料ないと、これから先やっていけないからね」
カバンから、お菓子を取り出して食い始める。いや、重要な食料をボリボリと食ってんじゃねーか。そんな視線に気づいたのだろう。
「腹が減っては戦ができぬ」
「戦をしにきたのか?」
「素手で~?」
「このまま戦いへと挑む選ばれし三人?」
「素手で帰宅部で負けが見えてるのに?」
「女子供にしか勝てないのに?」
「うんうん」空前が頷く。
くだらないことを言ってる間に森の切れ目から淡い水色のレンガの壁で囲まれている国もしくは街が見えた。
その出入り口の鉄製のドアは大人5,6人は入れるぐらいの幅でそびえ立っている。その手前に、艶のある髪が腰近くまで伸びた女性がいる。俺が二人よりも早く駆けつけていく。誰よりも早く足を上下を動かすとそこにたどり着く。当たり前のことだがそれが大事だ。
「すいません、この世界に迷い込んだんですけどどうすればいいかわかりますか?」
相手はメガネをかけて地味そうに見えてるが顔はとても整っていることが伺える。が、今はその顔が疑問符に満ちている。
「え?どういうことですか?迷子ってことですか?」
「迷子っていうか、なぜかわからないですけどこのあたりまで飛ばされちゃって。」
へへっと、なぜか少し照れ笑いながら話しかけてしまった。
後ろから追いついてきた二人が到着する。
「ようやく追いつけた」 白石が短い距離だが、肩を上下させ息を切れ切れさせている。
「はやいよ~。早川」空前は平気そうだ。
続けて、俺が女性に話しかける。
「だから、お姉さんの家に泊まらせてもらっていいですか?」
「え?」「は?」と二人が同時に漏らす。
「うーーん。その服見る限り、このへんの人じゃないよね?」
「はい、日本から来たんですけど」
メガネの女性は戸惑いを少し見せているままこう口に出した。
「私の家、両親がいなくなってから広いし、短い期間ならいいよ」
「やった。ありがとうございます。」
「本当、突然言ったのにすいません」と空前が頭を下げる。
白石は「本当にいいのかな?なんか申し訳ないよ」
「いいんだよ。向こうが許可出してるんだから、そのままベッドにゴーだ」
白石と空前が同時に頭を叩いてきた。
「お前のスピード感なんとかしろ!」
「ただ単に泊まりたいって意味にもとれるけど、あまりに危険すぎる物言いだよ~」
けれども、メガネの女性は微笑みを返してくれてる。
「ふふっ。楽しそうでいいね」
ほら、やっぱり良かったじゃん。そういう視線で2人を見ると「むー」という表情だ。
「とにかく、この中に入りましょうか」
門の方へ近づいていく。門扉の両端上には銅のドラゴンの装飾がほとこされている。
「この中は街ですか?国ですか?」
「ランドって国よ」
女性が門扉をリズミカルにノックしている。これが合図なのか、向こう側から開かれていく。
鉄の鎧を上下セットに着た門番の人が出てきた。ドラゴンの模様が鎧にはうっすらと描かれている。
「ああ、彩さん。後ろの3人はどなたですか?」
「私の友達なんだけど、中に入れてもいい?」
「彩さんの友達ならば、何千人でもどうぞ」
「ありがとう。でも、何千人も友達いたらコミュニケーション大変そうね。ひとりずつ挨拶するだけで、1時間はかかりそう。」
白石が「友達は多い方がいいって言うけど、あれは違うってことか」とつぶやく。
「少ないより多いほうがいいだろうけど、限度があるなってことだろ」
「そうそう~。白石くんほど友達少ないと大学行ったら大変そうだもん」
俺と空前がそう返すと、心痛ましそうに白石が言う。
「数少ない友達に、友達の少なさについて苦言されるとなんか心へこむものがあるぞ」
「元からへっこんでるところ多いだろ?」
「へこんでるペットボトル直すために、周辺に力を加えれば直るのと同じじゃない~?」
白石が2つの意見に丁寧に突っ込み返す。
「元からへっこんでるのが多いから、これ以上増やしたくないんだよ。あと、周辺に力を加えるの微妙なさじ加減でやらないとさらにへっこむから心の方は繊細に扱って!」
「「分かりました、ネガティブ大尉!」」二人共同時に敬礼する。
「だから、その呼び名をやめろ」
「呼び名といえば、お名前は何というんですか?」彩さんというのは分かったが、苗字が分からない。
「有賀彩よ。みんな彩さんって呼んでるから同じように呼んで。君たちは?」
2人に言い負けないように、相手の語尾が言い終わる直前から話す。
「早川重です。身長175センチ、体重62キロ。誰よりも早く走ることが好きなんですけど、全国に行って負けを経験したくないから陸上部には入っていません。」
「後ろのこいつが、身長が170ぐらいでスポーツド下手で、心がちょっぴり繊細ネガティブなのが白石影太です。」
「そして、身長が一番高く誰よりも食べることが好きでお菓子で周りの人を餌付けしまくるのが趣味なのが空前食才です」
「一人で全部紹介しないでよ~」
「あと、ちょっぴり繊細じゃない。そこそこ繊細なんだからな」
「細かいノイズは気にしないでください」
彩さんは微笑みながら「分かった」と右手で少し敬礼してくれた。
門番の人に、名前や住んでいるところ、所属団体を書いてくれと頼まれた。それらを書いたが、向こうは理解できなかったようだ。日本語は通じるけど、文字は通用しないのか。不思議だな。
門扉が開かれ中に入って行くと赤やオレンジなどの色合いのレンガ造りの街並みが視界に広がった。家や壁は基本的にレンガが使われおり、道路は石でタイル状に埋め込まれている。現在の空模様は曇りだ。天気が良ければ、もっと見晴らしのいい街並みになっているだろうな。
彩さんも上を見ながら話しかけてきてくれた。
「この国では、曇りや雨が多くて水には困らないんだけど日差しがもっと欲しいのよ。個人的な意見だけど、好きな野菜は日照時間多いほうがやっぱり多いの。かぼちゃ、さつまいも、にんじん、だいずとか。あっ、でもいちごとかさといもは日照時間短くても育ちやすいのでランドでもよく食べられるよ」
俺たち3人はそんな情報を流し聞きしていた。それよりも、どうしても気になる生物が目に入る。中型犬ぐらいの大きさで、3等身ぐらいで2足歩行を行っている緑色の鱗を持った生物のドラゴンがいる。鱗がピカピカと光りながら、犬のようにリードのひもで繋がれて人間と散歩している。
「あの、何で小さなドラゴンが普通にペットのように歩いているんですか?」
有賀は気まずそうに「君もドラゴンは全部奴隷にすべきって派閥なの?」言った。
「いやいや、そういうことじゃなくて、ドラゴン自体初めてみたもんで驚いているんです」
「え?見たことないの?こんなかわいいのに?」
「見たことないことと、かわいいのは=で結びつかないと思います」
「そうよね。ごめんね。」
「ごめんね」と謝った時の笑顔がドラゴンよりよっぽどかわいかったから全てを許したい。
彩さんの説明によると、この国では、ドラゴンが昔から人間と共存して暮らしていて現在では火力発電から運送、農業まで様々なところでドラゴンが手伝ってくれている。そうやって、人間の助かる部分も大きいが同時にドラゴンを奴隷として扱おうとする流れが大きくなっていってしまった。さらに死んでしまったドラゴンを食用として扱う流れもあって、ドラゴンの肉を食べると長寿になるという噂が何十年に一度必ず流行る。それによって、死んでしまうより先に殺してしまってドラゴンの肉を販売する店も出てき始めてこれがまたまた問題になる。ペットとしてもこの国では多く扱われているのに食べるのを見るのは辛いから国民でも反対派が多く集まって現在は禁止になってるが、いつかまた噂が流れ始めたら解禁するか分からない状況になった。
「私が働いている職場でなんか………ちょうど着いたわ。この中で話しましょうか」
何かこの国の暗部めいたところに同時に入るかのようだ。
家は赤レンガ作られて、中は3LDKといったところ。中の壁は白く塗りたくられている。何よりも驚くのは、玄関で迎えに歩いてやってきたこの小さなドラゴンだ。丸くくりっとした瞳が特徴的な小型犬ぐらいのドラゴンが、彩さんの足元にやってきて一気に飛翔する。翼をばたつかせながら、彩さんの肩に乗っかり「グァァ」と鳴き声を出しながら、甘えている。
「これは可愛いな」と3人全員が首を縦にふる。
「でしょー?」
と、今日一番の上機嫌さで話しかけてくる。
「この子の名前は、クリっていうの。目がくりっとしてるから。もうひとりが」
奥の廊下からバサッバサッと羽ばたかせ、彩さんの目の前で小型ドラゴンが止まる。見た目の印象として、他のドラゴンより少し太ってる。彩さんがドラゴンの頭をなでながら言う。
「この子は、マルっていうの。クリと比べてちょっと体型がまるまるとしてるでしょ?だから」
「触ってもいいですか」と白石が触りたくて仕方なさそうな目をしている。
「ええ、どうぞ。人懐っこい子たちだから大丈夫よ」
白石が興味を持ちながらもおそるおそるクリに触ろうとする。すると、クリは翼を前後に2回羽ばたかせ身体を後ろに向けて拒否する姿勢を見せた。
「え?嫌われてる?早くない?」
「俺じゃないんだから、そんな嫌われるスピードを見せなくていいのに。やるなぁ。」と笑いながら、俺も触ろうとする。クリは羽ばたく音を大きくさせながら、白石の頭のところに乗っかった。白石が黒目と手をゆっくり上に移動させる。クリの頭をなでようとすると、グァァと鳴き声を鳴らす。受け入れてくれているようだ。最初の拒否にみえた羽ばたきは、ただのいたずらだったようだ。
「言ったでしょ?人懐っこいって。」
それから、白石がクリに首ったけになったのは言うまでもない。
3人で国家救出しよう @arakawa9
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