3人で国家救出しよう
@arakawa9
第1話 学校ぐらし
学生の誰よりも早く職員室に教室の鍵を取りに行き、教室の扉を開けた。「何事もはやく」というのが、早川重こと俺の日課というか使命に近いかもしれない。
小さい頃から歯を磨くのを速く、出かける準備を早く、たどり着くのも一番じゃないと気がすまなかった。足も昔から速く、鬼ごっこでもじゃんけん以外で鬼になったことはないし運動会でも常に1番をもぎとっていた。
親いわく「あんたは信号が青になったその瞬間に早歩きするから車とぶつからないか、本当に心配だったわ」
朝早く学校にきて何をするかというと、寝る。やることはやったのだ。寝るしかない。本を読むという選択肢はない。俺は頭が良くないから、速読はできても理解が追いつかない。1時間ぐらい経ったあとなのだろうか。ざわざわと教室が音に包まれ始めると、起きる。目の前に白石影太の後ろ姿だ。手で背中をつつくと、ビクッと震わせて後ろを振り返っている。白石がこちらを向いて「ビクッってなるから、やめろよ」と目を細め言われる。
「こんぐらいいいだろ」と笑って返す。
「それより、聞いたか?今さっき女子が俺の悪口を言ったような気がするんだけど」
「寝てたから知らねーよ。どうせいつもの気のせいなんじゃねーの?」
「いや、今回は違うって。『生きてるんじゃねーよ』とか『この童貞が』って聞こえたんだから」
うーん、うちのクラスでそんなに口の悪い人は一人除いていないだろう。その人まだ学校きてないし。
「お前のそのスーパーネガティブっぷり、何とかならないのか?」
「なってたら、こんなに苦労した人生送ってねーよ」
「そんな若い身体で、大変じゃのう~」
「同い年のくせに、急にじいさんになるなよ」
「これは失礼つかまりました。ネガティブ大尉!」
「軍人になるな。そんな呼び名も嫌いだし」
と冗談を言い合っているがこいつのネガティブっぷりは筋金入りで俺が思っているよりも根が深く苦労しているはずだ。以前あったことでいうと、電車の中で降りる駅でないところでドアが開いた瞬間、隣に座っていた白石が急に全速力で走りさっていったことがある。後で聞くと「俺のことかどうかわからないけど、あの言葉たちには耐えられなかった」と言い残した。
色々と辛いことはあるだろうけど、できるかぎりはサポートしていこうと思っている。昔からの友達だ。
右横でゆっくりと座る姿が目に入る。ふ菓子の「うまい某」を食べながら座る空前食才だ。身長が180センチ近くもある高さで痩せている。
いつも何かお菓子を食べているが、一向に太る気配がないので女子から疎ましがられている。と思いきや、みんなにお菓子を配り本人の温かい性格も相まってか一斉に餌付けされる結果になった。そんなことでお馴染みの空前食才が視線を白石に向けた。
「今日もネガティブ大尉は元気~?」
「元気じゃないから苦しんでるんじゃないか。空前まで言ってくるとは、世の中はもう捨てたもんだよ」
「勝手に捨てるのは、お菓子のゴミだけで十分だよ」と空前がわざわざ自分で持ってきた小さいゴミ箱にお菓子の袋を捨てる。
「うまいこと言ったつもりか?」
「このお菓子はうまいよ~。食べる?」
カマンベールチーズのベーコン巻き味のふ菓子をネガティブ大尉に渡す。大尉は、口をもぐもぐと動かす。
「うん、うまい!」
「ふふふ」とみんなを温かくする笑顔でほほえむ。
今日もまた餌付けが成功してるな。空前の笑顔と言葉は、人を温かみある人間に戻してくれる気がする。
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