悪魔に魂を売るなら
……ふと、思ったのです。
小説でもエッセイでも――もちろん文芸作品に限らず、マンガとか写真集とかも全部含みますが――作家さんの“魂”が込められたものが“作品”であるならば。
その“作品”が収められた本を売っている本屋は、作家さんの“魂”を売っているのではないかなと。
自らの目的(欲望)のために人の道を外れた行いをする、という意味で、「悪魔に魂を売る」という言い回しがあります。
レビュ爆・☆爆・複垢・相互評価etc……
作家さんの中には、PV数や評価を稼ぎ、ランキングを上げ、コンテストに通るため・書籍化のために手段を選ばないことをそうおっしゃる方もいますが。
死神は音楽が好きだそうですが(※1)、悪魔は本を読むのでしょうか?
自分は14年と9か月、書店で働きましたが、悪魔が本を買いに来たのを見たのは一度もありません。
デーモン小暮閣下が「世を忍ぶ仮の姿」で現れたなら、気がつかなかったかもしれませんが(デーモン閣下はたくさん本を読んでそうですけど)、本を買うのは人間のお客様。
中には、迷惑なお客様も、いろいろ面倒なことを言ってくるお客様もいましたけど、みんな人間です。少し困った普通のひと。上司は鬼でしたが。
悪魔は、本を買いません。
少なくとも、自分が勤めたような普通の本屋では。
でも、本を買ってくれるお客様なら。
お客様は誰でも、悪魔でも歓迎すると思います。
もちろん、万引き・詐欺行為・痴漢・盗撮などの犯罪、他のお客様の迷惑になる行為や営業妨害、決められた場所以外での飲食や、購入していない本や雑誌の記事などをスマホなどで撮影する等のマナー違反はご遠慮いただいております。
……余談ですが、以前自分が書店に勤務していたとき、るるぶとかマップルとかの旅行情報誌のコーナーで、お店の本のページを開きつつ、その場でホテルに電話をかけて予約をしていた呆れたひとが実際にいました。結局本を購入しないで帰られたので、そーゆうひとはお客様ではありません(怒)。
作家さんの“魂”が、作品=本であるのなら。
売れなきゃ困るのが本屋です。
もちろん、一度にたくさん売れる本だけがいい本というわけでもないし、売れなきゃ困るけど、売れさえすれば何でもいいというわけでもない。
その魂が作品に込められたものならば。
売ってもいい、いや、売らなくてはいけないものだと思います。
悪魔に魂を売るなら。
安く買い叩かれてはいけません。悪魔に足元を見られちゃいけない。新刊本は定価で売るもので、安売りするものじゃありませんから。
定価でなるべくたくさん売ろう。
詐欺師がウソをついてお金を騙し取るのは犯罪だけど、作家はウソをついて読者を楽しませるのがお仕事。
優れた作家は、悪魔さえ夢中にさせる物語を紡ぐもの。
スティーヴン・キングの『ミザリー』(※2)のように。
さて、この文章をお読みの方が、作家さまであるならば。
もし、あなたの目の前に悪魔が現れて、その望みを叶えるかわりに
「魂を売って欲しい」
と言われたなら。
あなたは、なんと答えますか?
魂を売りますか?
売るとしたら、いくらで売りますか?
え? 自分ですか?
自分はこう答えると決めています。
「日本中からなくなった全ての本屋を買い戻せる金額で」
だから自分の魂はここにあり、今も値上がり中なのです。
※1 『死神の精度』(伊坂幸太郎/著 文春文庫 い70-1)
→ISBN978-4-16-774501-1
※2 『ミザリー 新装版』(スティーヴン・キング/著 矢野浩三郎/訳
文春文庫 キ2-33)→ISBN978-4-16-770565-7 現在は品切重版未定
Kindle版が発売中
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます