変わり続ける世界の中で

  <前回のあらすじ>

「世の中の字は小さすぎて読めない!!」(by謙さん)



 突然ですが、荻原浩さんの『うわさ』という小説(※1)、ご存じでしょうか?


 自分は少し前に新聞(地方紙)の本の紹介記事で気になり、近所の書店で取り寄せてもらって買って読んだのですが、その後で『イニシエーション・ラブ』(※2)並のラスト1行のどんでん返し(『イニシエーション・ラブ』だとラスト2行目)話題になってブレイクしたことを知りました。


 もうお読みになられた方も多いと思いますが、一応あらすじを説明しますと……


 女のコの足首を切っちゃう殺人鬼“レインマン”。でも、ミリエルの香水をつけていると狙われない……。


 女子高生の間でひそかにささやかれる噂は、実はある企業が新ブランドの香水を売り出すために意図的に流したもの。噂は口コミで広がり、香水はヒットするが、やがて虚構のはずの噂が現実となり、足首のない少女の遺体が発見され……というサイコ・サスペンス。


 話題のラスト1行は、一瞬なんのことだがわからなかったのですが、不意に気がついて、


「……え? ……あっ!?」


 という感じ。


 正直に言って後味の悪さが残るので、都市伝説的な気持ち悪さが苦手なかたにはおすすめできませんが、そうゆうのが平気なひとや、世界観そのものがひっくり返るラスト1行が気になるって方なら、一読の価値はあるかと。


 あと、かぶと虫の幼虫は食材にするよりも、ふつうに成虫に育てた方がずっと高く売れると思います。


 閑話休題それはともかく


 商品を売るため……つまり金儲けのために流されたうそが、発信元の企業側の意図を越えて変質し、暴走してあらぬ結果を招く展開とか、すごく現代的だなと思う反面、作品そのものとは直接関係のないある違和感が気になりました。


 それは、作品内でSNS……Twitter、LINE、FacebookやInstagramがまったく利用されていないこと。


 で、少し調べてみました。



 Twitter  2006年7月15日開設。2008年4月23日 日本語版が利用可能になる。


 Facebook 2004年2月4日設立。2008年日本語版公開。


 Instagram 初版2010年10月6日。


 LINE    初版2011年10月6日。


(以上『Wikipedia』より抜粋)



 各SNSが日本で使えるようになったのが概ね2008~2011年頃ですね。


 ネットで調べたら、日本で誰もが携帯電話を持つようになったのが2000年頃からで、それがスマホに変わったのが2010~2011年あたりからだそうです。


 一方、『噂』の文庫版の奥付を見ると、発行が平成18年(2006年)3月1日。さらにその2ページ前に「平成13年(2001年)2月講談社より刊行された。文庫化にあたり、加筆・修正をほどこした。」とあります(()内は著者)。


 つまり、この作品の舞台の“現代”は、だけどではなく、ケータイが普及した後でスマホが普及する前。2000年から2010年の間ってことになります。 

 

 『噂』が書かれた18年前はもちろん、加筆・修正された13年前だって、それから何年も経たないうちに、誰もが普通にスマホを持って普通にSNSを使う時代が来るなんて、誰も想像してなかったでしょう。スティーブ・ジョブズは別として。


 2018年の10代は10人に8人はスマホを持っているそうで、現在、もし現実で同じ事件が起きたとしたら……被害者の少女はスマホを持っていただろうし、当然JKたちは仲間たちとLINEでやりとりしていたはず。


 口コミを広げるのにSNSが使われないはずはないことが容易に想像できますから、この物語もまた違うものになっていたかもしれません。


 ケータイが普及する前と後とでは物語の世界が大きく変わってしまったのはよく知られたことですが、スマホが普及する前と後、それから10年も経たないうちに世界がこれほど変わってしまうとは!


 時代変わるの、早すぎですね。



 ……でもまた、10年・20年近く前の作品でも、ふとしたきっかけで大きくブレイクするのもまたネット社会の現代だからだと思うわけで。




 ※1『噂』(荻原浩/著)

 文庫版 新潮文庫 →ISBN978-4-10-123032-0

 単行本 講談社  →ISBN978-4-06-210463-0(Kindle版が発売中)


 ※2『イニシエーション・ラブ』(乾くるみ/著 文春文庫)

  →ISBN978-4-16-773201-1

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