本は売れないのに、毎年多くの小説の新人賞が開催され新しい本が次々と出版される、その意味について(本題)


 <前回のあらすじ>

 テレビでインタビューされていた現役書店員のおねーさんが、「最近はベテランの女性作家のエッセイや、ご高齢の女性を主人公にした小説が売れています」というようなことを言っていたよ。



 これを聞いていた自分は、少し怖いと思ったんですよ。 ……いや、ホラーな話ではなく。


 ご高齢の女性が元気なのは、とてもいいことです。


 女性に限らず、お年を召した作家さん……著者の方が出された作品がベストセラーになるのもよくあることです。解剖学者・養老孟司さんの『バカの壁』(※1)とか、英文学者・外山滋比古さんの『思考の整理学』(※2)とか。


 若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』みたく「年をとるのも悪くない、と思える小説」……青春小説の対極・玄冬小説は、今までなかった新しいジャンルでもっと需要があると思うし、その中から多くの読者の心を捉えるもの――ヒットがたくさん出ればいいな、と願います。



 ……ただ。


 それが、書き手だけでなく読み手の……本を読むひとたちが日本社会と同じく高齢化していることを意味するなら。


 これは、本当に怖い。


 かなりの読書家でも、年を取るに従って読む本の量は減るもの。若いときに比べ集中力が落ちますし、老眼のせいで手元の文字が見えづらくなりますから。読みたくても読めない。


『九十歳。何がめでたい』がこんなにヒットした要因のひとつに、活字が大きくて老眼鏡のお年寄りの目にやさしい……ってことがあるかもしれません。


 読書は好きたけど、最近手元の文字が読みづらい……というご家族のために本を探しているお客様から、


「活字の大きな本ありませんか?」


 というお問い合わせが、結構ありました。


 大きな活字の本、あることにはあります。

 一般的な文庫だと9~10ポイント(1文字約3~3.5mm角)の文字組のところ、12ポイント(同4.2mm角)~22ポイント(同7.7mm角)の大活字のシリーズが、いくつかの版元さんから発売されています。


 ただ、そのお値段は千数百円~3000円前後と少々お高め。刊行されているラインナップも一部のベストセラーの小説やエッセイに限られ、当然一般の書籍に比べてはるかに少ない。字が大きいため、1冊に収まらず分冊されているものがほとんどで、本のサイズもでかい。


 大活字本は図書館向けにセット販売しかされていないものもあるし、大きな街の書店はともかく、自分が勤めていたみたいな普通のお店には在庫が置けなくて、お客様の要望にはほとんど応えることができず、心苦しい思いでした。


「世の中の字は小さすぎて読めない!!」


 ですよね、謙さん。


 自分が老眼にそうなってしみじみ思うのですが、まったく、年を喰うと面倒が増えていけない。好きな本を読むのも一苦労です。


 その点、活字の大きさを自由に変えられる電子書籍は、読みやすくてとても……



 ……あれ?


 実は今回、「年々読書がしづらくなる高齢者ではなく、若いひとに支持される作品がなければ、出版業界に未来はない」みたいな結論にするつもりだったんですよ。


 ……が、よくよく考えてみると、一概にそうとは言い切れないかも。


 出版不況、出版不況といいながら、実は長い間大きな需要があるのを見逃して取りこぼしてしまっているのかもしれません。


 40代中盤から60代前後向けの集中力がなくてもサクっと読める作品。


 電子書籍なら文字の大きさを自由に変えられるから老眼でも読みづらくないし、値段も紙の本と同じか少し安いくらい。もちろん作品のラインナップも豊富だし。


 ……意外にいけそう。


 ここに結構なビジネスチャンスがあるかもですよ。




 ※1 『バカの壁』(養老孟司/著 新潮新書 003)

  →ISBN978-4-10-610003-1

 2003年年間ベストセラー総合1位(トーハン調べ)


 ※2 『思考の整理学』(外山滋比古/著 ちくま文庫)

  →ISBN978-4-480-02047-5

 1983年の初刊(文庫化は1986年)でロングセラーを続けていたが、2007年ある書店の手書きPOPがきっかけで再び全国的なベストセラーになった。


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