本は売れないのに、毎年多くの小説の新人賞が開催され新しい本が次々と出版される、その意味について

 この間、ぼ~っとテレビを観ていたら、最近売れている本の傾向について、現役の書店員さん(女性)がインタビューを受けて、


 「最近はご年配のベテラン女性作家のエッセイや、ご高齢の女性を主人公にした小説がよく動いています」


 的なことを言っていました(うろ覚え)。


 自分は現役でないので、今はたまにテレビやらネットやらで本のベストセラーのランキングや、リアル新刊書店の店頭で平台を見ている程度だけど、


 2017年の年間ベストセラーの総合1位、2018年も15位にランクイン(トーハン調べ)佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』(※1)、第158回芥川賞受賞作・若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』(※2)、下重暁子さんの『極上の孤独』(※3)、あと内館牧子さんの『すぐ死ぬんだから』(※4)とか。


 なるほど、確かにそんな感じ。


 『九十歳。何がめでたい』は母親(70代)が読みたいというので買って、借りて読んでみたのですが、自分はまだ早かったようです(笑)。



 ところで。

『九十歳。何がめでたい』は、売れるネーミング・キャッチコピーの大原則に見事にハマるタイトルなんですよ。



 広告・コピーライトの本ですが、川上徹也さんの『1行バカ売れ』(※5)によりますと、


 売れるキャッチコピーは「5W10H」。


 相手に自分ごとと思ってもらうために何を言うか(What to say)の5Wと相手に立ち止まってもらうために何を言うか(How to say)10H。



 一度見ただけ・耳にしただけで忘れられない……売れるタイトル・ネーミング・キャッチコピーには、その言葉が心に刺さる理由とパターンがあります。


 以下は自分の解釈ですが、


 『九十歳、何がめでたい』だと、

 W3(欲望を刺激する)と、H9(常識の逆を言う)の組み合わせ。


 ひとは欲望を刺激されると、その商品に興味を持ちます。商品に興味を持ってもらえたら、買ってもらえる可能性が高くなる。


 口ではなんといっても、ひとには誰でも健康で長生きしたい欲求(欲望)があります。


 ひとは常識とは逆のことや矛盾したことを言われると、心の中でストレス(不協和)が生じ、その答えを探したくなります。


 長寿はめでたいと言われるのが常識なのに、あえてその逆に「何がめでたいんだい(怒)」と毒づいていることで心に残るタイトルになっている、というわけ。



 そういえば、『すぐ死ぬんだから』もW3とH9ですね。


「長生きしたい」を逆に言ってみると「すぐ死ぬんだから」になりますから。


『極上の孤独』もH9。


 常識ではよくないものとされている“孤独”に、「極めて上等なもの(こと)」という意味の“極上”という言葉が組み合わさっていることで印象的なタイトルになっています。


 『おらおらで~』だけは、よくわかりませんでしたが。


 『九十歳、何がめでたい』のあとがきによると、このタイトルは、佐藤愛子さんが女性雑誌の週刊連載の依頼を受けたとき閃いたもので、「ヤケクソが籠っています」とのことなので、計算ではないと思いますが、その理屈がわかれば印象的なタイトルも狙って作れると思うわけで。


 ついでに言うと、2018年の年間ベストセラーの総合1位(トーハン調べ)は吉野源三郎さんの名著を宇賀翔一さんが漫画化した『漫画 君たちはどう生きるか』(※6)ですが、このタイトル『君たちはどう生きるか』はH2(問いかける)です。


 残りの4つのWと8つのHが何か、興味のある方は、『1行バカ売れ』をご覧ください。


 特に、自作のタイトルやキャッチコピーにお悩みの作者さまにオススメ。


 もちろん全部が全部そうというわけではありませんが、このようにベストセラーになる本のタイトルは、売れるネーミング・キャッチコピーの大原則にハマっているものがとても多いのです。


 もちろん売れた本のタイトル全部が全部そういうわけではないし、タイトルがよくてもそれほど売れない本があるもの確かです。ただ、売れる要素の1つであることは間違いないので、何かの参考になればと思います。



 ラッキーパンチは狙って打とう。


 

 ……タイトルに書いたテーマにたどり着かないうちに、前フリだけで紙幅が尽きてしまいました。続きは次回に。




 ※1 『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子/著 小学館)

 →ISBN978-4-09-396537-8 


 ※2 『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子/著 河出書房新社)

 →ISBN978-4-309-02637-4


 ※3 『極上の孤独』(下重暁子/著 幻冬舎新書)→ISBN978-4-344-98493-6


 ※4 『すぐ死ぬんだから』(内館牧子/著 講談社)→ISBN978-4-06-512585-4


 ※5 『1行バカ売れ』(川上徹也/著 角川新書)→ISBN978-4-04-102752-3


 ※6 『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎/原作 羽賀翔一/画 マガジンハウス)

   →ISBN978-4-8387-2947-0


   『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎/著 マガジンハウス)

   →ISBN978-4-8387-2946-3


 

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