潰れた本屋の元店員は、対象読者別というのを解説する。④一般向け

 ④一般向け


 ふつう【普通】 ①ひろく一般に通ずること。②どこにでも見受けるようなものであること。なみ。一般(「広辞苑第5版」(岩波書店)より)。



 いわゆる一般向けは、普通の大人のひと向け小説、ということになりますが。


 普通の大人のひとは、特殊な業界の事情とか、メジャーでない仕事とか趣味とかスポーツとかにはあまり詳しくないということを前提として、恋愛とか、現代ドラマとか、ミステリーとか、時代劇とかのジャンルはともかく、普通のひとが読んでわかりやすいように書かれた小説であるってことが最低の条件でしょうか。


 あと、性描写・残酷描写・暴力描写を含む作品にはセルフレイティングの表示はもちろん必須ということで。


 しかし、この一般向けの小説。無名の新人作家さんが作品を紙の本にしてリアル新刊書店の棚に並べるのは半端なく厳しい。


 なぜそう思うかというと、リアル新刊書店に行って四六版の単行本を並べてある棚を見てみると……ラノベでない普通の小説を置いているスペースが、目に見えて少なくなっているからです。


 もちろん、そのお店の客層と品揃えにもよるけれど、自分がよく行くリアル新刊書店の棚は、男性作家が1本、女性作家+時代小説+海外文学で1本、新書サイズのノベルズで1本なのに、同じ列にあるテンプレもののラノベは3本。ラノベはさらに別の場所に女性向けが1本ありました。


 自分が昔勤めていた書店も、ここと同じか、少し広いくらいの面積で、立地も客層もだいたい似たような感じでしたが、四六版の小説の単行本を並べていた棚は、(詳細は忘れましたが)男性作家+女性作家+時代小説+海外文学で少なくとも1列……棚7~8本はありました。以前はこの店もそのくらいはあったはずですが、リニューアルするたびに明らかに少なくなっています。


 リアル新刊書店では、売れるジャンルの本棚は増やし、そうでないものは減らしていくものなので、つまり、それだけ一般向けの小説……ラノベでない大人向けの小説は、明らかに“売れてない”。


 しかも、その狭いスペースには名の知れた作家の新作がひしめいていますし、なら「文庫でもいいから……」とおっしゃる方もいるかもしれないけれど、文庫は文庫で棚から絶対外せない教科書に名前が載っているような文豪の作品や、有名作家の定番やベストセラー作家の人気シリーズとかで既に埋まっていますし。


 そのうちどれだけ電子書籍に移行したかはわかりませんが、普通の大人のひとは普通にリアル新刊書店で紙の本を買って本を、特に小説を読まなくなってしまったのでしょうか……(涙)。



 だからこそ!


 それでも自らの作品を紙の本にしてリアル新刊書店に並べたい! って作家様は、


「売れなくてもいいから、本を出したい……」


 などとはおっしゃらないで欲しい! と心から思うのです。


 1冊の本を世に送り出すためには、版元さんや、印刷会社さん・取次さんはもちろん、それを全国の書店に運ぶ運送会社さん、お店に並べる書店員など、多くのひとの手が必要です。本が売れなければその全てが報われない。


 


 その作品が商品としてお店に並ぶなら、売れなければなりません。それがいい本ならなおのこと!



 もちろん、これからどんな作品が売れるのか、多くのひとの心を捉える作品がどんなものか、わかりませんが。



 ただ、元書店員の個人的な印象で言うのなら、たくさん売れる本は、個性的な文体で多くのファンを持つ有名な作家さんとかは別として、基本的に読みやすくてわかりやすい、ということだけはお伝えしておきます。

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