ライオンとクローバー

 そういえば。


 何の本をお探しですか?」その1。で書きそびれていたのですが、

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881669996/episodes/1177354054883829657


 青年向けマンガも、手塚治虫さんマンガの神様とかの巨匠系は別として、やっぱり少年向けマンガと同じくタイトルでのお問合せの方が多いです。


 少女向けマンガを描いていた女性の漫画家さんが、青年向けマンガ誌に活躍の舞台を移されることその漫画家さんについている読者ファンがそちらにもついていくみたいです。


 ふだんB6版の青年向けコミックスのコーナーではあまり立ち止まらない若い女性のお客様が、アクションコミックス(双葉社)の並べてある棚の前で高野苺さんの「orange」(※1)を探す姿をよく見かけました。


 それですごいなあ、と思ったのは羽海野チカさんの「3月のライオン」。


 TVアニメの第2シーズンがNHKで2017年の10月から放映されているので、ご存じの方も多いと思いますが、「3月のライオン」といえば、青年向けマンガ誌「ヤングアニマル」(白泉社)に連載中の将棋マンガで、天涯孤独の高校生プロ棋士の少年が周囲の人々やライバルたちとの闘いを通して成長する物語ですね。

 コミックスは、1~13巻まで発売中(2017年11月現在)。1巻→978-4-592-14511-0


 自分も好きで新刊が出るのを楽しみにしているのですが。


 で、なにがすごいかというと。


 時は2008年の3月下旬。1巻が発売された当初は、買われるのはほとんど20代から30代くらい? の女性のお客様でした。おそらく、前作からの流れで来た読者でしょう。


「3月のライオン」の前作といえば……もちろん「ハチミツとクローバー」。

(集英社 クイーンズコミックス 全10巻)。1巻→978-4-08-865079-1


 通称「ハチクロ」といえば、アニメにも映画にもなって大ヒットしたのでご存じの方の方が多いと思いますが、一応説明しますと、美術大を舞台に自らの生き方や不器用な恋に悩める若者たちの青春を描く群像劇で、大人向け少女マンガ雑誌(レディスコミックに非ず)(※2)に連載されていた作品です。


 自分が読んだのはアニメ化して話題になる前だったのですが、新装版のコミックスが重版され、次々と入荷するのに、次々と売れていくので、気になって買って読んでその理由に納得。「おしゃれでかわいい、センスがよくて、新しい。こんな面白いマンガってある!?」とすごく驚きましたね。


 つい最近のことのように思っていたのですが、原作が完結してからでさえもう10年以上も過ぎている……。時がたつのは、はあ、早いもんだ。しみじみ。


 年寄りの発言は、こっちに置いといて――(両手で物をどかす動作)。


「3月のライオン」の方に話を戻しますが、巻数を重ねるにつれ、「おやっ?」と思いました。30代から40代……さらにその上の男性のお客様で購入される方が目立つようになりました。

 ……と、言ってもちゃんとした数字のデータがあるわけではなく、あくまで自分が書店でお客さまを見ていての体感なのですが。


 明らかに「ハチクロ」からののファンとは違う方々。


 それで不思議に思っていたのですが……少し考えて、わかりました。つまり、「将棋マンガ」を読む男性ですね。


 しかも、「ハチクロ」からの女性ファンも離れていない!


 自分も結構長いことリアル新刊書店でコミック担当をしていましたが、映像化以外でこんなにはっきりと客層が変化するのがわかったのは、このときが初めてでした(※3)。


 既存読者の心を掴んだまま、新規読者を開拓する。このバランスがとても難しいと思うのですが、これが第一線を走る創作者クリエイターなんだな、と思いました。


 新しいことに挑戦すれば、常に成功するとは限らないし、むしろ失敗する確率の方が高いといいます。「ハチクロ」のファンはたくさんいたし、そのまま(大人の女性向け)少女マンガ雑誌で同じような作品を書き続けていたとしても、きっと手堅く売れていたと思います。


 でも、あえてその場所を離れ、その先へ進む。


「3月のライオン」を読んでいると、危険を恐れず、知らない場所を目指して荒れた海を進む冒険者のイメージが出てくるけれど、この作者さんこそまさにそうだと思いました。



 ※1 SF青春ラブストーリー。「別冊マーガレット」(集英社)から、「月刊アクション」(双葉社)に移籍。コミックスは全6巻。1巻→ISBN978-4-575-84323-1

 この作品も女性だけでなく男性の読者からも支持されています。


 ※2 最初は「CUTiE Comic」(宝島社)に連載されていたが、休刊のためにいったん連載終了。その後「YOUNG YOU」(集英社)に移籍し、連載が再開されたが、同誌も休刊のため、同じ集英社の「コーラス」に移籍。


 ※3 アニメ化・映画化・TVドラマ化すると、そちらを観てから原作に興味をもつひとが増えるので、客層は広がります。




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