「売れ続ける本」と「売れなくなる本」その3
さて。
「売れ続ける本」と「売れなくなる本」の話を続けましょう。
今、自分の手元には、一冊の文庫本があります。
角川文庫 つ2-7 ISBN978-4-04-130521-8
この文章をお読みの方の中にこの本を実際に読んだことがないって人はいても、このタイトルを知らない人はまずいないと言い切れるこの作品。
そのタイトルは、
「時をかける少女」 筒井康隆/著
です。
自分が持っているのは文庫の新装版で、平成18(2006)年5月25日改版初版発行ですが、この文庫の初版発行は、昭和51(1976)年2月28日。
この本のあとがきによりますと、「中学三年コース」(学習研究社)昭和39(1965)年11月号から「高校一年コース」(同上)昭和40(1966)年5月号に連載された作品(全7回)だそう。
つまり、この作品の最初に読んだ読者が当時17歳の高校生だとすると、現在は68歳(!)。
実に51年前ですね。さすがに自分もまだ生まれていません。
一度カバーが新しくなったとはいえ、文庫版が出てからさえ41年も経っているのですか、普通の町のリアル新刊書店に行けば、書店員さんに声を掛けなくても、普通に見つけて普通に買えます。
角川文庫の棚、著者名五十音順で、つ、つ、つ……はい。ありました。
毎年夏に書店で開催される集英社・新潮社・KADOKAWAの夏文庫フェアでは必ず平積みされる商品なので、そのときはもっと簡単に見つられると思います。
自分の手元にあるのは書店員時代に(社割で)買ったもので(平成23(2011)年)11月20日改版29版発行)ですが、近所の書店でその奥付を見たら、(平成28(2016)年7月15日改版40版発行)。
ついこの間(2016年)も、テレビドラマ化されましたし、売れ続けているようです。
この本を見て、自分の勤めた書店ではないけれど、近所の……リアル新刊書店の棚を見て、自分は思うのですよ。
「時をかける少女」という作品が世に発表されて51年。文庫になって書店の棚に並んでから41年。その間に、一体どれだけの本が発売され、全国の書店の棚に並び、どれだけの本がこの棚から無くなってしまったのだろう、と。
書店員は、定期的に店の本棚の在庫を調べて、売れているのに品切れさせてしまっている本を版元さんに注文し、棚から死筋(=売れなくなった本)を抜き取って返品し、入れ替えをします。
また、何年かに一度は、大幅にお店の商品を見直し、売れているジャンルや版元さんの本の棚を増やし、そうでないものを減らします。
一見何も変わりのないように見える書店の棚も、そうして少しずつ、あるときは大幅に変わります。
本屋の棚は、生き物。
書店員は、その世話をするものです。
話題の本としてメディアに取り上げられ、ベストセラーになり、テレビドラマ化して、映画化して、コミックやラノベなら、アニメ化、実写化して、売れに売れた本でも、ピークを過ぎれば売れなくなるし、売れなくなれば、新しい本にその場所を譲らなくてはなりません。
「いいものが売れるわけではない」
そう多くの方がおっしゃるけれど。
確かに、書店員をしてきたものとしての実感として、正直、
「……なんで、こんなの本にしたんだろ??」
と思うようなものでも、話題になれば売れます。アレとか、アレとか。具体的な書名を上げるのは差しさわりがあるかもしれないので控えますが、売れるとなれば、私情は置いといて売らなくてはなりません。お仕事ですから。
でも、そういうのが、売れ
いい本が売れるわけではないけど、売れ続ける本はいい本。
それが、元書店員としての、自分の持論です。
出版されてから長い時が経てば、いい本も、そうでない本も、書店の棚から無くなってしまうものだけど、少なくとも、いい本でないものが売れ続ける……10年も、20年も、ましてや30年も、40年も、リアル新刊書店の棚に並び続けることはありません。
世代を超えて読み継がれ、愛され続ける本しか売れ続けることはないから。
この「時をかける少女」のように。
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