「売れる本」と「売れない本」その1

 自分、書店で働いていて、思ったことがあります。


文芸/人文社会/ビジネス/経済/文庫/新書/コミック/児童/趣味実用/生活実用/学参/資格/辞典etc……


 本にもいろいろありますが、なんだかんだ言っても、二種類だけ、ということ。つまり、



 「売れる本」と「売れない本」



 というと、身も蓋もない言い方だけど、実は段階が3つ。



 最初「商品になる作品」と「ならない作品」


 次 「本屋で実際に売れる本」と「売れない本」


 最後「売れ続ける本」と「売れなくなる本」



 ”最初”は、版元さんの領域なので割愛しまして、”次”の「本屋で実際に売れる本」のお話から。


 2012年5月末。

 当時、まだ書店で働いていた自分は、中学生くらいのお客さまから、ある本の問い合わせを受けました。


 自分はコミック担当で、人気コミックには少し詳しいつもりでいましたが、全然聞いたことのないタイトル。検索してみると、コミックではなく文庫で、確かに発売していましたが、店に入荷はしていない様子。


 それを伝えてそのお客さまに謝ったのですが、その後も次々とお問い合わせにくるお客さまが、同じタイトルを口にします。男女は問わず。いずれも中学生から高校生くらいの若い人たち。

 そのとき一緒に店にいた同僚の女性も、同様に同じお問い合わせを受けていたそうです。

 

 同僚の女性には、当時、中学生になったばかりの息子さんがいたので、その正体を知っていました。


 その本のタイトルは、


 「カゲロウデイズ in a daze」じん(自然の敵P)著  KCG文庫 し1-1-1

  ISBN 978-4-04-728059-5


 ご存じの方の方が多いでしょうが……一応、知らないって方のために説明すると、「カゲロウデイズ」は、2011年に超人気クリエイター・じん(自然の敵P)がニコニコ動画に投稿し、10代から絶大な支持を得たボーカロイド曲のひとつ。


その全ての関連楽曲を繋ぐ謎めいた物語を、ボカロP自身が書き下ろした小説です。



http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190


 失業中ヒマで観てましたが……そういえば、これもトラックに轢かれるお話でしたっけ。



 自分が勤めていた書店は、一応、全国に展開する書店チェーンのうちのひとつで、話題になりそうな新刊や映像化の情報は本部から事前にメール回ってくるのですが、あのときは完全な不意打ちでした。


 2010年ぐらいから「悪ノ娘 黄のクロアテュール」(悪ノP著/PHP研究所 ISBN 978-456979103-6)とかが文芸の週間売上ランキングに上がってくるようになったので、ボカロ小説そのものは知っていたのですが……まさか、ここまで人気とは知りませなんだ。


 版元さんに電話で注文し、次の重版分から送ってももらえることになったものの、「カゲロウデイズ」は、その後、またたくまに文庫の週間売上ランキングを駆け上り、入荷しても、入荷しても、すぐに売り切れてしまう状態が続きました。


 で、その4か月後、何とか安定して在庫を確保できるようになったな……思ったら、2巻が発売されて、また悲鳴を上げることになったのです……。


 5月の小説化に続き、7月にコミックの連載が開始され、12月に発売したコミックスは文庫と一緒に当然、平積み。あの頃、中高生のお客さまに声をかけられると、ほぼ「カゲロウデイズ」の問い合わせだったと言っていいくらいの人気ぶりでした。


 テレビアニメ化、劇場用アニメ化……と次々に展開され、今、ネットで調べたら小説・コミック書籍の累計は1300万部だそうです(2016年現在)。 

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