花火と彼女
阿房饅頭
花火は消えるもの
ある高台の公園で花火の音をぼくは聞いていた。
一人、ぼくは夜空を見上げた。
「ねえ、一人?」
七分袖の花柄のTシャツに白いロングスカート。
長い髪を麦藁帽子で隠したと夏の装いの少女がふと現れた。
何故か彼女のことをぼくはずっと一緒にいた幼馴染のように思っていた。
実はそんな子はいなかったのに。
「ああ、一人だよ。お前も友達といっていなかったのか」
「そうだね。はぐれちゃった。どうして、あんたも一人なのよ」
「俺は気分なんだよ。気分」
まあ、その時はつるんでいた友達との予定が会わず、けれども花火大会があるからって一人黄昏てただけだった。
俺かっけーとか今考えてみれば中2病だったんだろうとは思っている。
花火の音がドンと聞こえた。とはいえ、2つ川向こうの河川敷でぼんぼん打っているわけでそんなに耳に来るわけでもなく、申し訳程度にぼんぼこ打っているだけの花火。
地方の花火といったところで観光とかそんなのにはならないようなあんまり人気のない花火大会。
それでも、何発も打たれる花火は綺麗に舞い上がり、カラフルな色をしながら夏の夜空を彩っていた。
音も聞こえて、花火大会の始まりで騒がしかった。
夜空は結構騒がしかったが、公園は人がいない。
階段を登って疲れるし、どちらかというと公園で見るよりももっと見晴らしの良い広場が近くにあって、そこは人が多かった。元々は友達ともそこで見ようとか言っていた筈なのだが、結果はぼっちという結果。
だから、ぼくと女の子だけの会話はそんな大きな声でせず、花火の音にも消えずに続けることが出来ていた。
「綺麗だね。とっても綺麗。まるで蝶みたい」
ふと綺麗なソプラノボイスから、詩的な言葉が飛び出す。
そのお花畑な表現ににぼくは苦笑いをした。
あまりにも平凡な例えにどうもぼくは笑いたかったらしい。
若気の至りってヤツかな。
少女は口を膨らませそうな感じにムッとした顔を浮かべる。
「馬鹿にしたな。馬鹿って思ったやつが馬鹿なんだよ」
彼女が抗議の声を上げた。
まあ、子供っぽい反応に子供っぽい反応で返したぼく達のやり取りは本当にくだらなかったのだと思う。
今となってはそれが懐かしく美しい。
思い出補正というものだろうか。
「花火は花火だよ。それ以上でも以下でもないよ」
「花火はぽんぽんと夜空を彩る綺麗なイルミネーション。芸術。以上と会かとか、そんなんで縛っちゃ駄目なんだからネ!」
「消えるだけの発火現象じゃん」
そう。
こんな感じに返して、あとは口喧嘩だったような気がする。
内容はなんだっけな、忘れた。
ポンポンポンと、花火が飛んで口喧嘩。もう、花火も情緒も何もなかった。
けれども、そのやりとりは花火に合わせて、ものすごい勢いで飛ばして、楽しかった。
やがて、花火が終わる。
最期に大量に放たれた花火が夜空を舞う。
「ありがとう。楽しかったよ。けれども、花火は消えるから美しい。だって、それが私の楽しみ方だと思うよ」
彼女の笑みが花火と重なった。それは消え行く花火のように美しく眩しくて、儚くて、夢のようで。
ふと、ぼくが最期の花火を見上げると彼女は消えていた。
ホラーだったのだろうか。
などと思ってしまうのだけれども、何故かぼくは怖くなかった。
多分花火がくれた中学生のぼくへのきまぐれだったのだから。
花火と彼女 阿房饅頭 @ahomax
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます