第2話 幼馴染が勇者に憧れました。


 隣に住む同じ年のアランが一人で鍛錬している様子を、ノエルはただじっと眺めていた。元気なアランが自分の傍に居ないことが、これほど静かなものだとは気付かず、寂しいと思いつつも、しかし一人を満喫してもいた。ある時は、近くの薬草を摘んで薬を作ったり、またある時は、この世界の学者が研究している資料について、自分なりの見解を示してみたり、と、幼子がすることではないようなことも、ノエルは平然と行っていた。彼女の両親は、重度の天然が常時発動しており、彼女のおかしな行動も、『他の子より少し聡い』程度にしか認知していなかったのだ。


 そんなこんなで修行に勤しむアランと、一人趣味に没頭するノエルを、村の子供達は訝しんでいた。子供らしくないと前々から思っていたのが、確信に変わったのだ。


「おいノエル!お前、おかしいんだよ。何か変なもん見てるし、草ばっか集めてるし...。気持ち悪いんだよ!」


 他の子よりも聡明で容姿も良かったノエルは、村の男の子からの好意いじめの標的になるのに、そう時間はかからなかった。幼い子供は、よく好きな子に意地悪をすることがある。それを自分が受けることになろうとは、とノエルは他人事のように感じていた。


 座り込むノエルを囲むようにして立つ男の子達は、日頃彼女に言えないような悪口を矢継ぎ早に捲し立て、彼女の気を此方に向けようとした。ノエルは普段からアランと行動を共にしている。よって、こういう時でないとノエルと関わることができないのだ。アランから気を逸らすことと、自分達を意識させること、これらを村の男の子達は無意識にやっていたのだ。末恐ろしいことこの上ない。


「...これで、気が済んだ?」


 今まで無言を貫き通していたノエルは、彼等が黙り込んだことにより漸く口を開いた。その冷たい一言に子供達は一瞬寒気を覚えた。しかし、ノエルは至極普段通りの表情をしているため、彼らは先ほど感じた寒気を忘れ、再び大声で攻め立てた。


「まだ言い足りなかったの?言いたいことがあるなら一度に言ってよね...。」


ノエルが小さく呟くも、ノエルに好意を持つ子供達には通じない。そうこうしている内に騒ぎを聞きつけ稽古を中止してきたアランによって、彼らは一掃されてしまった。


「お前、何やってんだよ。困ってるなら何故俺を呼ばない?」


若干キレ気味なアランに目を見開くノエル。しかしノエルは、折角の鍛錬を邪魔されて怒っているのか、と一人納得し、素直に謝ることにした。


「ごめん、アラン。鍛錬中断させちゃって...。」


ショボンとした顔で俯くノエルを不謹慎ながら可愛いと思ってしまったアランは、コホンと一つ咳をし、人差し指でノエルの額を突いた。


「バーカ。鍛錬なんかよりお前の方が大事だっつーの。俺のことは気にしなくていいんだから、気軽に呼べよな?分かったら返事!」


明るい笑顔と共にそう言われ、ノエルは涙を見せつつ笑顔で返事する。その笑顔の破壊力に、アランの鼻から赤い液体が流れた。折角の良い雰囲気が台無しにはなったが、ノエルに笑顔が戻ってよかったと安堵するアラン少年であった。

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ゴースト勇者始めました。 藤宮 真尋 @s161956ability

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