ゴースト勇者始めました。
藤宮 真尋
第1話 異世界転生しました。
大きな森に囲まれた、小さな村。道は小石で整備されており、家は材木で造られた西洋風のもの。畑が至る所に存在する、所謂田舎である。そこには、赤や青といった、派手な色の髪や目を持つ人々が、ノンビリと農作業を営んでいた。
村の人々は仲が良く、行事の際には、いつも全員で協力した。特に出産の時は、朝から晩まで皆が付き添っていたそうだ。1人でも大変な騒動に発展するお産だが、この年は、それが同時に2回あったので、皆の覚えも良かった。
後に、生まれた2人の子供は、ノエル・ラディアントとアラン・スティリックと名付けられた。幼馴染みとして、双子のように仲良く育ってきた2人。だが、不思議なことに、2人は子供にしてはひどく大人びていたし、賢かった。
「俺、今日テストでまた満点だったんだぜ!スゲーだろ、ノエル!」
「はしゃがないでよアラン。その問題、日本だったら幼稚園児でも分かるものだよ?」
「けど、満点とか俺、小学校以来なんだぜ?もう少し位喜んだって良いだろ?」
「…勝手にして。私知らないから。」
…この会話でお分かりの通り、2人には前世の記憶が存在しており、この世界が自分達の元いた世界とは違う世界、異世界であると分かっていたのである。アランもノエルも、そのことに気づいたのはつい最近だが、そのことに対して、何の違和感も感じることなく、今まで普通に暮らしてきていた。お互いが転生者であり、記憶があることも自然と分かっていたので、わだかまりもなく二人で行動していたのだ。
「俺達、異世界転生したんだよな…。けど俺、神様からチート能力貰えなかったなー…。チクショー!!」
「アラン煩い。それより、チート能力なんてもの貰って、一体どうするつもりだったのよ?」
ノエルの言葉に不敵な笑みを浮かべるアラン。
「そんなの、決まってるだろ?俺は、『勇者』になりたいんだよ!」
一瞬何を言っているのか分からないという風に口をポカンと開けるノエルに、聞こえなかったと思ったのか、アランはもう一度、今度は先ほどより大きめの声で怒鳴るように言った。
「だから、俺は『勇者になりたかった』んだよ!」
「...寝言はキチンと寝てから言おうか、アラン。」
冷静な声色で言うノエルに、アランの表情はドンドン険しいものへと変化していった。そして、ふてくされたかのように近くの小石を左手に掴み、それを近くの小川に投げ出していた。そんなアランを横目に、ノエルは先ほどのアランの言葉について考えていた。
「だから、俺は『勇者になりたかった』んだよ!」
男なら、誰しも一度は夢見るもの。ノエルは女だったから、アランのそんな発想は思いもよらず、冷たく否定してしまった。
『勇者』
それは、コンピューターRPGなどにおける、モンスターを倒したりしながら魔王城に行き魔王を倒す一種の
そんなものにこいつはなりたいのか、とジト目でアランを見るノエル。しかし、アランの考えが手に取るように分かるノエルからすると、夢があることを喜ぶ半面、呆れが生じるのも無理なかった。
「アランのことだから、どうせ『勇者になって魔王を倒せば、有名人になれるだけじゃなくて、可愛い女の子侍らせてウハウハ言えるから』って魂胆なんでしょ?」
ため息まじりの発言に、アランは喉を詰まらせるような態度をとる。そこから判断しても、まず図星だろう。だが、アランはその後、反論するように言った。
「確かに、そんなことも考えたけど、俺はただ...」
「ただ?」
言葉を詰まらせるアランに、いつもはありえない真剣さを感じ、ノエルは彼の前に身を乗り出す。第三者の視点から見れば、アランの俯いた顔を覗くように見上げるノエルの姿勢は、さながら上目遣いと言っても過言ではないだろう。アランは俯いた顔を上げる拍子にドアップされたノエルの顔に驚き、間抜けな声を上げて後ろに倒れこんでしまった。そんなアランをクスクスと笑いながら助け起こし、ノエルは先を急かした。
「...ゆ、勇者になったら、好きな子を守れるようになれるだろう?」
何時になく真面目な顔で、(ただし、赤面はしていたが)言い切ったアランの姿に、男らしくなったな、と若干誇らしげな表情のノエル。アランとしては、ノエルに告白のつもりで言ったセリフなのだが、ノエルには、幼馴染の成長を感じた瞬間でしかなかった。言った後に、その事実に至ったアランは、更に恥ずかしくなったのか、顔を両手で隠してしまっていた。ノエルは、その不可解な動作に、『言った後に照れたのか、まだまだ子供だな、アランは。』位の感情しか浮かばず、その場を後にしたのだ。
可哀想なアランは、夕飯の時間になるまでその場にしゃがみ込み、逆のの字を書いて過ごしたのだった。
それからのアランは、勇者になれるように一人、鍛錬を始めた。ノエルは、そんなアランを見つめながら、何故ああも真剣に勇者になろう等と考えるのだろうか、と疑問を募らせるのだった。
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