第7話 ハッピーガールズ
電車に乗り二日つまりはニートの処刑まで後一日の朝にミルクと蝶子はスーチー教会へ到着した。
朝明けの冷たい空気の中で列車を降りたミルクと蝶子。ミルクは振り返り、
「すまないね、行人。無理を言っちゃって」
真田はサングラスをカチャりと鳴らし、
「構いませんとも臨時ダイアを出すのも帝国鉄員の勤め。理由は聞きませんがまた危ない事ではないですよね。私も気が気ではありませんよ」
ミルクが珍しくはにかんだ笑顔を見せると、
「すまないね、今度デートしてやるからさ。この事は黙ってておくれ」
すると真田は列車から身を乗り出し、
「本当ですか?! では楽しみにしないと」
「ハハハ、嗚呼。楽しみにしときなよ」
そんな会話をしてミルクと蝶子は教会へ向かった。
残された真田はミルクの後ろ姿を見つつ、
「デートの約束ね。その約束をするたびに危ない事に首を突っ込んでいるんですよね。ミルクさんは。どうかどうか今回も無事に帰って来てくださいよ」
教会の周辺には予想通りと言うか数人のガードマンが見回って居た。草葉の陰でそれを見渡すミルクと蝶子。蝶子から小声で、
「で、どうするっすか。何かプランは?」
ミルクは頭を掻きながら返す。
「ノープランだ」
「えー、やっぱりっすか。正門にはデニー。裏門は裏門でダニエルが居たっすよ。しかも両方とも五十人はガードが居るっす」
「蝶子、デニーとダニエルどっちが相手にするのが楽だ?」
「まぁ、ダニエルが方が楽っすね。デニーはキレ者っぽいですし、ダニエルは筋肉バカで相手し易そうっす」
それを聞くとミルクは立ち上がると、
「よし、じゃあ。裏門から入るよ。中は小さいからそんなには居ないだろ」
そう言うとミルクは裏門へ走り出した。
「ちょ、そう言う事するっすか、酷いっす」
だが蝶子はミルクを追い越し裏門へ走りまずは裏門周りに居る三人を手早くしとめる。
「姉さん、気をつけて下さいよ。命有ってのものだねっす」
「わかってるよ」
ミルクは蝶子を踏み台にして裏門の壁を飛び越えるそして教会の中へ入っていった。
その頃のニートは教会のある一室で涙を流していた。
そこには小さなハットを被り厚い化粧をビッシリ決めた男性がニートを見下していた。
「まったくいくら泣いても変わらないのに」
それでもニートは泣くばかりで何も言わない。なので厚化粧の男は、
「まったく泣いている女の子はどうも見捨てられないわ。
ニート様、私もとっても辛いの。でもね、私を一端の下っ端からここまで育てドン・ドンキーの為やこの世界の平和の為でもあるの。
ニート様には大切なってほどじゃないけど友達は居る?
そう、あのラヴ・レターの二人組ね。その子はニート様を何度も救ってくれたものね。ニート様はその二人組を不幸にするの。それはとても嫌でしょ。もしもニート様が大人しく死んでくれたら誰も死なないで済むの。ニート様の力はそれだけ強く怖いものなのよ」
そんな語りを聞いて居るとニートは涙を押さえ赤い目で厚化粧の男を見つめていた。そして厚化粧の男は、
「大丈夫。痛みも恐怖もない。もちろんお友達も無事よ。全てはこのサガに任せて」
ミルクが見た光景は絶景だった。そこには長い無数の廊下に無限の部屋へ続いてるであろうドア。それは明らかに果てしなくとてもニートを探すには大き過ぎる地平であった。もちろん教会の大きさとは違う大きさだ。
廊下の天井に設置されたスピーカーから男の声が聞こえてくる。
「ようこそ。貴方がミルクちゃんね。私の名前はサガ。現在のセブンスのボスをやっているわ。もちろん、ニート様を監禁及び処刑を命じたのも私よ」
それを聞くとミルクは悪びれる様子もなく。
「そうかい。だったら話が早い。ニートを大人しく返してくれないか?」
「自分の状況がまだ解ってない様ね。あなたは私の能力によって閉じこめられているのよ」
ミルクはサガの答えに舌打ちをするとサガは、
「そう、大人しくしていて頂戴ね。私も大義名分あるとは言えあなたを殺したら色々と面倒な事が出来る。それは私も嫌なの。良いミルク。さっきニート様が自らの処刑を了承してくれたわ。これはミルクや蝶子の為だって」
するとミルクはスピーカーに向かって一発引き金を引きあくまで冷静に人が変わった様に冷たい印象で続けて、
「くだらねぇ。幸福とか不幸とかそんなものはこの世じゃ役に立たねぇ。死ぬも生きるも同じだ。
あるとすれば、
言い訳だ」
ミルクの発言にサガは驚く。それはスラム街で育ったサガにとっては耐え難い侮辱だった。サガにとって生も死も自分で勝ち取るものだった。生き続けるには勝ち続けるだけ。それがスラムに住むものの掟だった。ミルクの発言はそんなサガの気を逆立てる事だった。
「な、何を言ってる!?
死ぬ事や生きる事が言い訳? 人の死を何だと思ってるんだ 良いか、生きるってのはな、もっと尊く誠実で……」
「言い訳なんだよ。羽の様に命が軽いこの世界じゃな。
いくら不幸でも、死のうがここはそんな世界なんだよ。良いかニート、お前が死ぬならそれで良いでもな。生きたいなら死ぬのが怖いなら言い訳せずに自分に嘘をつかずに戦いな」
ニートはサガの後ろでそれを聞き目に光が宿った。そしてサガはそれを見逃さずマイクを切り心の中で、
(危険だ。このままニート様が生きる事を選んだら本来の能力を発動出来てしまったら)
サガは自動式の銃の安全装置を外すとニートに向かい。
「ニート様、式には早いがここで死んで貰うよ」
サガが引き金を引いこうとしたがニートは今まで以上に強く思った生きたいと。このままミルクの言う通りに戦わずに死ぬのは嫌だと。
だがサガの指は無情にも引かれ弾丸は貫いたサガの右目を、
サガは声にならない声を上げると、
「だからこいつの能力はやっかいなんだ。殺そうとするもの生かそうとするものを不幸にする! やはり殺さないと殺さないと駄目なんだー!」
「それが言い訳なんだよ」
そこには同じ部屋の。教会の裏側にある部屋にミルクが居た。
怯えるサガ。血みどろの右目を押さえながら、
「しまった集中力を切らして能力が解けてしまったか!」
サガに銃を向けるミルク。
「ストップ」
表側の方向からは書類をいくつも持ったメリーの姿。
「何の様だ姉御」
苦い顔をしてミルクが返す。メリーは大きくため息をつくと、
「まったく、こんなに危ない事案なのに平気で飛び込んじゃうんだものね。サガ。あなたの負けよ。この子、一回こうなったら負けを認めないと引き金引くわよ」
サガは表側から来た医療チームに治療を受けながら、
「だ、だが。これは十三柱の決定じゃないのか?このままニート様を放っておけば……」
メリーは再びため息をつくと、
「そうね。それはセブンスの中だけの話だったらだ十三柱は何の文句も言わないわ。でもね、今回は不運か幸運かうちの娘が絡んじゃった。だから調べたわ」
するとメリーは手に持った書類をパンパンと叩き、
「貴方が殺したドンキーの御子息さん含め十八人の暗殺依頼書類をね」
サガは下唇を噛み。黙ってメリーの話を聞く、
「確かにニートの力も本物だし、残り四十名の死も彼女によるものよ。でもね、その能力の要因並びに主軸として動いたサガの責任もこれ以上騒ぎにするなら流れるわよ」
メリーの話を聞きながらサガは涙を流しその場に泣き崩れ、
「だって、だってあの人がビルドが離婚して一緒になろうって嘘つくから」
メリーは泣いているサガにハンカチを渡すと、
「ビルドはドンキーの息子さんの名前ね。気持ちは分かるけどそれと出世の為とは、」
サガはそれを聞くとメリーを睨むと、
「何が悪いのよ。出世とかそんなのどうだって良い。十三柱とか火星がどうとかどうだって私にはどうだって良いの。私はただあの人の居ない世界なんてどうとでもなっちゃえって」
再び泣くサガにミルクはしらけた顔で銃を構えたまま、
「で、ニートはどうすれば良いんだ」
サガの代わりにメリーが答える。
「そうね。ニートの能力はドンキーと同じなら実際に世界は滅ぶわ。でもね、その能力も仮だし本当にどこまでの能力かは私たちでも解らないの。だから私一人の意見だけどニートの能力が私たちに不利益か利益があるかを判断出来るまで放置で良いのではって思うけど貴方はどうサガ」
泣き疲れ化粧も落ちたサガは、
「もうどうたって良いわよ。えっとミルだっけ。もう私はどうでも良いからニート様がどんな能力でも知らないから」
メリーが三度ため息をすると、
「だって、これで二人の同意が出たわ。今度はミルクちゃんの番よ。銃を下ろして」
「ああ、わかったわかった」
ミルクは銃を下ろしたそしてロープで捕らわれたニートを解放すると蝶子も裏口から入って来ると、
「姉さん。大丈夫っすか!? びっくりしたっすよ。戦ってたら途中でメリーさん達が入って来て暫く待っててと言われてっすね」
ミルクは頭を掻きながら、
「ああ、ありがとよ。とりあえずは全て丸く収まったみたいだ。なぁ、ニート。不幸とか幸福とかどうでもよくなっただろ?」
ニートは立ち上がったとたん再び平謝りで、
「すいません、すいません、すいません。正直、自分でもわからないですけど、ですけど……、すっごく暖かい気持ちです」
するとミルクは大きな笑い声を出すと、
「それは良いや。なんだったら一緒に旅しようぜ。帰る場所たぶん無いだろ」
ニートは笑顔で首を縦降った。
終
マカロニサラダウエスタン 竜宮城 司 @tukasa444
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