第85話 再診。

 休暇に入るその前日の昼。

 私は久々にハゲ先生の診察を受けた。


 と言っても。ほとんどこれが近況報告みたいなもの。

 毎回無駄に時間を取らせてすみませんって思うけど。先生は友達みたいにフランクに接してくれるから、こうして何度も足を運んでしまうのである。


「それにしても、実に股間の辺りが痛くなりそうな話だよねえ。剣木さん無事で良かったけど」

「先生、マジでそこ押さえないでよ。なんかセクハラっぽい」

「私も気をつけないとなあ、剣木さんに蹴られないように」


 だから、ネタにしないでってば。

 あれは、その、咄嗟の防衛本能が働いたんだよ。


「その割にはフルスロットル決め込んだらしいじゃないの。女性にはわからないだろうけど、金的は男にとって本当に大変な部位だからねえ」


 あの後、鵺ヶ原さん、腫れ上がりが半端なくて痛みでしばらく泣いていたらしい。


「はん。同情の余地なし。ざまあみろ」

「おお~コワァ。まあ当然の報いか。にしても外科から話が流れてきたときは心配したよ。そんな目に遭ってどんなに落ち込んでいるかって思ってたけど、元気そうで良かった」


 パッと股間から両手を離して先生がニコッと笑う。

 その八重歯がきゅっと出てくる笑い方、なんか親近感湧くって思ったら犬と似てるんだってその時気づいた。


「顔色も前よりずっとよくなったし、逞しくなったかな」

「先生のお陰ですよ」

「彼とはうまくやれてる?」

「ええ、まあ」

「今の自分を受け入れられてきた感じだね。その調子でいいんだよ剣木さん」

「先生の問診は、いつもリラックスできましたよ。ありがとうございます」

「おや、それは嬉しいね。私も楽しかったよ、剣木さんいろいろとウブで面白かったから」

「それで先生。次回で恐らく最後になるかと思うんですが」

「うん、いいよ」

「あの……突然ですけど――」


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