第67話 今の私と、前の私。
「すい、ません……ごめんな、さい、私……」
泣きそうになって堪える。
こうやって見切り発車するの何度目だ。
亀井戸さんを喜ばせたいのに、結局それは――彼から見たら、自分の焦りを埋めたいだけの、気持ちのない行動だ。愛情も想いやりもない。
「ミツル、大丈夫、大丈夫だよ」
言葉が出なくなった私に、彼は頭ごと抱きしめて背中をぽん、ぽんとゆっくり叩く。これも何度目。
「なにか、言われた……?」
「……」
「やっぱりね、だいたい想像つく。今日ちょっと変だと思ってたから」
「…………私は、変わっちゃいましたから……」
「なに言ってるの。変わってないよ」
「でも前とは違います」
「うーん……」
声を天井に飛ばして亀井戸さん、少し黙り込む。
「……今のミツルも前のミツルも、おれの好きなミツルだよ。今までの話をしなかったのは、ミツルが焦ると思ってたから。でも、ミツルが聞きたいならおれは話すよ、ちゃんと、おれが覚えてること話す」
そう言って彼は窓の外を見る。
「今日はちょっと、散歩でも行こうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます