第9話 こう見えて。

 そういえば……。もう一つ気になることがある。


「どうしたの剣木さん」

「あの、昨日の……男の人……あの人にはなにを話したんですか?」

「んん?」

「私の、個人情報とか……話してないですよね」


 言ったら盛大に笑い出すハゲ先生。


「まっさかあ! そんなこと医者の私が軽はずみにできるわけないでしょう? そしたらそれこそ、これだよ、これっ」


 笑いながら先生が両手首をくっ付けて私の前に突き出す。

 そらそうだ。


「なんかちょっと怖くて……」

「大丈夫だよ。剣木さん安心して、君の個人情報についてはなにも伝えていない、説得してちゃあんと帰らせた。私たち医者はねえどんな時でも患者さんの味方でいなくちゃならない。そう、どんな時でもね」

「深い言葉ですね」


 サングラスかけると若干チンピラにも見えなくもないけど。


「なにか、私について言ってました?」

「彼? 気になるの?」


 そりゃあだって、突然抱きしめられたし。付き合ってるとかなんか言われたし……。

 私これでも、誰とも付き合ったこともないし。男の人は昔からどうも苦手で、いきなり抱きしめられるとか。マジ勘弁っていうか。


「ええへ!? その格好で? ないの? ありゃ意外!」


 そりゃあピアス開けてるし、髪の色かなり明るいけどさあ! そんなん関係ないじゃん! 世の中には清純派に見えておもっクソ男漁りしてるやつもいれば。私みたいに見た目キツそうでもめっちゃ経験ないやつもいるの!

 正直言って、あんな童顔眼鏡全然タイプじゃなかったし。

 三年のうちにどこかで知り合ったとしても、付き合ってるはないっしょ。

 だってカレシカノジョだよ?

 あれだよだって、それっていったら、手繋いで、キスしたりとかほらっ、……その先とか、いってるってことでしょう……!?

 無理無理無理無理、忘れてたとしてもこの体が既に誰かに触られていると思うだけで寒気がする。怖い。


「病院でそんな濃厚な話をされてもね」

「想像できないもんだって、あり得ないんですもん!」


 確かにすごく必死そうだったし、写真の一つでもあれば信じるかもしれないけど携帯は手元にないから調べようないし……今のところだと姉貴の言っていたストーカー説が一番信憑性がある。

 いや、ストーカーなんて私されたことないけど、このご時世だし、なにか恨みでも買ったのかもしれない。三年のうちになにをやらかしたんだ私は、思い出せないのが歯痒い!


「剣木さん、ほーら落ち着いてねえ」


 体に良くないよと促され、私は深呼吸を繰り返す。


「まあなんだろう、その件については今度彼と会った時に話せばいいんじゃないかな」

「ええ!?」

「気になるんなら聞いてみるべきだよ、なにか思い出すかもしれないしね」

「ああ……はあ……。ていうか、なにも覚えてないから、どこの人なのかわかんないですけど」


 住所も電話番号も。あんな人近所で見かけたことないし。もうあっちから来るの待つしかないってことだ。

 果たしてまた私の前に現れるのだろうか。謎過ぎる……。

 とにかくあれだ。早く退院して、職場に戻って色々聞こう。そうすれば私に彼氏がいたとかなんとかが明らかになるはず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る