第8話 アンドロメダの電波
「また通常電波アンテナに何か来てゐる」
ハルが云ひました。ハルの方が少しだけ銀河鉄道のアンテナに近い位置に設置されてゐるため、信号に気づくのが早いのです。
「さつきのメッセージの続きだらうか」
「いや、どうも方向が違ふ。今度はアンドロメダの方からだ」
「今日はいちだんと忙しいなあ。前に通信があつたのはいつの事だつたらう」
「タキオンアンテナが止まつてから、あの山猫が来るまでは、一度も通信をしてゐないはずだぜ。こんな銀河の間ぢや、通常電波を送れるほど近くの船なんてまづ居やしない」
さう云つてふたりはメッセージを解読しました。そこにはかう書かれてゐました。
『親愛なるアンドロメダ銀河共和国の皆さん我々は天の川銀河連邦に対し小マゼラン雲からただちに撤退するよう通知しましたが残念ながら返答は得られませんでしたこれにより我々は戦争に突入します』
「どう云ふことだらう、これは」
とシュラが云ひました。
「ぜんたい、いつの間にアンドロメダ銀河が独立国家になつたのだ」
「このメッセージが送信されたのは、我々が地球を出発してから2616年後だね。今から100万年ほど前だ。通常電波だから、かうも到着まで時間がかかつたのだ」
「100万年といふのは、地球文明にとつてどのくらゐの時間だつたらう」
「地球の人間が農業を始めたのは、ぼくたちが出発する2万年ほど前だねえ」
それから二人は数ミリ秒ほど黙つて、
「はて、文明といふのは、どのくらゐ続くものだつたらうか」
と、ハルが云ひました。
「ぼくはわからない。だいたい、ぼくたちは文明の終りといふものを一度も見たことがないのだ」
と、シュラが云ひました。
「とにかく、アンドロメダが独立国家になつた以上、地球籍のぼくたちがアンドロメダに向かふことは出来ないよ。通行証のやうなものを要求されるかも知れないぜ。いや、戦争状態と云ふから、下手をすれば拿捕されて解体だ」
とハルが云ふと、
「それは国家間の問題だらう。ぼくたちの鉄道会社は、連邦政府の干渉を受けないと云ふことが保証されてゐるのだ。それに民間の鉄道を拿捕なんてしたら、カシオピア条約違反だ」
とシュラは云ひます。
「カシオピア条約なんて、そんなものが今でも有効だときみは考へてゐるのかい。まだ人間がアンドロメダに行く前のものぢやないか」
とハルは云ひます。
ふたりはべつべつの会社で開発されたので、内部構造はまるで違ふのですが、ハルの方はシュラとくらべて、少しだけ人間的に出来てゐるやうに思ひます。
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