先輩の雄姿とモンブランパフェ

 秋の新作パフェが出たので先輩と食べに来た。今年の秋はモンブランパフェ。名前だけでもうたまらない。おいしくないわけがないのだ。待ち遠しくて、注文してからはお冷をちょっとずつ飲んで耐えている。先輩は鞄から何やら取り出している。細長い紙だ。


「来月の頭に演奏会があるんだけど、来る?」

「わお、何の演奏されるんですか?」

「ヴァイオリン。小さいスタジオでやるんだけどね。発表会だよ。チケットも飾りみたいなものだから、当日来ても見られるくらい」

「きっと行きます。先輩の演奏しているところ、かっこいいんですもん。前に見たのは三味線でしたけど、ヴァイオリンもきっとお上手なんでしょうね」

「子どもの頃から習わせてもらってるから、あんまり恥ずかしい演奏はできないな」


 わたしの脳内では先輩の演奏シーンの妄想が繰り広げられる。あっ、ヴァイオリンってどっちの手で弓を持つんだっけ。ヴァイオリンの演奏はテレビなんかでもよく見る映像だけど、意外と覚えていないものだ。諦めて去年聴きに行った津軽三味線の方を思い浮かべてみる。しっかり骨太のつくりの三味線を抱えるように構えて激しい演奏をしているところを。男性の袴は正義だ。魅力が五割増しくらいになる。


 めくるめく妄想が終わる前にパフェが来た。白と薄茶色のコントラストが秋らしい断面と、まさにモンブランというべきてっぺんの盛り付けに心が躍る。細く絞り出した栗のクリームが重なり合う丘の上に、月色の栗の甘露煮がぽっちりと乗っている。全体に彩度の低いモンブランの中で、ひときわ眩しい。


 断面には生クリームらしき雪白の層と、渋皮つきのマロングラッセの粒が覗いている。その味が気になって、ためらうことなく完璧な姿のパフェにスプーンを差し込む。まずは甘露煮をぱくりと食べる。うん、秋だ。栗の味だ。つぎにスプーンでパフェの地層を発掘にかかる。上層の栗クリームのもったりとした感触の奥に、ふわりとした生クリームを感じた。もっと先に進むと、さくっと音がした。なんだろう、とスプーンを引き上げる。


 真っ白くて断面では気付かなかったけれど、それは焼いたメレンゲだった。ほろりと崩れた表面が生クリームに紛れていた。ひと口食べると食感が楽しい。栗のクリームはしっかり固めで、生クリームは儚くふわふわ。メレンゲは軽いけれどしっかり焼かれてざくざくとしている。栗のクリームとメレンゲが甘い分、生クリームにはほとんど砂糖を入れていないみたいだ。ほのかに塩気すら感じる気がした。


 さらにスプーンを進めると、マロングラッセのかけらがごろごろ当たる。メレンゲが入っていたのはどうやら上の方だけらしく、その甘みのかわりをマロングラッセがつとめてくれる。ほくほく、とねっとりの間くらいの食感と、しつこすぎない甘さ。


 その底の方がひんやりと冷たくなっていた。栗に浮かれてすっかり忘れていたけれど、主役のアイスはここにあったのか。底に敷き詰められていてもちゃんと冷たく固まっていて、ミルクの味が濃い。ごくごく微妙に洋酒の香りがする。アルコールは感じないので熱して飛ばしてあるんだろうか。マロングラッセとの相性がぴったりだ。クリームで甘やかされた舌にさっぱりと広がる。


 顔を上げると、先輩がちょうどパフェを平らげたところだった。満足げな表情。やっぱり満たされている時がいちばん素敵に見えます、先輩。演奏のときも、楽しそうだったからなぁ。

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