男子会と和風オムライス
和装倶楽部の男子会として集まったものの、男二人で着物は浮くのが目に見えるわけで。結局洋服のまま食事となった。
窓の外から、目の前に座った及川君に視線を戻す。さっきからメニューを眺めているが、いっこうに注文が決まらない。香夜がいる時は全部仕切って決めてくれるからか、部員には優柔不断が多い気がする。
「僕は和風オムライスにするつもりだよ」
乗ってくれたら早いよな、と助け船を出す。案の定というか、及川君は僕の発言に興味を示した。
「和風のオムライスなんて珍しいっすね。先輩、好きなんすか?」
「オムライスが好きなんだよ。卵料理だったらだいたい好きかな」
「そうなんすか。あ、そういや花見の時に毎年オムライスに決まってるのって昭島先輩のためっすか? 森田先輩、昭島先輩のこと好きそうじゃないすか」
及川君は僕と二人だと急によく喋る。女性を前にするといつも黙ってしまうから、たぶん女に免疫がないってやつだと思う。
「僕があの子の決めることを左右できると思う?」
「あー、森田先輩て気が強そうっすもんね。でもやっぱりお二人は良い感じなんじゃ……」
「注文は決まったのかい?」
適当なところで遮って聞く。このまま脱線し続けたら永遠に食事にありつけない。及川君はすんません、とメニューに再び目を落とす。これは決まらないやつかなと諦めそうになった。
「うーん、俺も先輩と同じやつで」
良かった、決まったようだ。閉店まで悩むなんてことになったらどうしようと、半ば本気で考えていた。
「そんで、森田先輩とはどうなんすか?」
注文が済むやいなや、さっきの続きを始めようとする。自分は女の人と話すことすらできないのに他人の恋愛事情には首を突っ込むのか。さすがにデリカシーがないのではないか?
「特に何も。どっちかって言うと戦友かな」
「戦友?」
「同好会として和装倶楽部を立ち上げたときから一緒だからね。色々と頑張らないといけない事もあったよ」
及川君がまた何か聞こうとしてきた時、オムライスが出てきた。これで質問から逃れられる。
織部のような緑色の皿に、黄色いオムライスが載っている。その上には金色の出汁の餡がうっすらとかかっている。トッピングはふわふわ踊るかつお節と小口切りの万能ねぎ、それから細く切った海苔だ。
ねぎの鮮やかな緑が、皿の深みのある緑と引き立てあっている。出汁の香りが立ち上って、食欲をくすぐる。
「いただきます」
声に出してそう言うようになったのは香夜と出会ってからの事だ。今ではすっかり習慣になっている。香夜ほど大きな声ではないにしても。
オムライスを大きくすくって口に運ぶ。出汁の餡かけの旨味と塩気が、優しいとろみと共に感じられる。中のバターライスが洋風の香りをそえる。卵はバターライスを包むために薄くなっているのに、オムレツのようにふわりとして、舌の上でとろりとなじむ。
一緒になったバターライスはホロホロと崩れ、バターの香りを放つ。その先に醤油の風味を感じた。噛めば、具材の玉ねぎやマッシュルームの食感も楽しめる。
今度は薬味も乗せて食べる。出汁の味をかつお節がさらに引き出してくれる。万能ねぎのシャキッとした食感と辛味が心地よい。海苔のかすかな磯の香りが、餡の塩気と馴染んでいる。
卵とバターライスと餡とトッピング、それらが手を組んで一つの料理を作り上げている。どれもが過不足なく主張し、また引き立てあう。
僕がオムライスに満足して顔をあげると、及川君も食べ終わったところのようだ。
「森田先輩も、オムライス好きなんすかね」
香夜の話はもうやめないか。いい加減こちらも疲れる。
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