女子会とチキンクリームピラフ
森田先輩が女子会を開くというのでプラタナス食堂に来ています。メンバーは和装倶楽部の先輩がた三人と私です。最初の時に紹介されなかったお二人とも、今ではよく話すようになりました。
今日は部室で着物を着せてもらいました。クリーム色に緋色の花模様の着物にわくわくしています。ポリエステルだから静電気が起きるかも、と言われましたが今のところ気になりません。
パステルカラーの似合う、ふわふわの天然パーマの
森田先輩がメニューを広げています。その中の一つを指差して、私を見やりました。
「今日は
森田先輩が面と向かって私の名前を呼ぶのは珍しい。とはいえ、料理のおすすめならいつもいただいているのですが。
「今日のは特別なんだから。寒くなってきた今にぴったりのメニュー、チキンクリームピラフ」
「チキンクリームピラフ?」
「そうよ。チキンピラフにチキンクリームシチュー、チキン・オン・チキンなのになぜか許せちゃう素晴らしいメニューなの」
いくらなんでもチキンチキン言い過ぎじゃありませんか。セリフのほとんどがチキンになっていますよ。まあ森田先輩のおすすめなら試さないわけにはいきませんね。
そういうわけで、本日のメニューは決まりました。ほかの先輩も反対しないあたり、森田先輩の高いメニュー選択力が伺えます。
「もう涼しくなってきたから、着物で過ごしやすくなってきたわね」
森田先輩がにこにこと言います。この人は本当に和服が好きなのです。部員相手だからということもあるのでしょうが、話題の八割は和服に関わっています。
「夏場は浴衣にするしかないのよね。部室にあるのは
「袷……裏地のある着物でしたっけ」
「そうよ。覚えていてくれたのね」
「少し前に教えていただきましたから」
森田先輩は嬉しそうです。部活以外で話せる人が少なくて話題が溜まっているのかもしれません。
そうこうするうちに、チキンクリームピラフが運ばれてきました。丸いグラタン皿が湯気を立てています。とろりとした白いシチューが表面を覆い、鮮やかな緑のブロッコリーが飾られています。シチューのまったりとして家庭的な香りが漂っています。
それでは、と森田先輩が手を合わせます。
「いただきます」
スプーンですくうと、ピラフの黄金色のお米が顔を覗かせます。湯気と一緒に、ピラフのお米と具材とスパイスの香りが立ちます。シチューの具は見たところ鶏肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、それからトッピングのブロッコリー。ピラフは鶏肉、玉ねぎ、にんじん、グリーンピース。あれ、ほぼ一緒ですね。
シチューとピラフを一緒にしてひと口。ミルクの味がしっかりしてクリーミーなシチューがブイヨンの旨味がたっぷりと染みたピラフを包み込みます。
何より驚いたのは、ほとんど同じはずの食材が、シチューとピラフでは全く違う一面を見せていたことです。
シチューではじゃがいもがほっくりとして、にんじんも柔らかく甘く、水分が入ってみずみずしくなっています。玉ねぎは少しばかりシャキッとした食感を残しつつ、表面がとろりと透き通っています。鶏肉は繊維がほろほろと崩れて、触れればシチューに溶けていってしまいそうです。
一方のピラフは、玉ねぎが飴色になるまで炒めてあって、甘みと香ばしさを添えています。みじん切りのにんじんは玉ねぎの香りと味を支え、控えめながらも風味の豊かさに一役買っています。グリーピースはふんわりとした食感でありながら中身がしっかり詰まっていて、ありがちなカサ増しとは感じさせません。そして鶏肉は、ぷるりとした弾力をもっていて噛むたびにあっさりとした旨味が広がります。
トッピングのブロッコリーは彩りのためだけではありません。しゃっきりとした食感がアクセントになっています。ともするとこってりしてしまうシチューとピラフの間にたって、箸休めのような役割をになっています。
これでは無限にスプーンが進んでしまいます。あっという間に空になったお皿を見た森田先輩が、目配せをしてきました。美味しかったでしょ、というように。
「ごちそうさまでした」
こうやって一斉に、いただきますとごちそうさまを言うのもすっかり慣れてしまいました。私が初めて先輩方に会った日は、もう半年も前のことなのですから。
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