第5話
絶対絶命。
それがこの場を表すのに最もふさわしいといえる語句だった。
「... ぐっ!」
闇使は暴れながら駅の壁や柱に体当たりしているが、駅はびくりともしない。
しかし、もろいガラスで囲まれた灯りは、度重なる衝撃により、床に落ちて割れた。
「キュイイイ... イイ!」
(「この鳥人間め... !」)
ローブから見え隠れする鍵づめを睨み付けた。
鍵づめの先は蒼の血で赤く染まっている。
そして三番線ホームの全ての灯りが消えると共に闇使が歓喜するような鳴き声をあげた。
真っ暗。
自分の手さえろくに見えない暗闇の中、ただ破壊音だけが響く。
ぼうっと光る闇使の赤い目が見えた。
(「... !行ける... !?」)
傷を負っていない左手で、刀を手探りで探し、掴む。
今もなお右手からはどくどくと血が溢れ出しているが気にしない。
これだけ暗いと闇使の姿は見えづらいが、辛うじて位置は分かる。
冷たい風とどこからか度々聞こえる何かが折れるような音を聞きながら蒼は考える。
(「しかし、それは闇使も同じだ。奇襲をかけるなら、倒せる見込みもあるかもしれない。」)
刀を握りしめた左手に力を込めてから、腹這いになり、闇使の後ろを見つめた。
闇使は嗅覚がほとんどないと言われている。だから、血の匂いでバレることはないはずだ。
だが、気を付けた方がいい。
一度、深呼吸をし、息を止めると蒼は、痺れる右手を引きずりながら、標的の後ろへと忍び寄っていった。
かごめかごめ籠の中の鳥はいついつ出やる?
夜明けの晩に鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ?
静かでそれでもよく通る歌声を聞いて、私はおや、と思った。
無機質な天井の光が反射して、夜だというのに眩しいくらい明るい部屋。見慣れた机と、その先に埋め込まれたディスプレイ。全体的に殺風景ともいえる駅長室で、その少女は歌っていた。
かごめかごめ籠の中の鳥はいついつ出やる?
夜明けの晩に鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ?
「ただいま。」
少女が振り返った。雑多に置かれたパイプ椅子を引っ張り出して、そこに座っていたらしい。
緑色の透き通った瞳が私を見た。
膝を曲げ、視線を合わせてから微笑む。
「お姉さん、お仕事してたんだ。ごめんね。」
私が駅長室にいる夜の時間帯は駅長室で預かることになっていた。
その代わり、今、仕事中の高橋さんは昼の時間帯に彼女を預かり、共に寝ることとなっている。
昼夜逆転してしまい、申し訳ないが、私は昼は忙しいし、昼の時間帯に働く駅員はほとんどが家に帰ってしまい、寮に住み着くものは少ないのだ。
「ご飯でも食べる?」
少女は小さくうなずいた。
夜と闇の狭間で 井上結城 @inoue
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