第11話 安堵の気持ち
今日は天候にも恵まれて絶好のピクニック日和。
小高い丘をスムーズにみんなが登って行ってる中、僕の足は鉛が入っているのでは? と錯覚するほど重い。
「スペア。大丈夫? 体調悪い?」
「大丈夫だよ。心配させてごめんね」
僕が暗い表情をしていたのでエクスは心配になり、声をかけてくれた。
体調は悪くない。むしろ、良い方。
歩きながら今朝起きたことについて頭の引き出しの中身を確認していた。しかし、自身の運命の書が元に戻った理由が何故かは分からない。
現時点で判明している事は「導きの栞」に対しての予定のみがこの世界では実現不可能って事くらい。
あの後、何点か自身の運命の書に予定を書いてみた。
すると、どれもがこの世界で実現された。
この事から前の考えに到達するのは時間がかからなかった。
しかし、肝心の酒場で運命の書の能力が発動されなかった理由は分からずじまい。
前に、レイナが「導きの栞」は謎の多い貴重なモノ。と言っていた。
恐らく、「導きの栞」には僕の「白紙の書に予定を記入するとその通りになる」という能力を妨害する何か不思議な力があるに違いない。
まあ、何にせよ。自身の能力が元に戻ったというのは嬉しい限り。
もう、役立たずではなくなったのだ... ...。
「お! みろ! すげえ景色だぜ!」
先頭を切っていたタオが山の頂上で止まり、下を歩いている僕たち四人を急かすように声をかけた。
「本当!? スペア! 早く行こう!」
エクスは僕の手を握り、タオの元まで走る。
「うわあ! 凄い景色だ! ね! スペア!」
「う・うん! 街が小さく見えるね」
丘の上から見える景色は僕達が滞在していた街を一望出来るような場所で、街の奥にはいくつも連なる山々が見え、街と山の間に流れている大きな川の水が太陽の光に反射してキラキラと宝石のように輝く。
山から降りる心地よい風は木々や草花の匂いを運び、春の訪れを感じさせた。
「良い景色ね~!」
「絶景です」
遅れてシェインとレイナも合流。
みんな、揃ったという事で僕達五人はこの丘の上で昼食をとる事にした。
背負っていたリュックを降ろし、中から朝テーブルの上に置かれていたサンドイッチを皆の前に並べる。
「お! うまそ~! いただきます!」
タオが真っ先にサンドイッチを口に運ぶ。
「うめえ~! やっぱ、外で食べるサンドイッチは最高だな!」
「そうね。やっぱり、来て良かったわね。この感じだとヴィランに遭遇する事もなさそうだし」
「え? ヴィランに遭遇する事がないって分かるの?」
「ええ。だって、カオステラーの気配が薄いもの」
「カオステラーの気配が薄い?」
レイナの言った事の意味が良く分からなかった。
「あれ? 話してなかったっけ? レイナはカオステラーの存在を感じ取れるんだよ。そして、その気配を辿って僕たちは想区と想区を渡り歩いて旅をしているんだ」
「ふーん。そうなんだ。で、今はカオステラーは近くにいないって事?」
「ええ。今はね」
その言葉を聞いて半ば安心した。
ずっと疑問に感じていた自身の存在。
運命の書に予定を記すことが出来るなんてこちらの世界では物語を変えているという事。
即ちそれはカオステラーと呼ばれる存在と同等の能力。
カオステラーは物語を『悪い物』に変更してしまう悪者。僕はカオステラーと同じ能力を持つが能力を悪用したりはしない。
しかし、カオステラーと同じ能力を持つ僕をみんなは不審に思うんじゃないかという不安は常にあった。
「導きの栞」の事を運命の書に記した際に僕の能力は発動しなかった。
その事で焦りと同時に安堵感も抱いた。
元の世界ではカオステラーと同じ能力を持っていてこの世界ではそれが「悪」と捉えられている。
この世界で物語を改編するという事自体が「悪」とされているのだ。
僕は「友人が欲しい」とずっと願っていた。
この世界にきて、同じ白紙の書を持ち僕の存在を認識してくれる人たちに会う事が出来た。
それを手放したくはないと思い、他の内容を運命の書に記すという事を無意識化で避けていたようだ。
しかし、昨夜、焦って運命の書をメモ代わりに使用。
朝、起きてみると出来上がったサンドイッチがテーブルの上に置かれていた。
僕は何となく気付いていた。
僕の能力は失われた訳ではないという事を... ...。
レイナは「カオステラーは近くにいない」と言った。
それは、つまり、僕がカオステラーではない。という事の証明。
この世界で運命を変えれば=カオステラー
という存在になってしまう。
僕がカオステラーではないと判明した事をキッカケに僕は自身の運命の書に予定を書き込む事をこの世界でも始めて行った。
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