第12話 運命を記す
_____お客さんがたくさん来る。
_____お母さんに会える。
_____明日は晴れる。
街の住人達に色々と話を聞くうちに彼等が抱えている悩みを運命の書に記していった。
宿のおじさんが「今日はお客さんが全然来ないねえ... ...」と寂しそうに言っていたので、運命の書にお客さんがたくさん来るように記した。
そして、記入してから間もなく、お客さんが沢山きた。
街を歩いていると街中で泣いている子供を見付け、声を掛けると「お母さんとはぐれちゃった~」と大きな声を上げた。
僕は運命の書にお母さんと会えるように記入。
無事にお母さんと会う事が出来た子供は僕に「ありがとう」と言い、笑顔でお母さんと手を繋いで家に帰って行った。
農家のオジサンが雨が続いていて作物が腐る。と言えば、明日は晴れると記入。
好きな子に告白して成功したい。と願えば、告白が成功するように記入。
そして、僕はこの世界の人や物の運命・予定をドンドンと変えて行った。
しかし、それは別に悪い事に改編して行った訳ではない。むしろ、人に感謝されるような事。
罪悪感なんてこれっぽっちもなかった。
□ □ □
外では木の葉に雨が当たり音を立て、茂みの中ではカエル達が大合唱をしている。
春が終わり、梅雨の時期が訪れていたのだ。
気が付けばこの世界にきて半年程が過ぎていた。
時間が経つにつれ僕の中で当初あった「この世界は夢の中だから」という考えは段々と薄れ、この世界の住人として自然に過ごしている。
階段を下り、みんなが集まるスペースに向かうとテーブルの上に剣を置きエクスが何やら考え事をしていた。
「だーれだ!」
エクスの背後を取り、エクスの両目を僕の両手で覆った。
エクスとはこういう事を自然にやってのける関係にまでなっていた。
「もう~。バレバレだよ! スペア!」
「へへへ。いやさ、エクスが思い悩んだ表情をしていたから元気付けようと思って!」
「スペアはホントに人の事を良く見てるね! 僕も、そういう所を見習わないとな~」
「いやいや、見習うなんて... ...。そういえば、何か思い悩んで一体、どうしたの?」
「ん? ああ。実は... ...。これを見てくれよ」
スペアはボロボロになった片手剣を見せてくれた。
僕は刃物についての知識は薄い。包丁の刃を見る事くらいしかなかったからだ。しかし、スペアが見せた片手剣は戦場で死体から剥いできたのかと思うほどボロボロ。
「うわあ... ...。これはひどいね。鍛冶屋に持っていかなかったの?」
「うん... ...。お金無くてね... ...」
エクスは情けなさそうに苦笑いをした。
何とかエクスの助けになれないだろうか? でも、僕は鍛冶職人のように剣を鍛える事は出来ないし... ...。
そこで、自身の運命の書の能力を思い出した。
そうか... ...。この運命の書に『エクスの剣を直したい』と記入すれば万事解決じゃないか。
しかし、それは同時に自身の私利私欲に直結する願い。
果たして、その行いを実行して良いのだろうか?
一回だけなら大丈夫だろう... ...。
欲に負けるのに時間はかからなかった。
それに今回はエクスの剣を直すという大義名分があり、決断する力に拍車をかけた。
「エクス。僕が何とかするよ。少し、その剣を貸してくれる?」
「え? いいけど... ...。一体どうするの?」
「まあまあ」
エクスは不思議そうに僕を見つめながらも剣を差し出す。大きい剣ではなかったがズシリと重たい。僕にこれを振り回せと言われても不可能だろう。
改めてエクスのすごさを実感。
そして、エクスに「厨房は絶対に覗かないで」と忠告し、厨房の方に剣を持って侵入。
念入りに背後を確認し、自身の運命の書に。
______エクスの剣が直る。
と記入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます