第6話 酒場にて
一時間程、薄暗い森の中を彷徨うと木々の隙間からうっすらと人工的な光が見え、歩みを進めると広々とした草原が暗がりを抜けた先に広がった。
どこからか生暖かい風が吹くと、僕の足首ほどの背丈がある草が風に揺られて疲弊した僕の足首を撫でる。
「おい! 街があったぞ!」
一人、草原の先に歩みを進めていたタオが疲れも感じさせないような大きく元気な声で皆に街の存在を知らせる。
僕たち四人はそれを聞いて顔を合わせ、タオの方に走って行った。
小高い丘の上から小さな街が眼下に一望でき、レンガ作りの家々が並び、街の中央には大きな教会が街を見下ろすように鎮座している。
その街の様相はどことなく故郷の街に似ている気がした。
「早く行こうぜ! もう、腹がペコペコだ!」
タオはそう言うと一人で勝手に街の方に走って行ってしまう。
「もう~。走る体力何て残ってないわよ」
「火事場のくそ力ってやつなのかな?」
「... ...いや、少し違う気がします」
走って行くタオの後ろ姿を見ながら、レイナ・エクス・シェインの三人は冷めた様子でポツリと言葉を吐いた。
僕はかなり疲弊していたので、走って行く余裕もタオの自由奔放な行動に一言いう事も出来なかった。
□ □ □
「それじゃあ、新しい仲間の入隊を祝ってかんぱ~い!!!」
「かんぱ~い!!!」
「か・かんぱい... ...」
賑やかな店内の隅の方で丸テーブルを囲みながら、各々自分が飲みたい物を木製の小さな樽のような容器に入れ、何かの儀式のようにタオの「かんぱい」の合図と共に持っている容器を五人で突き合わせた。
店内には様々な人種の人間がいて、酒を飲みながら談笑している。
大多数は大人の団体。僕たちのような年齢の集団は見かけない。
まあ、それは僕が居た世界でも同じ事。僕もこのようなお店に入ったのも初めてだった。
お腹が空いていたので、僕たちは宿を取る前にこの酒場に来た。
カラカラになった喉を通り、ブドウを絞ったジュースが僕の体内に注がれる。足の指先に水分が到達する感覚にアルコールも入っていないのに酔ってしまいそうだ。
「おい! 坊主! ちんたらしてると食い物全部食われちまうぞ!」
タオは骨付き肉を右手で掴みながら、僕におどけた様子で忠告した。
テーブルの上には、物を置くスペースがないくらいに美味しそうな食べ物が並べられている。
そのうちの何皿かは既にタオが平らげていて空いてしまっていたので、僕も慌てて目の前にあった焼いた魚を頬張った。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ。お金はたくさんあるんだから」
レイナは牛革で出来た袋をテーブルの上に置いて少し得意げな顔をした。
僕はその置かれた袋をみて、口を風船のように膨らませながら。
「僕、お金持ってない... ...」
「?? もう、仲間なんだから気にする事ないわよ! どんどん食べてね!」
いくら、夢の中の世界だからって人に甘えすぎるのは良くない。
まして、初めて会った人間に助けられたり、ご飯を恵んでもらうなんて... ...。
僕には良心があった。しかし、それを凌駕する程の食欲も今の僕にはある。僕は申し訳ない気持ちを微かに抱きながらも今度はこんがりと焼き色が付いた豚の丸焼きを口にした。
「美味しい... ...」
「正直でよろしい!」
レイナはまるで、お母さんのようだ... ...。
仲間っていうのは家族みたいなもの何だろうか?
憧れていたものと少し違う気がする。でも、何か凄く居心地が良い... ...。
「そういえば、スペアは沈黙の霧を抜けてきたんだよね? 一人で良く抜けて来られたね」
エクスの唐突な質問に食事中だった他の三人は手を止め、僕の方をジッと見る。先程の和やかな雰囲気は一瞬にして疑念の空気で包まれた。
僕もその空気感は察っする事が出来た。しかし、どの事柄が彼らの疑念の念を刺激しているのかが分からない。
「あー。そうなんだ。あの霧は沈黙の霧っていうんだね。ごめん。詳しい事は覚えてないんだ」
確かに詳しい事は覚えていない。しかし、大体の事は覚えている。
僕が別の世界から来た事。寝る前に「友達が欲しい」と白紙の書に記入した事。
_____しかし、それは彼等に黙っていた方が良い。
直感的に僕はそう感じ、多くの事は語らなかった。
「詳しい事は覚えてない」これが一番適切で適当な答え。
嘘をついている訳ではない。
「怪しいですねー。沈黙の霧は一人で入ると姿を消してしまうと言われているのですが」
シェインは僕をまるで犯罪者に見立て、じっと僕の目を見た。
この黒髪の女の子。口数は少ないけど、人をよく見ていて、核心に触れる物事言ってくる。
はっきり言ってこの状況では邪魔な存在。
「まあまあ、例外もあるって事だろ! 俺達も沈黙の霧についても、ヴィランについても良く知らないんだからよ!」
場の空気を察してか、恐らく、一番の年長者でもあるタオがおどけた様子で阿呆を興じた。
「それもそうね。まあ、空白の書を持っている四人が一緒に集まって旅をしている時点でおかしな事よね」
僕を尋問しても意味がないだろうと察したのだろうか。
レイナもタオの意見に賛同。
それをみたシェインも納得していない様子ではあったが、僕の目から視線を外した。
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