第5話 四人の仲間

「白紙の書? 空白の書のことを言っているのかな?」


 青い髪の少年は緊張している僕に対して、ニッコリと微笑みながら問いかける。


「空白... ...。まあ、呼び方なんて関係ない! 僕のも君と同じ白紙なんだ! 白紙の書を持っている人間にあったのは初めてなんだ!」


 僕は白紙の書を青い髪の少年に詰め寄りながら見せ、仲間である事を必死でアピールした。

 彼は若干、迷惑そうな表情をして、困った様子でレイナに視線を送る。


「はいはい。あなたも空白の書の持ち主なのは分かったわ。少しは、落ち着きなさい。取って食おうって訳じゃないんだから」


「そうだぜ! 空白の書の持ち主って事は俺らと同じ仲間って事じゃないか!」


「タオ... ...。仲間って決まったわけじゃ... ...」


「俺らと同じ... ...?」


 言葉の一つが引っ掛かりオウムのように言葉を繰り返す。

 それを聞いた四人はおもむろに運命の書を取り出し、僕に向けて本の中身を見せる。


「______!? は・白紙... ...」

 

 その本の中身は全て白紙。

 青い髪の少年だけが白紙の運命の書を持つ人物だと思っていたが、四人とも白紙の書を持つ存在だった。


「私たちは役割を与えられる世界の中で何の役割も与えられなかった存在。はみ出し者同士仲良くしましょう。私は、レイナ。宜しくね」


 レイナはそう言うと僕に対して右手を差し出した。


「まあ、そういう事だ! 俺はタオ! こっちが妹分のシェイン! 宜しくな!」


 タオは簡単にシェインの紹介をして、レイナと同じように右手を差し出す。

 シェインは恥ずかしがっているのか、僕に会釈をする程度で右手を差し出すことはなかった。


「僕はエクス。宜しく」


 青い髪の少年も二人に追随するように右手を差し出す。僕に向けられた暖かい気持ちに何故か僕は、唐突に涙を流してしまった。


「おいおい! いきなりどうした坊主!」


「ぐ・すいませ... ...。なんだか、安心しちゃって... ...」


 『安心した』


 四人は僕のその言葉を聞いて微笑んだ。おそらく、四人は僕がヴィランに襲われて恐怖を感じていたと勘違いしたのだろう。

 

 『ヴィランがいなくなって安心した』

 

 確かにこの状況でこの言葉を言われたら、このように解釈するのが正しいのかもしれない。しかし、僕はヴィランから逃れたことに対してその言葉を言ったのではない。


 ヴィランという存在より僕は孤独という魔物の方が怖かった。能動的に誰かが僕に話しかけてくれる事なんて一生ないと思っていた。

 永遠とも思えるほどの時間を戦っていたその魔物から今まさに解放されたんだ。

 

 そして、無意識に『安心』という言葉がふいに出た。


 薄暗い森にオレンジ色の陽が差し、夕暮れが近づいていることを知らせる。


「そろそろ、陽が暮れる... ...」


「そうね。今日は近くの町の宿に泊まりましょう。スペアの歓迎会もしないとね!」


「おー!!! いいっすね! 久々に上手いもん食いましょう! お嬢!」


 レイナ・タオ・シェインの三人は軽快な足取りで森の先に足を進め。


「大丈夫? 歩けるかい?」

 

 とエクスは僕に優しく問いかける。

 僕はこのような一連の出来事を白紙の運命の書に書いたことは一度もない。

 運命の書に予定を書き込むという孤独な作業をする必要はもうないんだ。


 そう思うと再び、涙がこぼれそうになるが、僕はぐっとこらえ。


「もう、大丈夫」


 と力強く答えた。

 木々の合間から差し込んだ夕陽が僕の顔に当たる。普段はまぶしいだけの西日から今日は何故か温かさを感じた。

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