第4話  空白の書

青い髪の少年が取り出した運命の書は白紙。

本のデザインなどは僕の物と違うようだが、僕以外の人間で白紙の書を持っている人物に会うのは初めて。


驚きと喜びから僕は緩んだ表情で生唾を呑んだ。


「シェイン! タオ! あなた達もさっさとコネクトしなさい!」


「お嬢! これだけ、ヴィランがいちゃ、ちと厳しいぜ!」


白い槍を持った男は、ヴィランと呼ばれる黒い獣のような異形なモノと鍔迫り合いをしながらも、白い髪の少女の言葉に返答。


ヴィランは一度倒したと思っても、すぐに新たなヴィランが生まれ、倒しても倒してもキリがない様子だ。


これでは、戦闘を行っている二人の体力が尽きるのも時間の問題だろう。


このパーティのリーダーと思われる白い髪の少女は仲間が苦戦する様を唇を噛み締めながら見ている。


「レイナ! 僕が戦うよ!」


青い髪の少年は先程とは打って変わって勇ましい顔付きをして、凛とした姿勢で白い髪の少女の前に立ち、何やら紐の付いた一枚の紙を取り出した。


「紙... ...?」


僕がキョトンとした表情で青い髪の少年が取り出した紙に目を向けた瞬間、その紙に何かの紋章が出現したかと思うと、辺りが眩い光に包まれ、思わず目を閉じた。


ゆっくりと目を開けると目の前には銀色の髪を生やした元気の良さそうな少年の姿。


敵か味方かも分からない得体の知れない少年の出現だが、何故か、不思議と嫌な感じはしない… …。


青い髪の少年はどこに? と辺りを見渡すが見当たらない。

目を閉じていた時間はほんの一瞬。


人が消え、別人が現れるといったサーカスまがいの離れ業を目の前にいる少年はやってのけたのか?

と思考が混乱している僕は、普段では考えられないほど軽率な事を想像してしまった。


挙動不審な僕に目もくれず、銀色の髪の少年は戦闘が繰り広げられる前線に颯爽と向かう。


レイナと言われていた白い髪の少女は銀色の髪をした少年の背中を見ながら、座り込む僕に対して、


「あなた、一体、いつまで座ってるつもり?」


 と腕を組み、僕の事を見下すように言った。

 下等生物のようなモノに送る視線に腹が立ったのだが、女の子に「腰が抜けて立つ事が出来ない」と言うのは恥ずかしく、僕は頬を赤くしながら、俯いた。


そんな、僕の気持ちを察してなのかレイナは僕に対して無理に立たせようとはしなかった。

 もしかしたら、この子良いやつなのか? と思い一瞬気が緩み、僕はレイナに質問をした。


「あの... ...。さっきの青い髪の少年はどこに行ったんですか?」


 レイナは戦闘中の銀色の少年を指差して。


「どこに? あそこにいるじゃない?」


「あそこ? どこ?」


「どこって今、ヴィランに斬りかかって行ったでしょ?」


「いや、あれはさっき突然現れた銀色の髪の少年ですよね? 僕が言っているのは青い髪の少年です」


「... ...」


 レイナは腕を組みながら目を閉じて、首をかしげると僕の問いに回答しようとしない。

 

「あの、だから、青い髪の少年はどこに? あと、ここはどこなんでしょうか? それと、あのヴィランって怪物は... ...」


 突然、何も答えようとしなくなったレイナに対して、不安を抱いた僕は堰を切るように質問を投げかける。

 

「どおりゃああ!!!」


 白い槍を持った男が気合を入れるように声を発して、槍で横に円を描くように振り回し、周囲のヴィランを一掃。


 それを見て、待ってました! と言わんばかりにレイナは声を張り上げ。


「タオ! シェイン! 今よ!」


 白い槍を持つ男と黒髪の少女はアイコンタクトを取り、先程の青い髪の少年と同じように運命の書を取り出すと、紐のついた紙を何やら本に近づけている。


 そして、青い髪の少年と同じように二人は光に包まれ、光の中から白髪の白い槍を持ち、銀色の甲冑を身に纏った戦士と金髪で幼さが残る褐色の肌の女の子が姿を現した。


_____いや、姿を現したというよりも、先ほどの白い槍を持った男と黒髪の少女が別人に姿を変えた。と言った方が適切かもしれない。


 姿を変えるなんてあり得ない事象を目の当たりにした僕は意外と冷静で、一連の二人の行動を推測する余裕さえあった。


 恐らく彼らは、自在に自分の姿を変えることが出来るようだ。

 そして、姿を変えるために必要なものは『運命の書』と『紐のついた紙』


 どういったカラクリなのかは見当も付かないが、一つだけ言える事は今のところ彼等は僕に敵対心はなくヴィランと呼ばれるモノのみを標的にしている。という事。


 だが、彼等が害の無い人間とはまだ言い切れない。しかし、未知の世界に来た以上、今は彼等の事を信用するしかないだろう... ...。



 □ □ □



 二人が姿を変えてからの勢いは凄まじく、数分であの大量のヴィランを一体残し、駆逐してしまった。

 どうやら、ヴィランの出現は無限ではなく有限のようで、ある程度の一定数を掃討すると姿を現す事はないようだ。


 最後のヴィランを銀色の髪の少年が片手に持った剣を振りかざし、大地を引き裂くように上から下にかけて一刀両断。

 ヴィランは断末魔を上げる事もなく、黒い煙となって消失した。


「ふう~。終わったわね」


 レイナは安堵感から息を吐き、組んでいた腕を解いた。

 

 三人は役目を終えると、元の姿に戻り、こちらに近づいてくる。

 やはり、自在に姿を変えられるという説は合っていたようだ。


「お嬢! ケガはないか?」


 白い槍を持つ白髪の男は額にかいた汗を拭いながら、レイナの事を心配そうに見る。

 

「ええ。大丈夫よ。お疲れ様。三人とも」


 初めて見るレイナの笑顔。

 屈託のない表情で微笑む彼女はどこか少し疲れた様子だ。

 それほど、三人を心配していたのだろう。


「アネゴ。その方は誰ですか?」


 黒い髪の少女が僕に向かって無表情で指を差す。


「あー。そういえば、あなた、何者かしら?」


 座り込んでいる僕を4人が覗き込むようにして見つめてくる。傍から見たらリンチに遭っているようにしか見えないだろう。

 

 もう、腰の方は大丈夫のようだ。僕は、滑稽な姿をこれ以上、見せたくないと思い、膝に手を置きながら不格好に立ち上がり。


「僕は、スペア。その青い髪の少年と同じ白紙の運命の書を持つ者だ」


 と堂々と宣言した。


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