第2話 プロローグ②『スペアの日記②』
薄暗い部屋の中で机とは言い難い程、小さく不格好な木箱の上に小指程の大きさの蝋燭(ろうそく)を置き、その明かりを頼りに鉛筆を使って僕は自分の持つ『白紙の本』に明日の予定を記入する。
これが、物心ついた時からの僕の日課。
これをしないと僕は僕として世界から認識されないのだ。
そして、予定を書きながら自問自答を行う。
この世界の住民は『運命の書』という自分の運命が記された本を持つ。
そして、それに抗う事なく、人生を終える。
これが、≪この世界の理≫にして全て。
____のはずだ。
しかし、僕の持っている運命の書。
それは白紙。
何も書かれていない。
立派な何かの革で製本され、辞典や聖書の数倍も厚い本のくせに中身は何も記されていない。
これを宝の持ち腐れと言うのだろうか?
だが、これが白紙だからと言って正直困る事はない。
強いていうなら、このように毎日予定? 運命? を自ら記入しなければいけない事か。
それと、記入していない事は基本他者が出来ない事となっている。
先程、母さんが僕のスプーンを拾わなかったのが良い例。
いや、拾わなかったのではないな。拾えなかったが正しい表現。
僕は基本的にこの世界には存在しない事となっている。いや、その辺は自分でも正直分からない。
存在しない存在。と僕が勝手に判断したからだ。
僕は自分の中で色々と考え... ...。
『認識されない=存在しない』
と結論づけた。
僕の存在や世界について考えたが意味がない。
周りの人や両親に聞いても分かる訳がない。
自分自身で”僕”という存在に価値を与える。
正直、このような事を言っていて頭がオカシイと思う。
僕という存在は唯一無二であり、対(つい)がない。
この世界にとってイレギュラー。
普通の人は他者を通して自分を認識していくが、僕は幼い頃から自分自身で自分を認識しなくてはいけなかった。
そんな僕にもささやかな願いがある。
____友達が欲しい。
今通っている学校でイジメられているとか。
家庭環境が複雑とか。そういう訳ではない。
『明日の体育で一等を取る』
『テストで一番を取る』
このようにスラスラと運命の書に明日の予定・運命を記せば確実にそれが現実のものとなる。しかし、それは全て僕が自分の運命の書に記している事。
体育で一等になろうが、テストで一番を取ろうが当たり前の事で何の感情も抱く事はない。ただただ、心が空虚になるだけ。
小指程の大きさだった蝋燭は次第に小さくなっていき明かりとしての役目を終えようとしている。
僕はいつも火が消える際に願い事をする。友達が欲しいと。
白い煙は窓の隙間から天に昇り僕の願いを届けてくれるのだろうか?
月明かりが差し込み、蝋燭の火が弱くなり暗くなりかけた部屋を包み込むように照らす。
その光景はまるで、光が詰まっている箱の中にいるように思わせる。
蝋燭の火が消え、焦げ臭い匂いが充満する部屋の中で僕はカビ臭いベッドに入り、退屈だった一日に終わりを告げた。
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