第7話 変貌

 かまえ自体は防御ぼうぎょりのものだった。


 こちらが動かなければまともにめ込めないような、そんな構えだった。


 そのはずなのだが……


「はぁっ!」


「ぐッ……」


 き出された剣が、ほほをかすめる。


 するどくコンパクトに、それでいてばやく連続でりだされる突き。


 ループスはかみひとでその攻撃をけ続けていた。


 別にみ込めないわけではない。


 ただ、ふところもぐり込めばフレイがそく身体からだを回し、さかに持った剣で強襲きょうしゅうしてくるのだ。


 そしてそれを避けようと体勢たいせいくずせば、すぐさま左のりが飛んでくる。


 さらには左も逆手に持ち直し、ね回るようにすさまじい高速連撃れんげきを繰りだしてくる。


 構え自体は防御寄りのくせに、あまりに攻めが強すぎる。


 そしてその攻めの強さこそが、防御をより強固きょうこなものにしていた。


 うまく攻め込めず。


 だから崩せず。


 どこにもすきなんてものがない。


 ループスは防戦一方だった。


 武器なしでやりあうには厄介やっかいすぎる相手だった。


 いつの間にか少女の姿すがたも消えている。


 だからといって、背を向けられる状況じょうきょうではない。


 ループスはひたいあせかべながら、それでも獰猛どうもうに笑って言う。


「やっぱ、なかなかやるな、お前」


殿でんの方こそ。ぼくとここまでやりあえるのは、まだ数人しか知らないよ」


「そりゃテメェの世界がせまいだけだ」


 なんて言いつつも、ループスは内心ないしん驚嘆きょうたんしていた。


 十歳やそこらの子供がここまでの動きを平然へいぜんとこなすなど、とてもつうのことではない。


 どれだけの鍛練たんれんめば、ここまで強くなれるのだろうか。


 おそらく、人生の半分はその特訓とっくんそそいでいるだろう。


 そして、それがゆるされるたちにある……いや、やり立たされているのかもしれない。


 簡単かんたんに言ったが、人生の半分を一つのことに消費しょうひするなど、到底とうていできることではないのだから。


 だとすれば、この少年たちはなにかの陰謀いんぼうき込まれている可能性がある。


 あるいは本当に、愚直ぐちょくなまでに本気でゆめを追いかけているといったところか。


 前者ぜんしゃ後者こうしゃか。


 もしくはまた別の理由か。


 気にはなるが、だからといってに首を突っ込むわけにはいかない。


 面倒めんどうこのまない。


 もしなにかの陰謀が関係しているなら、そんな面倒そうなものに関わってやる必要ひつようも、ループスにはない。


 そもそも強制きょうせいされたとはかぎらないのだ。


 フレイもカイルも、実に楽しそうに剣をるっている。


 もしも強制されていたとしたら、あんな顔はしないはずだ。


 洗脳せんのうという線もあるが、そこまでいけばそれこそ手にえない。


 第一、フレイは勇者のごとをするようなやつだ。


 カイルにしたって勇者になるとごうしていた。


 ならば、これは伝説でんせつ影響えいきょうなのか。


 この事態ふたりは、伝説の勇者セシル=クライスの影響なのか。


 だとすれば、これは非常ひじょうけん兆候ちょうこうではないのか。


 ループスは次々とえ間なく繰りだされる剣撃けんげきをかわしながら、さぐるようにフレイを見え、


「はっ。んなもんおれの知ったことじゃねぇ」


 だからなんだと一蹴いっしゅうし、向こうはどうなってるかと二人の方に目をうつせば、あちらもかなりせんしているようだ。


 カイルはフレイとはちがい、身のたけえるほどもある大剣を振るっている。


 大剣ならではのリーチを使していをあやつり、攻め込まれれば回転を主体としたはらいではじき、いなし、再び距離をとる。


 大剣と双剣という、本来ならまるでかよわない戦闘せんとうスタイルのはずだが、しかし、その根本こんぽんは同じような気がした。


 攻防同一こうぼうどういつ


 攻撃と防御を同一に考えた、はげしいまもりのかた


 攻めるからこそ崩されず、崩されないからこそ攻め込める。


 実に攻撃的で堅実けんじつな構えだ。


 向こうは二対一だというのに、まるで崩せず押されぎみ。


 しかもそれはこちらも同じで、子供一人にこうもてこずるとは思わなかった。


「しゃあねぇ」


 ループスはあきらめたようにつぶやくと、大きく、大きく息をって、


「テメェら! こいつらは強ぇ! 本気でやるぞ!」


 その言葉を受けた二人の顔つきが鋭くなる。


 キロテラの全身はさいくろおおわれ、あしが鳥のそれへと変貌へんぼうし、うで横腹よこばらの間にうすまくる。


 クリュトスの全身は白と茶色のもうに包まれ、き出しの脚は黄色く細く伸び、そのつめくちびるかぎ型に突きだす。


 獰猛な笑みを浮かべるループスの身体は大きくふくらみ、全身から灰色はいいろをした大量の毛が生え始める。


 手足の爪は太く鋭くとがり、口は大きく、歯はなんでも食いり、くだけそうなほど鋭角えいかくに変わる。


 ふさふさとした尻尾しっぽらし、頭の天頂てんちょうに移った耳をぴこぴこと動かしては、深いいきを口かららして……


 そのさまながめていたフレイとカイルは、驚愕きょうがくさけんだ。


鳥獣種ハイビースト!?』


 鳥獣種ハイビースト


 それは鳥獣ちょうじゅうの力を宿やどした人間のこと。


 空気中に微量びりょうに存在する瘴気しょうきの影響で生まれた、突然へんしゅのひとつ。


 彼らはそれぞれコウモリ、タカ、オオカミの鳥獣種ハイビーストだろう。


 男たちはにやりとてきに口のをゆがめ、


「さぁ、勝負はこっから――ッ!?」


 突然ループスが目を見開き、勢いよく森に振り返った。


 そして、


「……悪ぃな坊主、けんはここまでだ。行くぞテメェら」


 怒りにも似た真剣な顔とこわで言うと、ループスは急いで森にけだそうと……


「ふっ、がすわけがないだろう」


 しかしフレイがそれをゆるさない。


 フレイはループスの前へと回り込み、剣を突きつける。


 それにループスは嫌そうに顔をしかめ、


「どけクソガキ。あらそってる場合じゃねぇ」


「勇者だからね。か弱い女性を護るのが使めいなんだよ」


「勇者るんならなおさらだ。そこをどけ」


「それは、どういう意味だ?」


「どういう意味もくそもねぇよ」


 まゆをひそめるフレイに、ループスはつかれたようにため息をつくと、少女が逃げ込んだであろう森を鋭く見据え、


「あの森から、血のにおいがする」

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忘れ形見の後継者 水沢洸 @mizusawa

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