冴えない花火

綿貫むじな

振り返る


 ずぅん、ずぅんと辺り一帯に響く音が聞こえてくる。

 音は低く、僕が住んでいる家を、周囲の壁や建物をも震わせる。

 雷かな、と思ってカーテンを開け、夜空を眺めたがどうやらそれは違った。

 星々が輝き、月が青白く光を放っている。流れる雲が時折月の顔を遮っては過ぎ去ってまた光は地上へと送られる。

 視界の端に何かが閃いた。視線をそちらに移すと、空にぱあっと咲き乱れる花火が見えた。

 青、赤、黄色、緑、紫色とりどりの、工夫を凝らした様々な模様、絵柄。

 一発が大きく輝くものもあれば、連続で打ち上げられるものもある。

 僕の住んでいる所から会場までは遠いから小さく見える花火だけれども、間近で見ている人にとっては大きな迫力で圧倒されるのは間違いないだろう。

 今日はそういえば地元の祭りだった。やたら外が人の話し声で騒がしいと思ったけどそういう事かと合点が行った。道路に目をやれば、浴衣姿の人がちらほらと目につく。彼らは祭りで買ったお面や食べ物、水風船などを手に持っては楽しそうに歩いている。僕は人混みが苦手なのでこういう時に外に出ようとはしないけども。

 人混みが苦手というよりは楽しそうな人々の中を一人で歩く気にはなれないから、と言った方が正しいかもしれない。もとよりそういう雰囲気を楽しめない、損な性格をしている。

 花火はまた上がる。大輪の花が夜空に広がって輝く。

 花火を見るたびに思い出す事がある。

 地味で冴えない、ひとつの忘れようにも忘れられない思い出を。


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