第4話 決戦 そして
「相手になってやるよ。
全員キッタネェ焚き木にしてやるぜぇ!」
マッチ売りの少女が叫ぶと同時に炎ヴィランがどこからともなく現れる。
まずは雑魚である炎ヴィランから片づける。
炎ヴィランを戦わせることで後衛になり自由に動けるマッチ売りの少女は
タオの事を見ながら腕をだらんと下げる。
「!!」
炎ヴィラン越しに彼女を見て、彼は警戒する。
何か来る。長年の戦いで養われた直感が警報を鳴らす。
「燃え尽きろぉ!」
マッチ売りの少女が叫びながら下した腕を振り上げると同時に
人を優々と飲み込める程の巨大な火柱が一直線に襲い掛かってくる!
「うお!」
タオはあらかじめ警戒していたおかげで火柱との距離に
余裕をもってかわす事が出来たがそれでも熱による皮膚を刺すような
チリチリとした痛みを感じる。
もし直撃したら大けがは確実、酷ければ致命傷になりかねない。
「シェイン! マッチ売りの少女を狙え! 奴に仕事をさせるな!」
タオが叫ぶ。と同時にシェインが狙いをマッチ売りの少女に切り替える。
氷の魔法弾をこれでもかと浴びせかけ、動きを封じる。
「チッ! なめやがって!」
マッチ売りの少女が氷の魔法弾に耐えながら悪態をつく。
(このままだとまずいな……ジリ貧だ。
まずはあの女を何とかしねえと……)
「テメエら! 行け!」
彼女の合図と共に炎ヴィラン達がシェインに襲い掛かる。
「邪魔をしないで!」
シェインは群がる炎ヴィランに目標を切り替える。
マッチ売りの少女に降り注いでいた氷の魔法弾の雨がやんだ。
その隙に彼女は攻撃の準備を行う。
腕をだらんとおろし、そして……。
「燃え尽きろぉ!」
再び腕を振り上げ、巨大な火柱が噴き出す。
「同じ手は二度も食らわない!」
シェインは横に跳んでかわそうとする。
それを見たマッチ売りの少女は……ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
彼女は大きく腕を横に振るう。すると火柱は進む方向を変え、
横に跳んだシェイン目がけて突っ込んでいく。
最初の火柱はわざと方向転換させないことで、
軌道を曲げることは出来ないと思い込ませる事に成功したのだ。
「きゃああああああああ!!」
シェインが絶叫する。
「シェイン!!」
タオが慌ててシェインを火柱から引っ張り出す。
命こそ大丈夫だったが酷く痛々しいやけどを負っていた。
「レイナ! 傷の手当てを!」
「分かったわ!」
片手杖のヒーローに姿を変えていたレイナは治療をし始める。
「ギヒヒヒヒ……まずは1匹だなあ」
マッチ売りの少女はニタニタと笑う。
タオたちの息つく暇すら与えずにヴィラン達が襲い掛かる。
エクスは氷の剣で敵を斬り伏せ、タオは盾で攻撃を防ぎつつ突進し
ヴィランの群れを突破する。
ヴィランの群れを突破したタオがマッチ売りの少女に襲いかかる。
氷の魔力を秘めた槍の切れ味は鋭く、彼女の力を急速に奪っていく。
「ゴフッ!」
マッチ売りの少女が膝をつく。
「ここまでだな。観念しろ!」
だが彼女は諦めない。
「テメェら! 仕事しろや!」
マッチ売りの少女の声を合図にタオの背後の虚空から多数のヴィラン達が現れる。
彼らはタオを攻撃するわけではなく彼の両手両足にしがみ付き、
あるいは後ろから羽交い絞めにする。
マッチ売りの少女は身動きが取れないタオを見て不気味な笑みを浮かべる。
と同時にタオは恐怖で顔面が引きつる。
敵を目の前にした戦の真っ最中だというのに動けないという点と、
これから何が起こるのかを理解してしまったことによる2つの恐怖で。
「燃え尽きろぉ!」
マッチ売りの少女がだらんと下げた両手を思いっきり振り上げる。
シェインを焼いた火柱よりもさらに太く、熱い物がタオ目がけて突っ込んでくる!
「うわああああああああ!!」
タオがヴィラン達と一緒に炎に包まれる。
「タオ!」
エクスがヴィランを切り裂き、タオを助け出す。
何とか火柱から引きずり出すことは出来たが既に全身はボロボロだった。
「レイナ! タオの手当ても!」
エクスはタオをレイナに押し付けつつ、カオステラーをギロリと睨む。
「あとはお前だけだなぁ」
早くも勝利を確信した敵がだらんと腕を下げる。
そして……
「燃え尽きろぉ!」
マッチ売りの少女がまた手を振り上げると同時に火柱が上がる。
「小細工無しだ! 突っ切る!」
エクスは氷の剣を大きく振り上げ、そして勢いよく振り下ろす。
直後、身の丈は優に超える氷の衝撃波が火柱目がけて突き進む!
ヴィランを巻き込み、火柱を真っ二つに割り、その向こう側にいた
マッチ売りの少女をも斬り裂いた。
深い傷を負った彼女はその場に崩れ落ち、倒れた。
「レイナ! タオとシェインは!?」
「ええ。大丈夫よ」
「うう……すまねえなあエクス」
「今回ばかりにはエクスに助けられたね」
仲間の無事にほっと胸をなでおろした。
「うう……ううううう……」
声にならない声をあげるマッチ売りの少女を一同は見つめる。
「冷たいのは……寒いのは……もうイヤなんだよ。
オレは……ただ生きたいだけ……。
死にたくない……ただ、それだけなのに」
「自分に降りかかる悲劇を知ったがゆえにカオステラーに付け込まれたのか……
お嬢、頼む」
彼女はうなづく。
「混沌の渦に呑まれし語り部よ、
我の言の葉によりてここに調律を開始せし……」
レイナがよどみない言葉で調律を開始する。
するとカオステラーに憑りつかれたマッチ売りの少女の身体が縮んでいき、
本来の姿であろう、まだあどけなさの残る少女へと変わる。
「うまくいったようだね」
エクスがホッとするのも束の間、
ガラガラと建物が音を立てて崩れ始めた。
「ここはヤバイ! 逃げるぞ!」
一行はマッチ売りの少女を背負って小屋から退避した。
「オイあんたら! 無茶するなよ! 死んじまったらどうするつもりだったんだい!?」
「ああ、すまない。どうしてもあの子を助けたくてね」
そう言って背負っていた子を指さす。
「彼女がいるなんてよく気が付いたな」
「うーん……。あれ? ここはどこ? 私は……」
気が付いたマッチ売りの少女にレイナは優しく声をかける。
「気にすることは無いわ。お嬢ちゃん。悪い夢を見ていたようなもんだから」
「そうですか……ところでマッチはいかが……あれ? 無いや。
さようなら。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
この寒空だというのに裸足、それもおぼつかない足取りで闇の中へと消えていった。
「これで……良かったのかな?」
とぼとぼと頼りない足取りで去っていくマッチ売りの少女を見て
エクスは疑問を口にする。
「何言ってるのエクス。これで良いに決まってるじゃない」
「悲劇を喜劇に変える事は出来ない。
私たちなら彼女を救えるけどまた新しいマッチ売りの少女が産まれるだけ。
彼女を救うなら、その後永遠に産まれ続けるマッチ売りの少女を
救い続けなくてはならないわよ。
……その覚悟はある?」
レイナとシェインが立て続けにエクスに言い放つ。
それが当然、1+1は2である事と同じように当然の事だと言わんばかりに。
かつてシンデレラの想区で教えてもらった。
自分たち空白の運命の書を持つ者は他人の運命すら変えられる力を持っていると。
もしそうした場合、空白になった役には新たな別人が就くことになる。
そう。ここでマッチ売りの少女を救ったところで
また別な人物が新たなマッチ売りの少女になるだけ。
お話自体を止めたり、変えたりすることは出来ないのだ。
「いや……それは……」
2人に気押されてエクスは言葉を詰まらせる。
「無いなら行きましょう。私たちは次の想区に行かなくてはならないわ」
「う、うん……分かった……」
あの時、1人夜の闇の中へ消えていく彼女を見て僕は思ってしまった。
そう。思ってしまった。
「これでよかったのか」と。
もちろんレイナやシェインの言う通り、これで良かったと言えばよかったのだろう。
ただ、ただ僕は彼女を助けたかった。いや
今後も終わることなく産まれ続けるマッチ売りの少女たちを救いたい、救い続けたい。
そう思ってしまった。
今思えばあの時の迷いが、あんな事が起こったきっかけだったのだろう。
そういう意味では忘れられない、いや忘れてはいけない事だった。
かつてマッチ売りの少女だった何か。 あがつま ゆい @agatuma-yui
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