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 その帰り道、金太郎は山を下りる途中に見つけた廃寺で、身体の疲れをいやそうと横になっていたのである。

 今、金太郎の目の前には、一振りの剣が地面に突き刺さって立っている。

 突如天より飛来し、廃寺の縁側の先に突き刺さったのだ。

 その剣を、初めは恐る恐る、そして今や眼を奪われたかのように、見つめている。

 見れば見るほど神々しい力を放つ剣だ。

 誰の剣なのだろう。

 いや、それよりもなぜ剣が天から降ってきて、今、俺の目の前にあるのだ。

 金太郎は廃寺の縁側から降りて、その剣に近寄っていた。

 近づくにつれ、その剣の放つ〝気〟のようなものがひしひしと身体に感じられる。

 そして、金太郎がその剣の柄に触れた時――その瞬間、彼は数メートルほど吹っ飛んでいた。

「――!?」

 いてて、と身を起こして頭を振るが、何が起こったのか、まだ理解できないでいる。

 剣が、光を放っている。いや、そう見えるほどの神の気を帯びているのだ。

 これは――

 金太郎は、ごくりと喉を鳴らした。

 不用意に剣に触れた手が、まだじんじんと痺れている。しかし、辛い痛みではない。むしろ、あたたかみのある痛み。

 傷ついた身体が癒され、細胞が活性化し、ふるい血が浄化されていく――そんな気さえする。

 そして体内を駆けめぐるその波動は、これを手にしていた者は、よほど凄まじい気を放つ人物であったのだろうと容易に想像がつくほどだ。

 やがて、その想像が一つの結論に達したとき、金太郎は戦慄を隠せなかった。

 すなわち、この剣の持ち主は人間ではない。

 剣自体がこれほどの気を放っているということは、この気を抑えきり、使いこなせる者でなければ、持つことなど不可能ということだ。

 そして、もしそれが出来るとすれば、通常の人間の数倍から十数倍の気を操ることの出来る存在ものでなければならない。

 そう考えた結果、それほどまでの気を抱えきれる者など人間ではなくなるのだ。

 では、何者なのだ?

 金太郎が自分の思考の世界に入ったとき、

「――剣だけが、この世に還ってきましたか……」

 いきなり声がかかった。

 愕然と声のした方向に眼を向けると、そこに、あの雲水姿の男が立っていた。

 手には錫杖を持っている。

 しかし、いくら剣に心を奪われていたとはいえ、金太郎は男の近づく気配すら察知することが出来なかった。

 何者だ、いったい――

 今度のこの問いは、雲水姿に向けられたものだ。

 この男は、俺が、瞋恚しんいの炎に心をとらわれ、物事を冷静に見る眼を失っていることを見抜いた。そして、そのことを悟らせようともした。

 それに加えて、この男は妖魔の存在を関知し、なおかつ、以前に鬼と戦ったとも告げたではないか。

 そして、今また――

「どういうことだ?」

「はい?」

 男がにっこりと笑いながら、剣のそばに移動した。

「知っているのか、この剣の持ち主のことを」

「ええ。直接出会ったことはありませんが、よく知っていますよ。もちろん、あなたのことも以前から、ね」

「なに?」

 どういうことだ、と問い詰める。

「まあまあ、そんなに怖い顔をしないでください。今から全てをお話ししますから」

「いいだろう。――ならば聞かせてもらおうか。神の戦士のこと。この剣のこと、俺のこと、あんたのこと、鬼のこと、そして、さっきから俺の頭ん中でちらつく一人の男のことをな」

「頭の中――?」

「ああ、そうだ。この剣に触れてからだ。急に、見たこともない若い男の顔がちらつき出しやがった。――もしかして、この剣と何か関係があるのか?」

「ええ。そこらあたりのことも、全てお話ししましょう」

 そして男は話し始めたのである。

 この世界の裏側で繰り広げられる、神と魔の凄まじい戦いの歴史を。そして、彼ら神の戦士に待ち受ける運命を――

                            完

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真・金太郎伝説 神月裕二 @kamiduki

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