残り27日 /3

20:35

「どうだった?楽しかったか?」

祭りの大トリも終わり、帰路の途中で聞く。すると澪は興奮したようにコクコクと頷いた。

「すご..かった。あんな近くでぶつかり合うの見たの初めて...!」

「そうだろう。そうだろう」

うんうんと俺は満足気に頷く。

我が街の祭りは少し変わっており、祭りの終わりに喧嘩神輿というものがある。街の中を練り歩き帰ってきた"2つ"の神輿が最後に3回ぶつかり合い、勝った方が本殿へ帰っていく。非常に危険だが迫力も凄い。

「あんな...あんないっぱいの人が思いっきりぶつかるなんて...!」

きゃーと小さな歓声をあげる澪。

(この子箱入り娘だと思っていたが結構血の気あるな...)

そう考えた時ふと疑問が浮かぶ

「初めて見たって言ってたけど、ボクシングとか見た事ないのか?プロレスとかさ、今どきwebサイトとか見れば見れるだろうしそういう格闘技系好きだと思うんだけどさ」

「知識では知ってる」

「知識では知ってる?」

なんだ..?何かこう..噛み合わない。何が————

「おーーーい」

後ろから声をかけられ振り向くとそこには葉月と花織ちゃんが自転車に乗ってやってきていた。

「お、葉月じゃん。お前家こっちじゃないだろ。どうかしたか?」

「いやぁ?お熱くて青いふたりが見えたからからかったろ思ってさ」

「いい性格してるよお前」

1時間ほど前の殺意はどこへやら、スッキリした面持ちの葉月。おそらく妹に絞られたんだろう。花菱家ではパワーバランスが花織ちゃん>葉月なのだ。

「花織ちゃんも一緒か、気をつけて帰るんだぞ」

スッキリした顔の葉月とは打って変わってくらい面持ちの花織ちゃん。その目線の先は俺に隠れ、チラチラと様子を伺う澪である。だがその暗い顔もすぐにいつもの元気な顔に戻る。

「えっあっはい!もちろんですとも!」

どん!と胸を張り答える。

「いつもの元気いっぱい花織ちゃんですよー!」

と、少しトンチキなことを言っておりあぁ...いつもの花織ちゃんだ。と安心していると

「あの...」

「ん、おおごめん。放ったらかしで長話しちゃった。なに?」

申し訳なさげに澪に裾を引かれながら言われる。

「そろそろ時間まずいかも」

「んえ?あっまじじゃん!!!」

澪に言われ腕時計を見ると針は21:10分になろうとするところである。

祭りに呼んだ際、澪から門限は9時半と言われていたのだ。

だが我が家はここから約2km。俺一人ならなんとかなるが祭りの時の少し走っただけでバンビになった澪の足では難しい。

———そうだ。

「葉月、チャリ貸してくれ。2ケツして澪のこと送る」

「いや...いいけど..俺明日朝から部活...」

「貸してあげたらいいじゃんお兄。バッグの中に誰も載せる人いないのに2ケツ用の足置き入れてるの知ってるんだからね?」

「お前いつ俺のバッグ漁ったの?!」

「よし、じゃあ決まりだな。明日返すからよろしく」

葉月を自転車からおろし、バックから足置きを取り出させ、一緒にセッティングしていく。当の葉月は「明日朝から走らなあかんのか...」などとぶつくさ言っている。だが、なんだかんだ言ってこの男こういうところは面倒見がいいのだ。

すまない友よ。今度飯奢る。

「いいか、乗ってる時は俺の腰に手を回せよ。よし、行くぞ!」

「...うん!」

「明日昼までだからそれまでに学校に持ってこいよー!」

背中に葉月の声を受けながら出発する。

出発する直前までは葉月に対して申し訳ないと思っていたがそんな気持ちはすぐに吹っ飛んでしまった。

ギシッと音を立ていつもより少し重いペダル。

重心が違うため少し乗りにくい。

速度が乗るまで時間がかかるなどのそんな不便なものも、腰の辺りに感じる細い腕の感触と背中に感じる澪少し高い体温。ぎゅっと俺を抱きしめてくれる澪への愛しさで書き換えられる。

「...重くない?」

「全く!」

自分を信じて体を預けてくれる人がいるというだけでこんなに嬉しいものなのかと思っていると澪に問われた。

「羽みたいなもんだよ!」

「ほんとに..?」

「ほんとだとも!こんなのでも昔はサッカー部だったんだぜ!」

少し恥ずかしげに言う澪に強がる。いや実際澪は細いから軽いのだが。

澪はふふっと笑うとさらにぎゅっと体を押し付けてくる。それに対し俺は少し体を強ばらせる。仕方ないだろ男だもの。

少しの劣情を紛らわせるため上をむく。

———するとそこは満点の星空であった。

「うおっすげ」

思わず声が出る

郊外の神社の祭りであったこと、2ケツのことを警察に咎められないよう田舎道を通っていたことが重なった結果の空である。

「澪、上見てみろよ。すごいぞ」

「えっ...?わぁ..!」

顔は見えないが澪が感動しているのは感じる。

「来年もまた一緒に来ような」

「————そう...だね」

また、この星々を。そうその時は思ったのだ。

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世界が滅ぶ前にしたい一〇〇〇〇の事 にらたま @arashi0831

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