残り27日 /2

pm 7:20

やあ ココノセ君。元気にしてたかい?」

「元気にしてたも何もさっき会ったばっかりだろ」

「そうだったね」

そういってケラケラと笑う神

すると、澪が俺の服のすそを引っ張ってくる

「———どうした?」

「.....誰と.....お話してるの?」

―———え?

「澪、お前は見えてないのか.....!?」

「ああ、それについては僕が話すよ」

いつの間にか近づいていた神はパチンと指を鳴らす

するとさっきまでの周りの喧騒が水を打ったように静かになる

「えっ?えっ!?」

俺が意味が分からず混乱していると神が口を開く

「ここら辺一帯の時間を止めさせてもらったよ

 話が長くなって澪ちゃんが不機嫌になっちゃったら困るからね」

ご丁寧に俺たちの関係を気にしてくれる神

「いやそれは有り難いけどなんで?」

「————んーとね、それは澪ちゃんが神様の存在を信じてないからなんだ」

「どういうことだ?」

「神を信じれば救われるっていうじゃない?」

うむ、キリスト教の常とう句だな

「それ、実際は神を信じるからそこに神様がいると認識できるんだ」

「いや、俺はあんまり信じてないぞ。

 最初お前に会った時も俺の頭が狂ったかと思ったぐらいだからな。」

「それでも僕の事は見えたでしょ?」

「うん」

「たいていの人間が神様はいると知らず知らずのうちに感じるのだよ

 その中でも一番『神様はいる!』と思うのは奇跡が起きた時だね

 ココノセ君にもあるだろう?奇跡が起きたことの一つや二つ」

「そうだな....」

そう思うと物心がつき始めたころに崖から落ちたことがあった

それでも『奇跡』的に無傷だったのだからそれが原因であろう

「じゃあ澪は奇跡を今までに体験したことがないと?」

「そう、それか体験はしたけどそれを奇跡と認識してないかだね」

ふぅん 取り敢えずは納得した だが、

「何でお前はここにいるんだ? 観光?」

「いや、呼ばれたんだよあれに」

言って本殿の方を指さす神

そこには神輿が置いてあった

「神輿?」

「そう、神輿 ここの祭りには初めて来たけど

 ココノセ君も知ってると思うけど神輿ってのは神様の乗り物なんだ」

「知ってるけど、ここの神様は毘沙門天だぞ」

そう、毘沙門天 れっきと知れた七福神の一人で戦いをつかさどる神様

歴史好きな人ならご存知かもしれないが、かの有名な上杉謙信が信仰していたことでも有名だ

そしてここの神社は上杉謙信の父親が建てたという事もあってか

県内外でも有名なパワースポットでもある

「そう、でもね神様ってのはあくまで一人なんだ」

「どういうこと———........ああそうか」

「お、分かったかい?」

「うん、あくまでも一人でそれはお前が全能だからできることなんだろ

 なんで全能かは知らんが、

 何でもできるからなんにでもなれる的なことだと俺は思う」

「おお正解! そんな賢いココノセ君には神ちゃんポイントを上げちゃおう!」

「神ちゃんポイント?」

「そう!集めても特にいいことは起こらないポイント!」

「いらねぇ!」

「まぁ、そんな冗談は置いといて、説明シーンはここら辺でいいかな?」

「ん、ああ」

「じゃあ、澪ちゃんとのデート楽しんできなよ」

「お心遣いありがとう」

「じゃあね―」

パチンと指を鳴らし時の流れを戻す神

そしてそれと同時にどこかに消えてしまった

「どう....したの?」

時間が戻ってすぐに澪が話しかけてくる

「ん、なんでもない」

そう言い返すとすぐに澪はわかってくれたようだった



pm 7:30


日はとっくに沈み、祭りの喧騒がさらに騒がしくなってきた

「人通りも増えて来たな....」

「そうだね」

「澪は人が多くても大丈夫なのか?」

「..ちょっと苦手だけど.....たのしいからがんばる」

「そっか」

そんなことを話しながら本殿の周りをぶらついていると

「九瀬先輩?」

「ん?」

またも声をかけられる

くるっと振り向くと後輩ちゃんがいた

後輩(香織)ちゃんとは葉月の妹である

兄貴とは違く平均以上の容姿を持ち、頭もそこそこいい

武道をしているので立ち姿も様になっている

今年の三月まで同じ中学校に通っていたが、俺の卒業のためあまり会うことはなくなった

それでもラインなどでは時々話す後輩の一人である俺の事を先輩と呼ぶことから後輩ちゃんと呼んでいる

「いやー奇遇ですね、九瀬先輩。おひとりで祭りをエンジョイ中ですか?」

「一人?」

「あれ、違いましたか?」

ああ、こいつも位置的に澪が見えないのか

後輩ちゃんがこっちを覗き込み

「—————っ!」

―———絶句する

変なところで似ている兄妹だ

澪は軽く驚き「ひぇっ....」と言っている

「こ、こちらの女性は誰でしょうか?」

「ん?」

あー....言っちゃっていいかな?

兄貴ほどこいつはおかしくはないしな

「んーとな、後輩ちゃんこの子は俺の彼女だ」

「.......っ!!」

ビギャーン!という効果音が聞こえそうなほどにショックを受けている後輩ちゃん

―—————そんなに俺に彼女ができたのにびっくりしたのか?

「そ、そうなんですか そいつぁびっくり」

あいたー と、一本取られた表現をする

使い方間違ってね?

「そ、それではっ!」

そう言って後輩ちゃんは振り向くこともなく走り去っていった

「.........なんだってんだ 一体」

「...わかん....ない」

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