第10話 真夜中の決戦

 人生にアクシデントはつきものだが、まさかこうなるなんて鎧を砕いた本人も思ってもいなかったようで安全な場所に移動させるまで待ってくれた。

「何かごめんな」

「いや、こちらこそ。それでジャネットは?」

「担当の死神が来てたみたいだからそいつに保護させた。真っ直ぐ帰らすように言ったから大丈夫だって」

「なら再開しようか」

 問題は起きたがお互いになかったことに。

 傍目から見たら滑稽な場面だが、見なかったことにしていただきたい。

「その前に場所を変えましょう。お互いに大事にはしたくはないでしょ」

「そうだな。しかし、移動は不要だ」

 そして彼は口を開き、嘘をつく。

「周りには大勢の人がいる」

「今度は何を?」

 一見何も変わっていないように思えるが雰囲気がガラリと変わっている。

「場所を変えたんだ。ここは誰もいない世界。どんなに暴れても構わないぞ」

 また特殊能力を使ったらしい。

 確かに人の気配が全くしない。これなら何をしても問題にならなそうだ。

「新しい世界をつくり出したっていうのか。計画が成功したらここで余生を過ごすつもりだったのか」

「まあな。別に眷属の枷の条件は十分に達成できていたんだが、刺激が足りなくてね」

「刺激?」

「俺が詐欺師をしていたのは刺激が欲しかったからだ。いつバレるかわからない感じが俺を震わせた。だがここにはそれがない」

「だからこんなことをしたのか。その考えどうかしてるぞ」

「理解されなくてやってるわけじゃない。邪魔する者はただ排除するだけだ」

 戦闘になろうという瞬間にゼロが割って入ってきた。

「待って、武器を持っているのを相手に素手は危険。これを持っていって」

 ゼロが手渡してくれたのは小さな鎌のようなものが二つと黒い宝石がついた指輪。俺はそれを知っている。

 どちらも暗殺者時代に愛用していた武器だ。

「これは……わかった」

 何時、何処でこれを手に入れたかは知らないが使い慣れた武器があるというのは心強い。

「準備はできたようだな。死神が眷属を殺せないという法則があって助かった。流石にあれを相手にはしたくない」

 眷属が死神を殺せないように、死神も眷属を殺せない。なので自然とクラウン対クロークの構図となり、今回の争いの原因が原因なだけに死神側の二人が手を出す必要はない。

「ゼロのことを知っているのか?」

「長くここにいるからな。しかし、それは本人に聞くことだ。俺は息をするように嘘をつくからな」

「ならその口を閉じさせるだけだ」

 特殊能力を封じるにはそうするのが一番だ。

 そして接近戦に持ち込めば分があるのは暗殺者時代に戦闘経験を多く積んだクラウン。

「地面から剣は生えない」

 地面から鋭利な剣がクラウンの喉を狙って飛び出るがそれを軽やかな足捌きで避けて更に距離を詰めようと接近する。

 それを嫌がるクロークは何度も同じように特殊能力で妨害してきたが、それは難なく躱された。

 あともう少しというところでクラウンの足は止まった。

 正確には止められた。地面の割れ目から出てきた蔓

によって。

「保険をしておいてよかった。この世界には事前に罠を張っていたんだよ。おかげで久しぶりに楽しめた。感謝するが容赦はしない」

 蔓は普通のそれとは違い頑丈で複雑に足に絡まっている。すぐに切って身動きを取れるようにしないといけないが急いで手元が狂ってしまうと自分で自分の足を傷つけてしまう。

「クラウンの頭上に隕石なんて降ってこない」

 絶体絶命の状況に容赦なく、一撃で相手を葬りされる嘘をつくクローク。しかし、彼の嘘は何も引き起こさなかった。

「どうやら本当の名前じゃないと効果は発動しないみたいだな」

 不発に終わり、戸惑うクロークにクラウンは手に握っていた鎌を投げつけた。刃の部分が長く、草ではなく人を刈りとるのに特化したそれはあらぬ方向へ飛んでいったように思えたが空中で急展開して狙い通りに敵の背中に突き刺さる。

「ぐぅ! 短剣は爆発しない」

 痛みに耐えながら短剣を放ち、特殊能力で反撃に出たが短剣は彼の横を通り過ぎて爆発することはなかった。

 これにはクロークも異変に気づく。

「一体何をしやがった⁉︎」

 ゆっくりと蔓を外したクラウンは近づく。

「ネタバラシをすると一回目に発動しなかったのは俺の本当の名前を知らなかったからだ。二回目は俺の特殊能力で発動できないようにした。その鎌を経由してな」

「鎌……、そういえばこれも妙な動きをしたな」

「それはこの指輪を使ったからだ。これは一応暗具で糸を射出して固定できる仕組みになってて、それを利用して軌道を変えたんだ。そうして俺の特殊能力、魂への干渉を発動したってわけ」

「魂への干渉だと」

「俺たち眷属は魂だけの存在だ。それに干渉できるってことはーーま、ここまで言えばお前ならわかるよな」

 この能力については鎌と指輪を受け取る際に聞いたものでこうも上手くいくとは思わなかったが、結果良ければ全て良しだ。

 クロークは諦めて能力を解放して元の世界へと帰してくれた。これからは裏でこっそりと過ごすそうだ。

 まあ、一応脅しておいたからもうこんなことはしないだろう。したとしてもまた止めればいいだけだし。

「一件落着ね」

「ああ、おかげさまで。さっさと帰ろうぜ。こんな物持ってるところを見られるのはごめんだ」

 指輪はともかく、この二つの鎌は言い逃れができない。

「その前に貴方の眷属の枷が決まったから伝えるわ」

「今じゃなきゃダメ?」

 頷くゼロ。

 こいつは人の言うことを聞かないからここは黙って従ってた方がいい。こっちが折れれば話が進むから折れてやろう。

「期限が迫ってるから」

「もうか。それじゃあ、教えてくれ」

「貴方の眷属の枷は複数の相手に好意を持たれること。明日までに最低でも二人に好意を持たれて。でないと貴方は消滅する」

 一難去ってまた一難。

 これで俺もあいつと同様、眷属の枷に苦しめられるようになったのであった。

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ハーレム・オブ・ザ・デッド 和銅修一 @ky1108

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