第9話 真実
ゲヘナにも夜という概念がある。
しかし、現世とは違い赤い月がのぼる。そして不気味なほど明るく、街を照らす。
基本、ゲヘナには夜に外出する者は少ない。
というのも眷属の枷はその担当の死神が独断と偏見で決めるもので、巻き込まれないようにと外出をしないようにと心がけているのだ。
それでも眷属の枷の期限が迫っている者は夜にもそれが達成できるようにも活動している。
そしてとある店に眷属が夜だというのに入っていった。しかし、そこにはお目当のものはなく代わりに二人の知り合いに待ち伏せされてしまっていたことを知る。
「待っていたぞ。やっぱり犯人は現場に戻ってくるもんだな」
店に来たのは一人の少女。
二人とも知っている少女だ。
「な、君は第一発見者のええ〜と」
「いや、俺の本命はそっちじゃない。どうせ一緒に来てるんだろ。顔を出してくれよ」
「まさか計画が見破られるとはね」
姿を現したのは今回の事件の被害者であるクローク
。これにはジャネットでも動揺が隠せない。
「そんな⁉︎ 死んだはずじゃあ……」
「ジャネット、お前はあいつの死体を見たか?」
「いいや。しかし、それは死神治安維持機構が死体を回収した後だったからでーー」
「じゃあ、その回収する前に誰か死体を見たって言う奴はいたか? 俺はな、お前がその自称第一発見者を連れて来る前に聞き込みをしてたがそんな奴は一人もいなかったぜ」
だというのに第一発見者がいるというのはおかしな話だ。俺が聞いた話だと客のいない店に多くの死神が入っていたのが原因であれほどの人が集まったらしく、つまりは誰かがこっそりと報告したのだ。
偽物の死体を用意してというのもできただろうが、それをしなかったのは既に消滅した後だと印象づけるためのものだろう。そうすれば死体がどうのだなんて考える者はいなくなる。
「つまりどういうことだ? 私たちを騙していたということか」
「ああ、大勢に騙すことが奴の眷属の枷だったんだ。この事件によって死んだという嘘を大勢に信じさせて、条件をクリアしたっていう寸法だろう」
俺が潜入して手に入れたのはクロークの情報。眷属の枷も書いてあって、そこからこの事件の犯人が被害者自身だったということを突き止めることができた。
「大正解だよ。まさかこうも早く見破られるとは計算外だ」
「どうせ生前商人っていうのも嘘なんだろ」
あの時、客がいないのにどうしてあんなに余裕そうだったのか疑問だったけど稼ぐ必要がないのなら頷ける。
「まあね。ここまできたら隠す必要ないか。新人だからチャンスだと思ったんだけどね。けど、ここまできたら残された選択肢は一つ」
クロークは短剣を取り出して戦闘態勢に入った。
「待て、何も争う必要はないだろう。一旦、落ち着いて話し合おうではないか!」
「無駄だ。俺たちが真実を白日の下に晒したらこいつらの計画は破綻する。そうなる前に俺たちの口を封じようとしてくるのは当然だ」
「それを知っていて来たっていうことは勝ち目があると思っているのかな」
「まあ、生前色々やっててな。戦闘には自信があるんだ。それに新人の俺が死んでないなんて言っても誰も信じない可能性が高いから大元を叩くのが確実だと思ったんだ」
それに信じてもらえたとしても計画を妨害した俺たちを許すわけがない。
となると、こっちの方から仕掛けた方がいいと思ったわけだ。これが吉と出たかわからないが。
「いい判断だ。けど俺を舐めてもらっては困る。生前、詐欺師だった俺の嘘をな」
「嘘をついて何になると言うのだ! そんなもの一時凌ぎにしかならない。自分の言葉には信念を持ってーー」
「ジャネットの鎧は破壊されない」
唐突に謎の発言をしたクローク。
直後、ジャネットの鎧は粉々に砕け散った。
「これは警告だ。戦闘には自信はないが嘘には自信があってね」
「な、何だ今のは」
「いわゆる特殊能力よ。一部の眷属に与えられてるわ」
答えてくれたのは身を隠して付いて来ていたゼロ。
「ゼロ、随分と早い登場だな」
「だって片方は死神で一人戦闘不能になったから」
確かに目を見てみると赤い。
あの時はその特殊能力とやらでそれを隠していたのか。
けど誰が戦闘不能になった?
「戦闘不能? でも鎧が壊されただけだろ」
ジャネットは傷一つついていない。まだ戦闘不能ではないように見えるが。
しかし、俺は彼女の目が微かに潤んでいるのを確認した。
そしてそれは徐々に膨らんでいき、遂には爆発した。
「うわ〜〜〜ん‼︎ 私の鎧がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎」
夜の街に響く鳴き声。
先ほどまで堂々とした態度とは打って変わってまるで別人になったみたいだ。
「彼女は二重人格で鎧がないと子供みたいになるの」
「嘘だろ……」
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