第8話 ピエロの過去

「ここなら安全。それじゃあ事情を説明してくれる?」

 抜け道のおかげで見つかることなく、死神治安維持機構本部の脱出に成功した俺たちは安全な場所ーーつまり俺たちの家に到着した。

「成る程。面倒なことに首を突っ込んだのは分かったわ。それで犯人の目星はついたの」

「まあな、それについてはもう犯人に直接会いに行くだけだ。お前が止めなければの話だが」

 必要なものは先ほど入手した。これで言い逃れなどできないはずだ。

 唯一の障害はこの計画を知ってしまったゼロだけなのだが。

「別に止めない。だってそれをするかどうかは自由だもの」

「でも他の眷属の邪魔をしたってバレたらお前の立場も危ないだろ」

「大丈夫、代わりはいくらでもいるもの。それがどんな風になっても何も言われないから」

 随分と嫌な言い方だが、今の俺たちにとっては好都合だ。

「あっそ、じゃあこの件は自由にやらせてもらうとして俺の話をしようか」

 いつまでも過去に囚われていては前に進めない。

「うむ、待っていたぞ。詮索するのは無粋かと思ったが名は自分を表すもの、それを偽るのは許せない」

「偽るというか俺には二つ名前があったんだよ。一つは汚れた名前だから使いたくなかったんだ」

「汚れた名前?」

「ああ、俺は生前暗殺者だったんだ」

「暗殺者……、人を殺していたというのか」

「本当は親父の意志を継いで騎士になろうと思ってたんだが王様の命令でな。立場上従うしかなかったんだが、殺したのには違いない。王様が病で亡くなってからは自由の身になって、それからはサーカス団に入団して活動してたんだ。クラウンはその時の名前ってわけ」

 だからゼロに名乗る時にどちらにするか一瞬迷ってしまった。結局、逃げるように暗殺者時代の頃の名の方は口にしなかった。

 あんな個人情報が詰まった紙がこうも簡単に手に入るならゼロはこのことを知っていたんだろうけど。

「色々と苦労したんだな」

「怒らないのか? 正義がどうのって言ってたお前としては殺人になんて以ての外だろ」

「うむ、殺人は許せん。だが私もここにいる以上同じだ。私に責める権利などない。それにその罪を償おうと覚悟しているのなら尚更だ」

「ありがとな。お前のそういうとこは好きだな」

「す、好きとかそう簡単に言うんじゃない! 全く……、しかしこれを聞いたからには私の話もしないとな」

「いや、別にいいよ」

「私は騎士と言ったがそう褒められる存在じゃない」

 別にいいと言ったのに勝手に話を始めた。

 こういうとこは好きじゃない。そんな俺の気持ちを知らないでジャネットは語る。

「騎士は王に仕える身。しかし、私の国の王は民を苦しめていた。いわゆる絶対王権というものだったわけだが、私はそれが許せなかった。なので王に民のことも考えるように進言したが耳を貸してくれなかったので最終手段をとらざるを得なかった」

「最終手段?」

「反乱だ。国は王で成り立っているのではなく、民で成り立っている。それを知ってもらいたくて私が中心となって起こしたのだが、民の怒りは予想を遥かに越えていて……王は民の手によって殺害された。私が殺したも同然だ」

「けど、それは王様が悪いだろ。自業自得ってやつだ」

 自分勝手な王は嫌われて当然だ。それが民に被害が出ているのならそういった結果になったとしても同情のしようがない。

「それでも原因となったのは私だ。償いとして王女と王子は逃したが、その時に言われたのだ。お前は偽善者だと。偽善では何も救えないと」

「だから正義、正義って連呼してたのか。でも意識してやるのは何か違う気がするぞ。いつも通りにしてるのが一番だろ」

 というかそれが素なのか?

 それはそれで凄いが。

「しかし、それでは生前と何も変わらないのだ。変わらなくては……」

「口を挟むようで悪いけど、貴方のような眷属は多くいるわ。ここはそういうところだから」

「けど一人で悩む必要はないだろ。お互いに過去を知った仲としてこの事件を解決した後もよろしくな」

 こんな知り合いが一人もいない世界では信頼できる仲間が必要だ。

 ジャネットは少し変わっているが信頼はできる。

「む、ああ。こちらこそ」

 握手をして互いに仲間関係を築いたところでゼロが咳払いをして、割って入った。

「話は済んだ? それじゃあ、犯人を捕らえに行きましょう」

「ゼロ、お前もついて来る気か?」

「保険として。無論、貴方たちでどうにかなるものなら姿を現さない」

 なるほど。

 じゃあ、ゼロが出てくるような場面にならないことを祈ろう。

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