第7話 脱出
「それにしても想像以上の数だな。消滅した眷属のも残してるってことか」
通りで狭いわけだ。
しかし、管理がこんな杜撰なのは眷属となった身としては少し複雑な気分だな。
けど、これなら一枚や二枚なくなっても気づかれなさそうだ。
「ここから犯人の目星をつけるのは時間がかかりそうだな」
枚数は全てに目を通すのには一日だけでは足りないほどのもので、そこから犯人らしきものだけを区別するにはその倍の時間を要するだろう。
「いいや、見るのは一つだけでいい」
「一つだけ? 殺人かそれに近いものが眷属の枷であるのを探せばいいのだろう? そしたら一つとは限らないのでは」
「そんなのいくらでもあるだろ。それに見つかったとしてその中から誰が犯人かなんてどうやって断定するだ?」
「ん〜、本人に直接聞くのはどうだろうか。こちらが弱点である眷属の枷の情報を握っていると知ったら白状するのでは」
「俺らがここに潜入したのもバレるぞ。そうなったら損するのはこっちだ」
犯人が眷属の枷関係で殺人に至っとするとここの連中は必ずそっちの味方になる。ここでは人を殺しても罪にはならない。
「ふ〜む、では手の打ちようがないではないか!」
「だからこうして隠密行動してるんだよ。今回は犯人を見つけたら勝ちだ」
「勝ちというのは?」
「そのまんまの意味だ。ほら、あった。じゃあ帰るぞ」
目当てのものは見つかった。
これ以上、長居はしてはいられない。
「クラウンが言うなら……」
説明をしてないせいか不満げだが、こんなところで悠長に説明している暇なんてない。
早々に立ち去るように促すと急いだジャネットが足元にあった紙の束に躓いてしまう。
「いたた……。む、これは⁉︎」
「何か見つけたのか知らないけど急げよ」
「いや、それが偶然クラウンのを見つけただが、名前が違うと思ってな。これは何かの間違いか?」
そう言って突き出した紙には紛れもなく俺の情報が書かれた紙でそこに記載されている名前はあの頃のものだった。
「それは……」
言えない。
きっと俺の過去を知ったら正義を愛するこいつはきっと失望するだろう。まだ会って間もないが自分の口からそんなことを話せない。
「それは彼の本当の名前。クラウンは偽名よ」
「ゼロ⁉︎ どうしてここに」
「プルートが気づいたの。それよりどうしてここにいるか教えてもらえるかしら」
これは言い逃れできそうにないな。
「わかった。全部話すよ。でもまずはここを出てからにしないか? 流石に勝手にこんなところに潜入してるのが奴らに知られるのはお互いに嫌だろ」
制服を着てないからゼロは死神治安維持機構に所属していないのは一目瞭然だが、自分の眷属が悪さをしたら担当である彼女が責任を取らされるのは必然。
となるといくら機械のような堅物でも自分のためにここは見なかったことにするしかない。
「そうね。じゃあ私について来て。誰にも見つからない抜け道に案内するわ」
やはり堅物でもこれは逆らえないようで思惑通りに事が進む。
「ああ、助かる」
「うむ、ゼロ殿。それは助かるがクラウンが偽名だという件は安全なところに移動したら続きを教えてくれないだろうか?」
いつものジャネットにはない圧力がその発言からは感じられた。少し頭のネジが外れたおかしな奴と思っていたけど認識を改めないといけないな。
「本人に聞いて。彼にも選ぶ権利くらいあるはずでしょ」
「ゼロ……ありがとな。自分から話すとするよ。いつまでも過去から逃げても意味ないし、ちょうどいい機会だ」
ここはゲヘナ。罪を償う場所だ。
許される罪なんてものはないが、それを償うのはできる。それをする勇気が必要なだけで。
ゼロに抜け道を案内してもらいながらもう逃げないと俺は心に決めた。もうあんなことが起こらないためにも。
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